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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第一章
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対処

「今日は大活躍だったね」

会議終了後、クニサダが声をかける。笑顔で深々と頭を下げるタケトに対して、クニサダは笑って頭を上げるように促す。

「論文を読んだり書いたりしてるうちに、いろいろ疑問点を見つけて突っ込む力が身に付いて… 要は揚げ足取りですよ」

「そこまでへりくだる必要はないよ。やはり君に預けて正解だったな」

「恐縮です。本当に優秀ですよ、彼は。俺にはもったいない弟子です。というか、そちらにいた方が同系統の術も勉強できるし、将来のためにも良かったのでは?」

「逆だよ。彼の才能なら、私たちの術は後から勉強しても直ぐに自分のモノに出来るだろう。むしろ、もっと自由な発想で術式を成長させてほしいのさ。それに」

「それに?」

「今のうちから組織にどっぷり属してしまうとね、将来確実に上に立つ人間だ。取り入ろうとすり寄ってくる者が必ず出てくるだろう。それは、それこそは彼の将来を考えると良くないことだ」

笑い話にしようとしたのだろうが、その顔は苦々しい思い出でも混じってしまったのか、少しひきつっており、組織を纏めることの大変さがにじみ出ていた。この人もまた、若い時分から才能を評価されて組織の中で『大切に』育てられた人物。故に後継者候補への気遣いも人一倍なのだ。

「そう言えば、今日は連れて来ていないのかな? 久しぶりに会えるかと思っていたのだが」

「あ、それは申し訳ないことを…」

「これっきりというわけじゃあないんだ。別に構わないよ。ただ、どうしたのかと気になってね」

「先程の話に繋がるのですが、例の連中の対応を任せておりまして。彼もなかなか周到な性格ですから指示が出た時にはもう逃げた後、なんてことにならないようにと自主的に張り込み中で」

「クソ真面目は相変わらずか」

クニサダが声を出して大笑いする。タケトも笑うが、若干の遠慮気味。

「真面目は真面目ですが、それでもあっち方面の連中への対処能力は俺以上ですよ。なので、日頃のストレス発散も兼ねて今回もお願いした感じで」

「彼も師に頼られて気分が良いだろう」

「だといいんですが…」

未だに師とは呼んでくれない弟子に距離を感じるタケト。おまけに他にも頭の痛いことはあり…



~同時刻・某事務所~

「へっぷし… 誰かが噂… とすればタケトさんだろうなぁ… 困った人だ。そう思いません?」

とある事務所の一室。十数人の組員が血塗ちまみれで横たわり呻き声をもらす。そんな中、ただ一人綺麗な顔で、ゆったりと組長の椅子に背中を預けて冷静に見下すセイヤがいた。

「ぐ… ッタレが… んなことしてタダで済むと…」

「思ってるよ?」

力を振り絞って、片膝肩肘で踏ん張りなんとか立ち上がろうとする者が一人。あの取引の時に買い取り側にいた術師だ。筋者お得意の脅し文句を講じようとするも、平然とした態度で言い返されぐうの音も出ない。その言葉に見合う実力は見せられたばかりなのだから。

「それよりさ、ちゃんと聞かせてくれないかな? あの尾のことを知ったのは話を持ちかけられてから?それとももっと前から? 手に入れてたらどうするつもりだったの?」

「はっ… 今さらんなこと知ってどう…」

「さっさと質問に答えろよ」

表情も声質もそのまま。しかし、感じられる呪力が明らかに冷たく、そして禍々しいモノに変わり、傷だらけの肉体に突き刺さる。

「ああ、すまないね。でも君らが悪い。僕の予想通りすぎる行動パターンなんだから。だから最初に足止めせざるを得ない。うん。君らが悪い」

あまりにも一方的な意見の押し付け。だが、もちろんその通りではある。セイヤの予想通り、彼らはセイヤの姿を見るなり攻撃したり、逃げたり、援軍を呼ぼうとしたり、と耳を貸すこともせずに排除しにかかったのだから。しかし、彼らにもそうせざるを得なかった言い分があり…

「いきなりよ… 目の前に知らねえ男が現れてみろよ… あの夜の後だ… 過敏になるも当然だろうが」


~同所・数分前~

「クソッ! まだ何も無えのか!?」

組唯一の術師の男が苛ついている。あの取引の夜からずっとこうだ。この一人でピリピリし続ける空気の悪さに、さすがに他の組員もうんざりしてきている。と、一人の男がたまらずに言葉に出した。

「いい加減にしろよ。何も無いってことは無罪放免ってことだろ? 気にしすぎなんだよ。舎弟共も居心地が悪…」

「んなわけあるか!!てめぇらは協会の連中を知らねえからんな余裕ぶっこいてられんだよ!! ましてやつくもだぞ? あの化物が…」

言葉途中に怒鳴り声を上げられ驚くも、今度はその態度に怒りがこみ上げる。この数日、そして以前からの積み重ねが一気に破裂する。

「マジでいい加減にしろや! 術師だか超能力者だか知らねえが俺より立場は下だろうが! 調子こいてんじゃねえ!」

立ち上がり、見下しながらドスの利いた声で脅しをかける。『立場』というものを重んじる組織。特別な能力があろうと定められた階級を軽々しくひっくり返す言動はタブーなのだ。

「そもそも、今回のはてめぇの独断。オジキに通したのも取引が決まった後って話じゃねえか。てめぇで責任も取れねえのによ…」

「…うるせえよ」

「あ?」

「何が立場だ。この場の全員がかりでも俺を殺せやしねえくせによ。弱えくせに、立場に甘んじて調子こいてんのはどっちだよ!!」

「「んだてめぇ!!」」

聞いていた組員全員が立ち上がり詰め寄る。取引失敗から5日、向こうの事務所には直ぐに何かがあったと情報が入っていた。だからこそ、こちらにも間も無く術師が派遣されて何らかの処置が行われると思っていた。それは非術師である他の組員も同様だった。彼らもまた、タケトの『盗まれた情報』を買っていたのだから。つまり、この場の全員が既に神経が磨り減った状態であり、日頃の鬱憤も弾け易い状態であった。むしろタケトの思惑はそこにあり、セイヤもそれを汲んでいたからこその静かな張り込み、いや、潜伏だった。

「うん。わかるよ。弱いくせに威張るやつってムカつくよね。でもさ、弱いのにそういう立場にいるってことは別の能力が高いからってことじゃない? その辺も理解出来ないような筋肉バカ… いや、呪力バカ? ってのもっておいおい…」

突如、組長の椅子にゆったりと腰掛けている見たことの無い男が現れてパニックになる。と共に全員が懐に隠し持っていた拳銃を取り出してセイヤに向けて発砲する。

「まったく。ここ、街中だよ? こんなに銃声がいっぱいしたらさ、さすがに君らもアウトでしょ? もう少し行動を起こす前にいろいろ考えるべきでは?」

呆れるように、それでいて予想通りだとでも言うように、セイヤは態勢そのままにゆっくりと諭すように語る。だが、ほとんどの組員はそれどころではない。何しろ発砲した銃弾はセイヤに辿り着くことなく空中で静止していたのだから。

「守護の護符。四天流の符術師か。はっ! 所詮は防御や目眩ましに特化した護り屋。守ってばかりじゃ俺らは止められね…」

言い終わる前に術師である彼を含め全員が倒れる。守護に特化したと思っていた護符が、鋭い刃となって部屋中を飛び回り切り刻んだのだ。その際の絶叫も先程の銃声と同じく『守護に特化』した護符による結界で封じられて外には聞こえない。

「ッタレが…」


~現在~

「ま、理由なんて想像に容易いけどね。そこの術師さん、最近行動が目立ってて他の組にも知られてたじゃん? だから、たまたま尾を手に入れた彼らから取引を持ちかけられた。で、その力があれば一気に勢力拡大って上を説得。本当は自分がこの世界で上にのしあがるための方便だろうけど」

男ばギクリとする。そして次の瞬間青ざめる。

「ほおら、やっぱりね」

とセイヤが目の前で顔を覗き込んでいた。反撃の体力が無いのはもちろんだが、それ以上に飲まれて萎縮してしまったのだ。最初からこの場はセイヤに支配されていたと言っても過言ではない。

「うちの師… タケトさんからついさっき指示があってね。実行に移してOKだって」

もはや言葉に出せる余力はないが「何を」と言いたげな顔をしているのがセイヤにもわかる。


「何をって…」


「もちろん君たちの処分だよ」


静かに、静かに、命令は遂行される。

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