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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第一章
7/80

幹部

大八洲おおやしま霊能者協会本部

一般人対策のために作られた本部、通称(表)とは異なり、その存在は完全に隠され実働部隊の精鋭が揃う。都心の真ん中のIT会社の寮として在り、報道機関の協力もあって順調に活動出来ていた。今日のタケトはその本部、通称(裏)へとやって来ている。九十九の尾と関係していた組織の処遇報告のためだ。タケトが会長室へ入ると部屋の外にいた数人の術師がざわつきだす。


「き、緊張した~」

「ああ、俺もだ。幹部全員なんて何時以来だ?」

「たしか二年ぶり? 私はその時はいなかったからこれが初めて。ちょっとうっとり」

「気持ちはわかる」

「いったい何があるんだろうな…」


何しろ普段お目にかかることのない幹部たちが全員現れたのだ。幹部たちはそれぞれ協会での役目はあるが、その仕事さえ行っていれば出席の義務は無い。むしろ、その知名度や能力的に外で動いてもらっていた方が協会の利になるし、彼らの中にもむしろそうしたいと思っている自由人が多い。故に、全員召集されての会議が行われるのは余程のことがあった、もしくはあるに違いない。そう思って当然なのだ。ましてや事前に報告の無い幹部の全員集合。噂は直ぐに拡散される。


~会長室内~


呪具管理室長 火纏一刀流師範 刀禰谷とねたに十三郎ナユタ

「久しぶりだね、タケト君。チヨは元気かい?」


準幹部 桜真流神術師 つくもタケト

「はい。それはもう。国体も連覇ですし、術無しなら俺以上かもですよ」


副会長 我流九節棍操術師 阿留多伎あるたきコウシロウ

「そんなに強くなってしまったか。俺もうかうかしていられんな」


霊滅師筆頭 四天流霊術道道士 すめらぎクニサダ

「カナタさんもご健勝で何より」


相談役 黒坊流太極術師 御薬袋みないカナタ

「日常生活はなんとかねぇ。しかし、もう心身共にガタがきてるからね。完全隠居も近いだろうさ」


相談役 一尺八寸かまつか流鎌術師 熊埜御堂ヒジリ

「そう言ってくれて安心だよ。義兄さんは昔から無理ばかりするから」


事務室長 非術師 すずきシラベ

「あ~ヒジリさんに言われたらおしまいですね~」


浄霊師筆頭 熊埜御堂流術師 熊埜御堂くまのみどうミコト

「はははっ! たしかにな。おっと、アナ~おかわりくれ~」


総務長 死霊魔術師 アナスタシオス・ステファノプロス

「私はお茶汲み係ではないぞ! まったく。ほれ」


会長 綿津見わたつみ流術師 いさりナオズミ

「さてと… ジョナさん、準備は?」


渉外兼結界班長 結界術師 ジョナサン・グレイ

「完了しておりマス。いつでも大丈夫デス」


以上11名。事実上協会の現在を、そして将来も動かすだろう優秀な人物たちが円卓を取り囲む。普通の人々となんら変わらない、実にくだらない雑談が続いてはいるが、それぞれの能力及び権力は強い。

「それにしてもなんというか、本当に君はつくづく『こういうこと』に縁があるんだねぇ」

四天流という大きな祓い師の団体、その若きリーダー(といっても年齢は現在52歳)のクニサダが語る。

「お恥ずかしながらそういう体質のようです。今思えば、幼なじみに連れ出された時も怖い目に合うのは自分ばかり…」

「おほん。タケト君、今は…」

上司の問いに、少しだけ愚痴まじりの思い出話をまじえるも、その幼なじみの親であるカナタが真面目な顔で制する。相談役という肩書きではあるが、年齢と実力、そして幹部たちからの信頼度の高さでむしろ会長以上の発言力すらある彼の言葉に、二人は恐縮する。そして、逆にカナタもまた恐縮する。

「中身の確認はまだやってねーのか?」

「はい」

「解呪は可能なのかい? なんなら私が斬るけど?」

「それ、中身燃えません?」

「解呪は大丈夫。方法はわかった」

「お任せくださいマセ!」

「本物且つもしも一桁ナンバーなら膨大な呪力が溢れ出るのだろ? それを抑える結界も必要では?」

「それもお任せくださいマセ!!」

「会長の御前で絶好調のようですな…」

「何にせよ、こういう時は助かるよ。さて、久しぶりに会って積もる話もあるだろうけど、先ずは本題を済ませてしまいましょう」

名残惜しいが… 等という様なことは一切無い。皆それぞれ人の上に立つ実力と立場を持った者たち。ナオズミの一言で空気が一変する。いよいよ解呪の時間。円卓の中心にナユタによって木箱が運ばれ、ジョナサンが入れ替わりで箱の前に立つ。

「ちょうど真逆の時間。呪いの力の鈍い時間帯。解呪は容易い。結界は本当に…」

「お任せくださいマセマセ!!!」

「ん。信じる。任せた」

ナオズミの何気無い言葉にジョナさんは更にヤル気倍増。過去最高の呪力密度を測定し、その高密度高出力の呪力で会長室に結界を発動させる。本人曰く『内部でミサイルが爆発しても気付かれない』レベルの結界だそうだ。そして木箱の封印の解呪を始める。本来は結界や封印の類いの術は呪力を大量に消費するため一人一つしか発動しない。二つ以上を同時発動するのはかなりの高度な技だ。なのに結界と解呪を、相反する生成と分解を同時発動などレア中のレアになるわけで…

(最初に出会い、そして捕らえた時はちょっと強い結界術師程度だったのだがな…)

(張るとバラすを同時にヤるかい。噂以上だねぇ)

(忠誠心の成せる技ってやつ? 努力量パね~)

(味方にしておいてよかった… しんどいけど…)

と身内も呆れる程の芸当だ。そして、前述の通りに封印自体は大したレベルではないので程なく解呪され、いよいよ九十九の尾と御対面となる。


~会長室・外~

「静かだな…」

「本当に会議、してんのか?」

「アホ。重要なこと話してんのに、外に漏れるような大声出すかよ」

「それもそうか」

「さっさと仕事行くぞ。いつ終わるのかもわかんねーんだし」

「名残惜しいですな~」


~会長室内~

「っ!? マジか!!」

「ジョナ!結界は!?」

「問題ありまセン。外部には漏れてはおりまセヌ」

かなり大きめな呪力が溢れ出る。いくら強い結界を張ってもバレるのではないか、と思える程の圧力。だが、ジョナサンは平然と抑えられていると話し、そして幹部たちも一瞬焦りを見せたが、直ぐに冷静さを取り戻しそれぞれ分析を始める。

「大きさ… 約1m? だから… 何番?」

「最小が最後に生えた尾の1寸、約3cmとされているからこれは…」

「33もしくは34番の尾ってことでいいのかな?」

「一番違う毎にどれくらいの呪力の差があるんだろうな? 誰か七十二番に触れた人はいないのかい?」

視線がカナタとヒジリに集まる。が、さすがの二人も首を横に振る。当時はまだ一般会員だったカナタと入会したてのヒジリ。当然のことだ。だが

「前会長たちなら、或いは…」

とカナタが呟く。そういう話を聞いたことはなかったが、当時を知る者の中で一番可能性が高いのが前会長たちなのは間違いない。皆が同じ反応をする。

「シラベ、政宗さんに連絡を。秘匿回線で」

「かしこまりました」

秘匿回線。通常の電話回線とは異なる特殊回線。一部の政府高官と協会会長と同盟盟主らが使える、盗聴のされない、履歴の残らない回線。何処をどう繋がっているかは不明。この電波が主流になった現代でも消えることなく残る前時代の遺産だ。

「会長、マスターから返答です。明日の19時に部屋で、とのことです」

「うん。ありがとう。じゃあそれまでは、それぞれ分析して意見を出し合おうか」



雑談が始まると、再びタケトの隣の女性がちょっかいを出してくる。年齢は三十代。身長は高い方ではないが、恵まれた身体能力でトップレベルの剣術を扱う。タケトも剣士対策で稽古をつけてもらい、何度か泣かされた仲である。

「相変わらず難しい顔をするのが好きだね。タケト君はさ。チヨに嫌われない?」

「嫌われません。彼女の前でしかめっ面になるわけないじゃあないですか」

「デレデレっぷりも相変わらずか。いや~鬱陶しいねぇ。死ねばいいのに」

「死なないし、あげませんよ。まったく…」

「わるいわるい。やっぱり君らをからかうのは楽しくてねぇ。師匠もまた会いたいって私以上に焦がれていたよ。で、何が疑問なんだい?」

タケトとナユタの再びの雑談。からの真剣な討論が始まる。そして、その疑問が皆の耳を集める。

「出稽古はまたそのうちに、として… ん~とですね、この33番、まあ仮番ですが、かなりの呪力じゃあないですか? 漏れ出る呪力だけでこれですよ?」

「めんどくせえな。結論先言え」

「99のうち、何本残っていると思います?」

「それがわからないって話だろ?」


皆が若干呆れる。タケトもその反応は当然と思っている。そして、急かした兄弟子を少し恨む。

「だから順を追って話したかったんですがね… まぁ、時間はあるんで、いつもの俺のトンデモ仮説だとユル~く聞いてやってください」

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