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幸(サチ)

昭和5年に生を受け、7人兄妹の次女として育った。この時代、中国との戦争が続いており、家電が富裕層で出回りかけたが、一般市民は生活苦が当り前であった。兄妹の中でも長く生けていけず、早々と眠りにつく時代であった。贅沢という言葉も知らず、毎日を平穏無事に過ごすことが家族の幸せであった。終戦を迎え、京都にて勉学を励み、1人の男性と出会い結婚に至った。この時代での恋愛結婚はまだまだ珍しかった。秋元の名を変え、永谷幸として相手の家に住み入り、生活を共にしたが義理母や義理姉は私に必要以上に嫌がらせをしてきた。何もなかった時代に、ボロボロの教材で勉学に励み、知恵をつけている私を妬んでいたのだろう。長屋ということもあり、家事の手順、掃除の仕方、することなすこと厳しくされたが、優しかった主人は、私の味方についてくれた。また、愛する息子が義理娘を庇っていたことも気に食わなかったはずだ。逃場もない、秋元の家に戻ることも許され無い時代、主人への愛だけで生活をするうちに、最愛の我が子を身ごもった。嫌がらせをしていた、義理母、姉も産前産後は人が変わったみたいに面倒を見てくれた。ただし、主人が亡くなるまでは。順調に育っていた我が子が小学校に上がる頃、主人は胃がんを患い呆気なく死んでしまった。弟を溺愛していた義理姉は豹変し、我が子を痛めつけるような態度をとった。私になら我慢できたが、息子への態度は断じて許せない。今まで自身にされてきた酷い仕打ちが昨日こことのように思い出され、こんな家には住んでられない、息子を守るため家を出ることを決心した。幸い、学歴を買われなんとか職を貰える事ができた。秋元の実家は長男夫婦で回っており、父親は嫁いだ娘を迎えるほど柔軟な性格ではなかっため、何とか親戚内を頼り、古い家を家賃無しで住まわしてくれることになった。母子の家庭を快く受けいれない近隣住民もいたが、少なからず支援してくれる人もいた。女が前へ出ることはご法度だっため、知恵や技術があってもお給金が上がることはなかった。庭で野菜を栽培し、鶏を飼育し何とか衣食住が落ち着く頃には、息子は既に成人し、恋人を見つけて婚約するまでになっていた。連れてきた嫁は学があり、気の強い女性であった。孫を楽しみにしていたこともあり、同居を始めたが、嫁に対し嫌悪を抱く自分がいることに気がついた。永谷の家で受けた仕打ちと同じように、義理娘に嫌がらせをしてしまっていた。自分が何も無いところから、ここまで住めるようにした家に感謝もなく、自身が育った環境を変えることが許せないようだ。最愛の息子が嫁と私に挟まれ、肩身が狭い思いをしていることも知っていた。長女が誕生し、産後の体調も良いことから、息子夫婦は近場に住居を移すことになった。

1人になって、今までとこれからについて考える時間が増えた。結婚して子を設けてからは、目の前の生活に追われていたが、息子も家庭を持ち私の出る幕はもうない。その頃にはもう両親も歳をとり、兄が家を継いでいた。早くに亡くなった主人は愛していたが、永谷の墓に入ることだけは嫌だった。息子夫婦の理解を得て、25年名乗っていた永谷の性を秋元に戻すことに決め、自身が入る墓を建てた。時々、顔をだす孫は可愛くすくすく成長していった。義理の娘も母としてしっかりやってくれている。あのまま歪み合っていたら、永谷のように疎遠になっていたかも知れない。始め、1人になることは寂しさや世間体が悪かったが、あの時の決断は間違っていなかった。仲の良い友人には散々1人息子を、外に出してはいけないと言われていたが、今は満足している。孫も3人となり、成長した孫は私を気にかけ、家を訪ねてくれる。いつ来てもいいように、冷凍庫にはアイスを常備していた。趣味の三味線を弾きながら、絵画を嗜み、大阪の妹とご飯する楽しみもある。兄妹はもう唯一妹しかいなかったが、古い友人が家を訪ねてくれることもあった。

私の人生、辛い時間ばかりではなかった。辛い経験を半面教師にできたことも、自分を誉めてあげたい。永谷の墓と、誰も眠っていない秋元の墓を綺麗にして手を合わせ、私は主人の元へ駆けつけていった。

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