科学と呪術
「そんなにアツくなんなって」
「バカ真面目にバカの相手しても疲れるだけだ。救いようの無いバカは…」
「黙ってさっさと処理する、ですよね。てかミコトさん、速いですね」
「寒いんだよ!待たせすぎだ」
この二人も神という存在に深く関わった者たち。タケト以上に思うところはあるだろう。其れ故に、二人のこのお気楽さにタケトは何度救われたことか。もちろん普段は逆に疲れることも多いのだが。
(少なくとも今はただただ有り難い)
三人並んで老人を睨み付ける。だが、敵は怯むことなく睨み返し、そして高らかに嗤う。
『身の程を弁えぬ塵芥よ。では貴様らを新たな神による裁きの最初の相手にしてやる。光栄に思うがよい。我の全力を見せてやろう』
老人は神を気取ってか口調が変わり尊大な雰囲気を醸し出している。しかし尊大なのは口調のみ。凡そ神には相応しくない行動を取っていく。
「村を覆っていた妖気が」
「どんどん濃くなっていく?」
「結界。多重効果の。これは…」
村全体が結界に包まれて、タケトたちの呪力を徐々に蝕んでいく。呪力減退術。それに加えて新たなる付喪神が産み出された。破壊された物を無理矢理にくっ付けて新たな道具に見立てて仮初めの命を与える。妖怪生成術。そして
「こいつら、ただ妖力が強いだけじゃねえぞ?」
「くっ… 意外と手間取るな。何なんだ?」
言うなれば付喪神のキメラ。様々な道具の特性を的確に放ってくる。歴戦の二人が手こずるのだから相当のものだ。というか、産まれたての付喪神なのに戦闘経験値があまりにも高すぎる。
「やはり盗んでいたな」
タケトは苦戦しつつも老人を睨み付ける。老人はそれに返すように再び嗤う。
『貴様らが開発中のAI呪術師。そのノウハウを利用させてもらった。ふはは! 喜ぶがよい。これであの小娘の理論は証明されたわけだ。そして貴様ら程度では使いこなせぬとも。これは我の知識と想像力があって始めてその真価を発揮するのだと』
その嗤いに同調するように付喪神の力は更に増し、そして三人を追い詰める。なんとか隙を作って老人を攻撃するも、パソコンはより強靭な付喪神二体と強化された結界によって軽く防がれてしまった。
「多重結界。ジョナさんの。なるほど。本当に恐ろしい技術だ。少なくともここまでは成長することが出来るのか」
「ミサトのやつ、ここまで見越して凍結を決めてたのかね?」
「彼女なら有り得ます。てか、やろうと思えばヤマトと二人で世界征服できちゃうかも」
「は~わらえね~」
そう言って笑う三人。意外な反応に老人が驚き、数秒フリーズしてしまった。
『な、何なのだ? そうか、これがそうなのか。真に恐怖に支配された人間は笑うしかなくなるというやつか。ふはは!なんとも滑稽だ!』
「ほんとに滑稽だね」
タケトが自分たちを囲んでいた付喪神五体を同時に叩き潰す。粉々に砕けた道具は微動だにしない。
「うん。道具としての原型を留めていなければ付喪神には成り得ない。当然だね」
残りの付喪神も老人の命令で襲い掛かる。しかし、これもヒジリとミコトに軽く一蹴されて木っ端微塵になった。
『な、何故だ?何故に貴様ら!いつの間にそんなパワーアップを?いや、今まで隠していたのか?何のために!?』
付喪神は全て倒されて残りは老人を映し出すデスクトップのパソコンのみとなった。
「つーか、マジで気付いてないのかよこいつ…」
『何だというのだ!?』
「電力。もう供給されてないんだよ?」
『………なあっ!?』
老人は青ざめた。その反応はタケトの予想が全て当たっていたことの証明にもなった。タケトたちの勝利が確定した瞬間である。
「貴方がヒジリさんを逆恨みしていた考古学者というのはわりと早いうちから見当がついててね。でも、貴方が俺達の追ってる敵と仲間なのか違うのか、そこがちょっと大問題でね。でも同じだとするとけっこう違和感があったから、違うことを前提にさっき言ったのを含めていろいろ罠を張らせてもらったんだよ」
画面には困惑の表情の老人が写し出されている。理解が追いついていないのだろうか。だとすれば電力供給の遮断が原因か。自身も気づかぬ急激なパワーの低下。そして思考能力、いやパソコンの演算能力の低下か。策はうまくハマったようだ。
先程のミコトの砲撃、それを合図にこの村に繋がる電線が一斉に切られた。廃村であるはずなのに電気が通っている、その事実に電力会社も非常に協力的に動いてくれた。もちろん多数の電線を極秘に一斉切断という作業にはそれなりの費用がかかったのだが。
「都市伝説サイト。あれが貴方が産まれた原因だ。そして貴方の正体でもある。つまりは都市伝説サイト自体が妖怪化したモノ、それが貴方だ。その特性を利用して電脳の海を渡り、あらゆる場所に存在し、あらゆる情報を得て、あらゆる情報を操作していた」
電気、電波の通る場所や物から映像も音声も入手出来る。自分たちのモバイルでさえ敵に常に情報を与えている。その可能性に気付いた時はどれほど恐ろしかったか。だが情報の巡る速さが一定では無いことに気付いたことで希望を見出だす。
「だからこそ俺達は、その監視を逆に利用したんだ。俺達にしかわからない暗号を作成し情報を操作した」
その一つはヒジリの行った大袈裟な身振り手振り。また、タケトが若返りの村で語った嘘話や演技だ。
「大変だったぜ?このご時世にスマホも持たず、監視カメラにも写らず、ここまで来るのはよ」
それでも衛星や独立回線にまで侵入されたらアウトだったが、さすがにそこまで理不尽な力は無かったようだ。しかし、時間が経ってそういうことも含んだ都市伝説が拡散されていればどうなっていたか…
「褒めるわけじゃないけど、ミサトの技術を本当に上手に使ってくれたよ。電力を妖力に変換する技術が、電気や電波を支配する術がこの日本でどれだけ恐ろしいものか、身をもって理解させてもらった」
だが、同時に停電イコール死ということもほぼ証明された。あとは自力で供給可能な機能や状況をどれだけ減らせるか、そこもまた課題だろう。いずれにしろミサトへのいい報告になる。
「話はこれくらいにしよう。さて、残った電力が尽きるまであとどのくらいかな? 最期まで足掻いてみるかい?」
老人は終わりを悟ったようだ。辺りの妖気は鎮まり、パソコンを守っていた結界すらも消える。
「ずいぶんと諦めがいいんだな。あれだけ噛みついてきた爺さんとは別人のようだ」
「煽らない」
最期の悪あがきで暴走されでもしたら厄介だ。だがそんな心配はいらなかった。
「ふっ…ふはははは。ここまで見事な完敗で諦めがつかぬなど。これ以上の醜態は晒せんよ」
「お?自力で悪霊化から解放された感じ?すげ」
老人はおだてるなと言うような表情で続ける。
「本当は全員道連れに盛大に爆死してもよいのだが」
ミコトがギョッとし、ヒジリはフフッと笑う。
「そんな力は残っておらんし、この世に何かを残すなら悪名よりも、な」
老人はヒジリを見る。
「小娘風情がとバカにした相手が、よもや自分よりも年上で、しかも熟練の専門家だったとはな… 知ったにも関わらず… 嫉妬とは恐ろしい。怪物と化した我が身を、心を、止めることは出来なかった」
「こうして止まったじゃあないか。さすがだよ。あと10年くらい研鑽を積めば私を越えただろうさ」
「ふっ… 小僧ども」
「はい」
「ん?」
唐突に呼ばれて少し驚いた。それはミコトも同じだった。
「最期に二人だけにしてくれんか?」
予想外な言葉だった。だが何かをする力が残っていないのは事実。不安はあるがタケトは了承して屋敷から離れる。
「てか、ミコトさんがずいぶんあっさり受け入れたのが一番意外でした」
「ん?あ~ ま~予想はしてたからな~」
「へ?」
「お前、まだいろいろお子ちゃまな」
「はあ!?」
タケトとミコトが遊んでいると、ヒジリは全てを終えて屋敷から出てきた。笑顔ではあるが少し悲しそうにも見えた。どのような会話をしたのだろう。興味はあったがなんとなく聞かないでいた方がいい気がした。
「さ、さっさと帰って皆であったかいもん食べようか」




