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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第五章
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依頼3~山の神~

区長宅。被害者老人たちを囲んで報告会&慰労会。と言えば聞こえはいいが、自暴自棄になってやらかし兼ねない彼らと担当術師を一纏めにして監視管理するための口実でもある。苦労してきた人間が希望を与えられ、からの希望の梯子を外されて。そこから先は術師でなくとも想像に容易い。

(そこまで思い詰める人がどれだけいる?とは思うんだけどね。思いには個人差が大きいから、さ)

こっそりと二人に伝えるタケト。それは理解できるが、今目の前に広がるのは和やかな会とは程遠い雰囲気。何しろその心を傷めた老人たちを年配若手問わずの術師が仁王立ちで囲んでいるのである。あとから駆け付けた親類や役場職員もドン引きだ。

(これ、どうにかならないんですか?)

(子どもが見たらトラウマになるです)

(だよねぇ…)

真顔で冷や汗どころか脂汗な二人。タケトもさすがに余裕の表情とはいかず、どうしたものかと暫し悩む。


(…うん。無理! 普通の方法じゃこのまま終わる。いっそ全部ブッ壊すくらいじゃないと真逆の感情は生まれないよね)


悩みに悩み抜いて出した結論。タケトはこれより暴走する。二合の徳利をラッパ飲みし

「お前ら!」

と、今までのタケトからは誰も想像がつかない口調でパワハラとも取れる暴言を吐く。

「いつまでもボーッと突っ立ってないで、功労者の俺らや被害者の住民たちに酌でもしつつ面白いことの一つも言って楽しませろよ! しかめっ面でカッコつけるのが協会の仕事じゃねえだろ!!」

驚き固まる協会術師たち。その中でも体育会系出身のそういうことに慣れた者から無理矢理にこやかな表情を作り、老人の姿に戻った住人たちへ酒を、酒が苦手な者には冷たいお茶を注ぎに行く。

「今回の事件は化物の存在に気付かず野放しにしていた協会の責任。そしてこれは謝罪の宴席。なんでどなた様もどうぞ遠慮無く好きに暴れて好きに使ってやってください」

タケトは胡座のままではあるが深く頭を下げる。そんなことは聞いてないよと驚く術師たちと、本当にいいのかと恐る恐るな老人たち。双方苦笑いしつつ遠慮がちに、そういうことに慣れた者から返盃しポツリポツリと愚痴を語りだす。それを確認してタケトはトイレだと席を立ち、セイヤたちもそれに付いて席を離れた。

(こっわ~面識無い地方会員にそんな対応して大丈夫なんですか~?)

そう。ここに派遣された術師は時短重視で近くに住んでいて即来られた者達。故にタケト達とは面識が無い者がほとんど。それだけに、初対面からまともな会話もなく宴会の開口一番がこれでは人格を疑われても仕方ない。

(こっちの言い訳は後でいくらでも出来るからね。しっかり頭を下げてボーナス出していただくさ。そんなことよりもさ、ああでもして会話のきっかけを作ってやらないとせっかくの会が監獄での食事みたいになってたじゃない?)

(それは一理ありますけど、もっと良い方法はあるでしょうに…)

ウララも頷く。セイヤの言う通りだ。和やかにしたいだけなら他にも方法はある。だが、こうした理由はちゃんとあるのだ。

「最初に与えた年寄りくさい印象。事件の真相を予想した上での距離を縮める手法。からの最初から全部わかっていたけどねという賢人の印象。で事件をしっかり解決してさっきの傍若無人な上司な印象。その心は?」

「滅茶苦茶じゃないですか…」

「情緒不安定です。もしくは多重人格です」

タケトはにっこりして頷く。

「そ。なんだかよくわかんない人間だよね。そのわけわかんない人間が席を離れて、その部下が側で世話してくれてるんだから、いろいろな話が出てくるよね?」

「いや、なんのために…」

「いろんな人物像を作って広めてもらうためさ。今後、必ず噂は立つ。箝口令を敷こうが完全に塞き止めるのは不可能。それは実証済みだし、俺は今までも既にそれを利用している」

「あ、まさか…」

セイヤもウララもハッとする。この男はまたもや人間の習性を利用して自身に関する情報を操作しようとしていたのだ。今度は金をかけることなく。

「田舎の年寄りの噂話し程度の信憑性だけどね。でもネットに溢れる文章や人の口から伝言ゲーム的に広まった情報よりも、当事者たる彼らの口から出た言葉は価値があると思うんだよね」

その言い分は納得できる。しかしながら、そうまでする理由はわからない。何故このタイミングで?

「俺たちに関する情報をまとめた闇サイトを見つけたんだ。今までも公式に記載されていない術師のデータサイトはあったけど… ここ、かなり詳細な情報も載ってるんだよね」

タケトはスマホを二人に渡す。そのサイトを確認すると、偏りはあるが自分たちも知らない情報もあり確かによく調べられているとわかる。だが、問題は別のところにあると二人にもすぐに理解出来た。

「この人選は…」

「私も載ってるのに有名人がいないです」

「そう。真っ先に載せるべき人気術師がいなかったり、なのに登録されて日の浅いウララがいたり。明らかに『一連の事件』に関わった者を載せてる感じなんだよね。だから今回のことが「いつ」「どう」反映させるか?それがわかれば犯人捜しの手掛かりになるかと思ったんだ」

「なるほど…」



「ずいぶん長い連れションじゃねえか。あんたもこっちに来て飲め!」

「若い男女三人でよぉ… 見かけによらずなかなかイヤらしいじゃねえかぁ…」

「ちょ!ちょ!なんて絡み方してるんですか!?」

「うちの爺さんは酔うとこうなんだよ。酔いが覚めたらキツく言っとくよ」

「そんなことより今日の武勇伝を聞かせてくれよ」

場がいい感じに出来上がっていた。何をどう話したのかは知らないが、さすがは歴戦の体育会系出身者だ。飲み会の回しが上手い。

(さて、俺も頑張りますか)


「今回の化物退治、山頂で立ちはだかるは熊程もあろうかという山姥!紅く染まった白髪を逆立てて、両手にはやはり包丁を握りしめ、先ずは一番若いウララを狙って迫りくる!」

「「おお~」」

「大事な妹弟子を殺らせるかと、それを得意の体術で迎え撃つ! 右手の包丁を左手で受け止め、左手の包丁を右手で袈裟に受け流しつつ掴むと、半回転しつつ山姥の真下に潜り込み、一気に立ち上がり二本背負い投げ!!」

「「おおお~!?」」

「その投げられた山姥を今度は俺が、懐に忍ばせた呪符で強化した両足でもって肋を踏み砕く!!」

「うは~」

「見かけによらずえげつねぇ」


もちろん嘘である。ウララを襲ったまでは同じだが実際は異なる。ウララの幻術で瓊瓊杵尊ニニギノミコトの謝罪からのハッピーエンドを見せ、その間にセイヤは結界を張り岩長比売の行動を封じつつ力を削ぐ。タケトは岩長比売が暴れた時のために、そしてトドメの一撃のために呪力を集中するというダイダラボッチの時にも見せた戦い方だ。


「敵もさすがの有名な化物。肋の数本では動きを止めるには至らず。むしろ痛みと怒りでヤル気満々。周囲の木々に隠れつつ、さらには三角跳びの如く利用して縦横無尽に迫りくる!」

「「おお~!!」」

タケトは立ち上がり体を動かして大袈裟に解説を続ける。もちろん全て嘘だ。

「ババアなのにすげえな。うちのもそんくらい動けりゃいいのに」

「なんなら今から包丁持って追いかけてやろうかい?」

「「わはは!」」

「とはいえ、我らも何体もの妖怪変化を仕留めてきた一流術師の一行」

「自分で言うかい」

合いの手にどうもすみませんと頭を掻く。

「いよいよ追い詰められた山姥は覚悟を決めて、せめて一人くらいは道連れにと刃を振りかざす。しかし、それが裏目に出た!」

声のトーンを一段下げて緊迫感を演出するタケト。息を飲む一同。やや呆れるセイヤとウララ。

「振りかざした刃に太陽の光が反射し自身の目を眩ませてしまった。その隙を俺たちは見逃さない!三方向からの同時攻撃をもろに喰らい、山姥はついに地に伏した」

いよいよラストシーン。皆静まり微動だにしない。

「………で、三人でパパッと祓って清めて帰って来たってわけですよ」

「最後軽いな!?」

「いや~きれいに解決したから笑って終わりたいじゃないですか?」

「笑える要素はありませんでしたけどね」

セイヤの突っ込みでやっと少し笑い声が出た。その辺のセンスだけは未だに身に付かないと肩を落とすタケトに再び笑いが起こる。


「ま、何にせよ目的を果たせてよかったよ。これでひと安心だ。心置き無く次に行ける」

ですね、と三人で再び乾杯。しかし一息つく間もなく割って入る老人たち。

「おいおい、ほんとに心置き無くか~?」

「やり残したことがあるんでねえか?」

酒臭い息で絡むその手には、鈍い輝きを放つベーゴマが。ニヤニヤする元男の子たちに挑発されてタケトは立ち上がる。

「受けて立とうじゃないですか。俺の学習能力をナメないでくださいよ!」



「甘い!そうりゃ!」

「なんじゃとてー!?」

「学習能力ってのも大したことねえの~」

「ま、まだまだ~!」

「あ~あ、また負けた。てかこれって違法ギャンブルになんないの?」

「ベーゴマやメンコに違法もクソもねえべさ。手持ちが無えからベーゴマ屋から買って、ベーゴマ屋に勝負を挑んで負けた。それだけの話だ」

「タケトさん、もうやめにした方が…」

「コツは掴んだ!こういう年寄りはね、一度負けたらアツくなって引き下がれなくなるもんだ。だから一回勝ってしまえば…」

「ほいさっと」

「フンギャロ!?」

「すっかり鴨肉です」

「あ~あ、知~らない」

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