2人きりの部屋で……
「つばめちゃーん、起きて……」
心配そうなゆりの声が部屋に響いた。
「ん、天井……保健室…………?」
(違う、さっきまでゆりとデートしてたし)
「あー! 起きたー!」
「わぁ! ゆ、ゆ、ゆり……」
初めて見る部屋、隣で自分を見つめるゆり。
「じゃあ、ここって…………」
(ゆりの部屋じゃんかー! 人形いっぱいで可愛いすぎる! なんかいい匂いするし! ベッドふかふかだし…………ん? ベッド?)
「わあああああああああああ!」
この時つばめは気づいてしまった。自分がゆりのベッドで寝ていることに……
「ご、ごめん……ここゆりのベッドだよね……?」
「ん? そうだけど、なんで謝るのー?」
「そ、その……私なんかが……さ?
ゆりのベッドで…………寝て……」
「私なんかじゃない! つばめちゃんは私の超かっこいい彼氏なんだから!」
(か、彼氏……なのか? 彼女……、まあ今はどっちでもいいか……)
「で、でも……さ……」
「良いの! 私が良いって言ってるんだから!」
「う、うん…………じゃあ、ありがとう?
その……凄いふかふかだった……」
「素直なつばめちゃんも可愛いー! ぎゅーしてあげる!」
「え、えー!?」
ベッドの上に倒れ込む2人。
伝わる体温、高まる鼓動……
(ゆ、ゆり……の…………が……あたって……やわらかっ……んん……キャーーーーーー! ギブギブギブギブー!)
コホン……深く語るのはやめておこう。
ええ、詳細はご想像にお任せします。by作者。
「あのさ……つばめちゃん……」
「ん、ん? どうしたの?」
「好き……」
甘々な空気の中、つばめの首筋に鈍い痛みがはしる。
「いてっ……ちょ、ちょっとゆり! 何してんの…………」
「あんへふ……」
「噛んでるね、それは見たら分かるけどさ……
きゅ、急に……」
(可愛いじゃないかー! 急にカプって! 噛み方も優しいし! な、なんか……良いかも……)
「そ、そのさ……なんで急に噛んだの……?」
「ふひあほん……」
(な、なんて…………?)
ゆりがつばめの首筋から顔をそっと離す。
そして首筋に残る歯型を指でなぞり、つばめの顔を覗き込みつぶやく。
「好きだもん!」
「でも……急にごめん……嫌だった……?」
(いえ! めっちゃ最高でした! ご褒美です!)
「い、いや……そんな事無いけど…………」
「ほんと? 良かったー!」
(か、可愛い……)
「噛みたい………………」
(ん? え? 何言ってんだ私ー!)
無意識でつぶやくつばめ。
「いい、よ……」
(いや、いいんかーい! そ、それじゃあ……)
特に深く考えず答えるゆり。
もちろんここまでくると、つばめも引き下がれない。
「じゃあ、覚悟してね?」
完全に暴走状態である。
今のつばめには理性の欠片も残っていない。
大丈夫かな……いや、大丈夫じゃ無さそうだ。
「い、痛いよ……つばめちゃん…………強い…………」
「あっ……ごめん…………」
「ううん……その……痛いけどなんか……ね……?」
「うん…………」
沈黙が訪れる。なにか微妙に気まずい。
さっきの甘々な空気を返せー!
そして、気まずい空気を取り繕うかの様にゆりが提案をした。
「そ、そうだ! ねぇ、つばめちゃん……今日泊まって行かない?」
「え……? いいの?」
「うん! 一緒に寝たい!」
「じゃ、じゃあ……」
「あっ、でも着替えないし……やっぱり帰る……」
「大丈夫、私の貸すから」
(ゆ、ゆりの服ー! 彼シャツ? いや、彼女シャツ……か?)
「うん! じゃあ、泊まる!」
「う、うん……」
つばめの勢いに圧倒されるゆりだった。
つばめ……テンション上がりすぎだよ……
「あっ! そういえばゆりの家族の人は?」
「いない……」
「え?」
「お父さんもお母さんも仕事で今はいないの」
「あぁ……なんかごめん…………」
「う、ううん! ちょっと待ってて!
ご飯準備してくるね!」
ゆりが逃げるように部屋を出る。
つばめは無意識に天井を見て右手を伸ばした。
「なんか悪いことしちゃったな……」
と、つぶやくつばめだった。
・ ・ ・
「つばめちゃーん! ご飯出来たよー!」
「あ、うん! 今行くー!」
(リビングってどこなんだろう……とりあえず探すか……)
「あ! あったー! ここだー!」
「うわっ! ロールキャベツだ! 美味しそう!」
「えへへー、張り切っちゃった~!」
(ゆりって料理できるんだな~、天才!)
そう。つばめは料理が苦手なのである。
2人はアイコンタクトを交わし手を合わせる。
息を合わせて……
「いただきます!」
元気な声が部屋に響いた。
いやぁ、ほのぼのしてて良いね!
「ねぇねぇ、つばめちゃん?」
「ん? どうしたの?」
「はい、あ〜ん!」
(え、あっ……いや……キャーーーーーー!
う、嬉しいけど……)
「あっ……いや、その……」
「ごめん、嫌だった…………?」
上目遣いで話してくるゆり。うん。もちろん可愛い。
こりゃ誰でも断れないよね!
「い、いただきます……」
「はい! あ~ん!」
「!」
口の中に広がるスパイスの香り、だがどこかまろやかだ。
きっとコンソメが中和しているのだろう。
さらに口いっぱいに広がるジューシーな肉の味の甘さ、それをキャベツの甘さががさらに引き立てる。
「ゆり……君は天才だよ……」
「えへへー! 張り切ってよかった~!」
と言い無邪気に笑うゆり。やっぱり可愛い。
そしてスプーンでスープをすくい1口。
(か、か、か、関節キスだーーーーーー!)
つばめは堪えようのない喜びと恥ずかしさに襲われ小刻みに震える。
「つばめちゃん? だいじょ……」
「だ! い! じょ! う! ぶ!」
「う、うん……ならいいんだけど……」
またもやゆりを困らせるつばめであった。
ゆりよ、やり返すんだ! by作者。
そんな声が届いたのか届いていないのかは分からないが……
「ねぇねぇつばめちゃん?」
「ん?」
ゆりが優しく囁く。
「関節キスだね……」
無事つばめは気絶。はちゃめちゃな1日は終わりを迎えた。