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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第八章
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宣戦布告

「マジで行くのかい?」

「あぁ」

ここではない空間。何処かの暗黒。黒幕の一味の声が響き渡る。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ただの挨拶みたいなもんだからね」

「………」

「ちゃんと許可は取ったよ。怒られるのは嫌だし、俺の目的のためにも失敗は勘弁だし」

「…それでも行くのかよ」

「それでも行く。でないと気持ちが収まらない。それこそ今後の任務に支障をきたすよ」

声が聞こえなくなる。どうやら一人が何処かへと向かったようだ。残された者はその行為を好ましくは思っていないらしい。が、それを止めることはしない。彼の性格を知っているからこそ、危険ではあるが、それが一番良いことだとも思っているからだ。

「無事の帰還を祈るか… って、何に祈るってよ」

自嘲するように鼻を鳴らす。そして再び闇は音を失う。



「え?もう終わったの?はやっ!」

「そんなに驚くようなスピードでもないでしょ。あれからどれだけ時間が経ったと思っているの?」

「甕丸様の件から3ヶ月。デバッグだけでも足りないのが普通じゃないの?」

協会にて、進捗報告会をしていたタケトとミサト。相変わらずタケトはミサトの仕事の速さに驚くばかり。

「普通じゃダメでしょ。敵はこっちに合わせてはくれないわよ?」

「う… 自画自賛じゃないけどさ、俺もけっこうやれてると思ってたんだけどなぁ。君を見てると、ほんと自信無くなっちゃうよ」

力なく笑いため息をつくタケト。そして呆れるミサト。本当に相変わらずである。

「私が頑張るのは、あなたに負けないように、よ。真正面から同じことをやっても勝てないから、違う方向から突っ込んで横っ面ひっぱたこうとしてるだけ。私の負けず嫌い、知ってるでしょ?」

「なんか既に負けてそうな気もする」

「やかましいわよ。泣き言言ってる暇があるなら努力しなさい。知略謀略で荒らして、暴力で捻じ伏せなさいな」

「はは。了解。敵はしっかり捻じ切るよ」


会議を終えると、ミサトが久しぶりに帰宅するというのでタケトが見送りに一緒に外に出る。ミサトは二週間ぶりの屋外だ。

「んっん~太陽眩し~そして寒っ!」

背伸びをし、そして春だというのに真冬のような寒さに思わず叫ぶ。

「なんか最近天気悪いよね。例年より気温も低いって。何でだろ?」

「知らないわよ。天気予報でも聞きなさい。もしくは神様に聞きなさい」

「聞けるか!」

本部を出て右折。駅までの道。タケトは車道側を歩く。紳士の嗜み。ミサトに突っ込まれないように振る舞う。出来るようになったじゃない、と言わんばかりに鼻で笑う。穏やかな時間が過ぎる。


はずだった。


二人の歩みが止まる。明らかに気温が数度下がった。寒さで、そしてとてつもない負の感情を纏った力が周囲を覆ったことで、動くことが出来ない。

(後ろに何かいる)

そう気づいても振り返ることが出来ない。さらには幻術だろうか、景色も奇妙な色合いのマーブル模様に蠢いている。

(いや、動かなきゃだろ!俺でこれなら耐性の無いミサトがヤバい!)

タケトがなんとか纏わりつく呪力を振り払い、そして振り向いた。

そこにいたのは小柄な男。見覚えはない。だが、タケトにはそれが誰だか直ぐにわかった。

「船の、黒幕の一人、だな」

「話がはやい。そうだよ」

男は右腕を上げた。その腕は手首よりも少し上からが失われていた。間違いなく、船上での戦いでタケトが霧散させたもの。開戦の予感。タケトはミサトを守りながらどう戦うべきか思考を巡らせる。

「左足はさ、祓われたわけじゃないから再生できたんだけど。やっぱりこの右腕はね。治すってか、奪って付ける外法もあるんだけど、気に入る腕が見つけられなくてね」

恨みなどないかのように、まるで他人事のように淡々と話す男。だが、纏わりつくオーラに変化は無い。無理やり怒りを抑えているのは明白だ。

「利き腕じゃあないけど、やっぱりいろいろ支障はあるよね。でもさ、とりあえずで適当なものを付ける気にはなれなくてね。やっぱりあれだよ。恨み? どうせなら君の腕を生きたまま引きちぎって奪ってやろうと思ってね」

その顔が恐ろしい程に歪む。本人は笑っているつもりなのだろう。だが、それは笑顔とは程通り化物。タケトでさえ背筋に衝撃が走る。ミサトが見ていないのが幸いだ。

「…で、奪いに来た、というわけか」

タケトは必死に声を絞り出した。「そうだよ」の一言と共に腕が、いや、むしろ全身がバラバラにされかねない状況だった。だが、男は動かない。

「残念ながら、今日は只の宣戦布告。この場で君を殺すのは簡単だけど…」

途中で話が止まる。そして表情が戻る。男は何かを考えているようだ。目を閉じ、目を開き、ふぅと息を吐く。そしてタケトを見た。

「簡単ではない、よな。何かしら切り札を持っている。何かはわからないけどそれは感じた。だからこちらもそれなりに準備している。で、実際に見て確信した。だからやっぱり宣戦布告だけ」

タケトは戦慄する。以前に結界を通して感じられた黒幕たちは、気怠そうな男と快楽主義の男。どちらも実力はあるが任務に忠実ではなさそうな印象を受けた。だが、目の前の男は自身の感情よりも任務を優先している。いや、最高の快楽のために任務を最大限に利用している、といったところか。一時の感情で動かず、最高の瞬間のために策を練り、感情を力として溜める。

「冷静な狂人が一番ヤバい」

いつか言った師の言葉が頭に浮かぶ。「自分のことですか?」とうっかり言って殴られたことも思い出した。おかげで少し冷静に戻る。

「準備? 何の? 目的は何なんだ?」

「なんだ。まだわかってなかったのか? 知ったから必死に抵抗しようとしてるのだとばかり」

「知ったところで許せるような手段じゃない。止めさせてもらう」

「それはいいけど、そろそろ終わりにしないとその女、死ぬんじゃない?」

その通りだ。だが、ミサトが睨むのだ。その覚悟を無下には出来ない。しかし、反撃されたらおそらくミサトはアウト。守りきれないだろう。故に、タケトのすべきは会話を進めて少しでも情報を引き出し、そして会話を少しでも早く終わらせることなのである。

「猿は倒した。龍脈は壊させない」

「なるほど。だが、まだまだだ」

「尾は渡さない」

「ふん。どうだか」

「神、か?」

「………」




「ぐ…」

「ミサトっ!?」

限界だった。ミサトが呻き、そして気を失う。それをタケトは左腕で受けて抱え、だが男の方を睨み続ける。

「終わりだね」

男がそういうと周囲を覆っていた負のオーラが消える。どうやら結界のようなものだったらしい。霧が晴れたかのように明るくなり、そしていつも見かけるご近所さんの歩く姿も現れる。

「殺すな。その方が面白い。なんだってさ」

ミサトのことだろう。このタイミングで仕掛けてきたのはたまたまか、それともミサトの性格を考慮してのことだったのか。ともかく、自分が余計な真似をしなければミサトが死ぬことはない。その可能性が高いとわかり一先ずは安心する。

「じゃ、帰るよ」

「…超えるよ」

「ははっ」

男が振り返る。先ほど見せた形相とは別の、しかし憎しみがたっぷり込められた笑顔を見せる。

「やってみせろ!」

瞬間、男は姿を消した。まばたきすらしていない、その一瞬で。まるで幻だったかのように。

「はぁ… はぁ… はぁ~~~」

緊張の糸が切れて、その場に崩れる。ミサトが地面に着かないように引き寄せて、肩で抱えるようにしながら。通行人が驚いて駆け寄るが、間もなく本部から増援が来て事なきをえた。タケトが体感した時間は数分だったが、どうやら実際には二秒程の時間だったらしい。とてつもない呪力が現れ、そして消えた。ので、急いで出てきたとのこと。

時間さえも歪める力に畏怖する。


「………超えるよ。必ず」

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