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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第一章
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伝承

九十九の尾。協会に残されている古文書によれば、最も小さな尾でも術師の能力を何倍にも強くし、最も大きな尾では完全な反魂術すら自在に操れる。

そして、全ての尾が再び集まれば、神獣は再び目覚め更なる力を与えるだろう…


「ってことなんですが、これって誰の言葉です? 昔の人の想像ですか?」

「は?」

「悪い。まだ主旨が飲み込めん」

「少なくとも、協会に正式に残された文書だから、完全な想像や妄想ってことはないのでは?」

「だとしたら… 尾のいくつかは、少なくとも一つは既に使われていて、これを書いた人はそれを見たということになりません?」

皆が納得する。たしかにそうでなければおかしい。そして、なればこそ新たな疑問も生まれてくる。

「そうなると、この最後の部分…」

皆がタケトの手元の資料を見る。

「尾を全て集めれば神獣が復活。なんなら式神にでもなってくれそうな感じの書き方なんですが、もう既に何本か使っているなら意味が無いのではと思ったんです。というか、なんでそんなことを知っていたんでしょうか?」

「だから書いたやつが術師本人とかなんだろ?

つか、なんで意味がなくなるんだ?」

ミコトがいつものようにタケトの疑問に突っ込む。

「はい。この尾が分割された力の一部なら、使ったら尾は消える。消えたら封印解除は出来ないんじゃないかなと…」

「使ったら消えるのか?」

タケトたちはジョナサンを見る。結界術関係では最も優れた術師である彼に見解を求める。

「悪霊を、亦はその力を道具に封じ呪具とする術はありマス。道具は使い込めば消滅も必然」

たしかにそういう感じの呪具が存在したなと術師たちが思い出す。十分な実力のある彼ら、そういう呪具を使うことがないのですっかり記憶から抜けていたのも仕方ない。そんな彼らを横目にジョナサンは「また」と続ける。

「封印術の中には分割封印というモノがありマス。邪悪な存在を、道具でも生物でも、いくつかのパーツに分けて封じ、それぞれ別の神殿に納めマス。ただソチラの場合、封じられた呪力を使うというのは聞いたことがないデスネ」

「かなり特別な仕様ってことなのか?」

ナオズミの言葉に頷く。

「解呪したのにどんな封印かわかんねーのかよ?」

「解呪したのは箱の封印ダ。尾は別物ダ」

とミコトとジョナサンがちょっとした口論を始め、アナが止めに入るも、タケトはそんなことも目に入らない程に考えこんでいた。

「使えば消えるが確定でもないのか。益々わけがわからんな」

「この伝承を書き残した人物の意図ってなんなのでしょうね…」

「『意図』というと?」

「尾の力を使わせたいのか、使わせたくないのか、神獣を封印しておきたいのか、復活させたいのか」

ため息と共に一瞬の沈黙。その沈黙をシラベのあっけらかんとした発言が気持ちよく破る。

「使わずに集められたらめでたく復活だよ、とかならわかりやすいんですけどね~ ちょっと不親切。伝承ってみんなこんな感じなんですか?」

「口伝えの場合はいろいろ欠けたりするし、文書で残す場合も破損とかの理由で、書き写す際に書きもれや書き間違い等のミスは生じる。が、言われてみるとこれはたしかにあまりにも意図的…」

シラベの一般人目線の疑問に、古文書のプロであるヒジリが答え、そして自身の説明から『おかしさ』に気付く。

「そこで視点を変えてみたんです。そもそも神獣ではなく邪神の類いでは? という可能性です。神獣を封印する理由は? だいたいにして分割封印で99本は多すぎる。伝承も一部の人間にしか伝えない。これでは復活させないって意図すら感じられます」

「たしかに。そもそも既に使った形跡のある書き方だし、俺もそう思ったのと同様に神獣復活か力を得るかの二択のような表現ではな。これだけの力だ。個人が手に入れたら使ってみたくなるだろうな」

「そうだね。紛失した七十二番ももちろんだが、こういう明らかに凄い呪具を手に入れて、使わないって手はないだろう」

「使うね。てか、一桁クラスだと一般人すらヤベー道具ってわかるだろこれ。世に出たら絶対に術師の手に辿り着く」

「その場合、既に全部揃えての復活は無理なんだから、そういうのはもう気にせずとも良いのでは?」

過剰な危惧。もし邪神だとしても復活は難しいだろう。それで話が終わりそうだったが、タケトは更に可能性を提示する。

「つまり」

タケトが珍しく話を遮り、自分の意見を主張する。皆も口を閉ざし、その仮説を楽しみに待っている。トンデモ仮説を待つ好奇の目ではない目。今ではではあり得なかった光景。幹部たちもタケトの成長を喜んでいるのだ。

「使われることは始めから想定されている」

「ほう。だと、どうなる?」

「まず、この伝承そのものが嘘の可能性が出ます」

さすがにそれはトンデモ仮説だと苦笑いする大人たち。しかし、タケトはそれでも真剣に話を続ける。

「限られた人物のみにしか伝承されず、その伝承の中ですら尾の力を使いたくなるような術師にとって魅力的な言葉。だとすれば、実は逆に尾の力を使うことが封印解除のトリガーで、全てを使うことで『何か』が復活する」

「その何かが邪神的なモノだったとして、お前の仮説が正しいとして、そんなものが何故に協会に残っているんだい? それも信用度最高の一級文書だ」

呪具や古文書の管理者であるナユタが少しだけ不機嫌そうに口を挟む。

「あまり考えたくはありませんが、外部から持ち込まれたのではなく内部の者の、しかもそれなりの地位にあった人物の仕業かと…」

この言葉にはさすがにおおらかな幹部たちも一気に不機嫌になる。古代より存在し、歴代の高名な術師たちがまとめ、率い、研鑽けんさんを重ねてきたこの協会。そこに所属している、そこの幹部を努めているというプライドがあるのだ。遥か過去だったとしてもそういう人間が身内にいた等と言われるのは心外極まりない。がタケトは物怖じもせずに堂々と言い放つ。

「先々代の件もあります」

それこそ邪神に支配されて協会を半壊させてしまった事件。当時を知る者はこの場ではカナタとヒジリだけであり、彼らはどちらかと言えば被害者なのだがやはり責任を感じて心が痛む。

隠世かくりようつつの境が朧気おぼろげだった時代なら、まぁ有り得なくもない、か…」

「悪霊の類いが浄滅、もしくは封印される際に術師や近くの生物に取り憑いたり操ったり、なんてのはよくある話だ」

「それが九十九の尾の神獣。いや、邪神の正体か…?」

重々しい空気の中、幹部たちもそれぞれ可能性を想像し議論していく。が、今度は逆にタケトがその議論を止める。

「あくまでも可能性の一つです。邪神ではないかもしれないし、単に俺の考え過ぎかもしれない。ですが、あまりにも凄い神器なので… 様々な可能性を考慮しつつ今後の方針をある程度詰めていく必要があると思って…」

「具体的には?」

「尾の回収方法と保管方法。及び所有者、関係者の処遇」

「ああ、例の連中が未処理だったね」

「はい。任せるとは言って頂けたので、一応は今後の扱い方は考えてはいたのですが…」

ナオズミとタケト、そしてシラベらが尾に関係した人々の話を詰める横で、他の者は既に尾の扱いを議論し決めていく。

「とりあえず、この尾はナユタが管理してジョナサンが解析をする。というのが一番では?」

「異議はない。だが、一朝一夕で解析が終わるものでもなかろう? 調査が長引いた場合…」

「能力の高い、それでいて信用の出来る後継者を育てることも必要だろうねぇ」

「同盟はどうする? 情報の共有はすべきか否か」

「向こうにも同じような伝承があるか、もしくは尾はあるか、知りたいところではあるが…」

「そこは私が探ってみるよ。ちょっとした伝手があるからね。それくらいは役に立つさ」

「それはそうと、他に見つかった場合はどうする? 一ヵ所に集めるのが危険なら別の保管場所が必要になるぞ?」

特級呪物の保管となると地脈の影響や土地神の関係はもちろん、管理する人間も必要になる。新たな物件の保有は国への申請が必要になるし、管理者の育成も秘密裏に行うとなるとかなり難しい。

「あ、それなら候補に心当たりがありますよ。時間が合う時に当たってみますね」

とタケトが言った。いつの間にそんなコネクションが出来たのか、と皆が更に驚く。今日はタケトの成長に皆が感心する日になった。

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