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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第五章
57/83

依頼0~火車~

暗い空間。剥き出しのはりからいくつもの縄が垂れ下がっていた。その縄の中央に出現した禍々しい妖気。それは更に濃さを増していき黒いもやとなる。タケトは先程アナが言った「敵の領域内」という言葉を思い出す。

「つまり、俺達はアレの腹の中にいるも同然と」

「腹というよりは頭の中ってのが合ってるかもな。なんせここはアレの遊び場だろ」

「かなり悪趣味な遊びだナ。だがヤるべきことは同ジ。不利な状況ではあるが、あの本体を倒ス!」

三人が三方に散り、三方向からの同時攻撃を行う。直接戦闘が得意ではなくスピードも速くはないアナが正面からバカ正直に呪力を込めた右拳を掲げて突っ込み、変化した足で勢いよく踏み込んだタケトが敵の右後方へと飛んで更に壁を蹴り左腕の一撃を放とうとし、静かに立っていたミコトは一瞬で敵の左へと移動して0距離で神力の塊を撃つ。


「「喰らえ」」

「フオオォォ!」


二人の余裕のある台詞からの必殺の一撃と、それがヒットする可能性を上げるための囮役のアナ。あからさまに近接戦闘不得意な打撃は、ベテランには逆に実は特殊な術が付与された本命の攻撃にすら見えてしまうこともあるのだが、この凶霊にはどちらにしても無意味なフェイントだったのは間違い無い。


ベキッ!ベキベキッ!


何かがへし折れる不快な音。『それ』はタケトの一撃で腰らしき辺りでくの字に曲がり、光が直撃した左胸らしき辺りでNの字に曲げられる。その衝撃でアナは吹っ飛ばされた。

「ぬあっ! っとと… 相変わらずクレイジーな威力だナお前たち。だが…」

すぐさま体勢を立て直して周囲の警戒に入るアナ。その行動は正しい。しかし、敵はもう一段上のレベルだった。

「ッガ… グゲァ…」

「アナっ!?」

今度はアナが自らの首を、四本の指を首の後ろに据えて、親指を喉仏に当てて、両手で、力一杯絞めさせられていた。

「破邪烈光!」

ミコトが間髪入れず浄化の光をアナに浴びせる。というよりも光の塊を叩きつけた感じだ。再びアナは吹っ飛ばされ、今度は壁に背中を強打する。

わりい!無事か!?」

激しく咳き込みながらも片膝をついて大丈夫だと右手を上げて駆け寄ることを制するアナ。心配無用、という合図ではない。

「私の攻撃範囲に入ってくるなよ!」

という意思表示だ。激しい怒りに満ち満ちている。普段はミコトに対して怒りっぽいキャラではあるが戦いにおいての本気の怒りに初めて触れる二人。頼もしさと同時にそれ以上の恐怖を覚えた。

「ざぁ… 死"を司るモノ同士"… 存分に…」

床から黒くて半透明なモノが染み出て盛り上がり、人の形を成し、死霊の兵隊へと変貌する。その数は5体。死霊兵は敵へと向かって歩き出す。

対する敵。黒い靄は凝縮し強さを増し、人に近い形状にはなるがまだ黒い塊で実態は掴めない。しかしそんなことは死霊兵には無関係。四肢と頭らしき部位に飛び付き引き千切ろうと暴れる。

「グロッ!」

「でも…」

「フン…」

死霊兵たちは徐々に黒い靄に首を纏われ、吊り上げられ、絞めつけられて、暴れている。どの段階で苦しめる側から苦しめられる側の暴れに変わったのか死霊たちには可哀想だかそれは大した問題ではなかった。一番の問題は敵の攻撃はアナ程の実力者の使役する死霊にすら効果があるという事実だ。そして更に状況は悪化。予想していた事態が起こってしまう。

「マジかよ…」

「博学なタケト氏よ。アレは何だネ?」

「アレはたぶん…」

何処からともなく次々と現れる猫。猫。猫。20匹はいるだろう黒猫の姿をした妖気を纏った何か。本命の敵程ではないが、それでも其々《それぞれ》強力な妖怪なのは間違いない。

「火車、でしょうかね。簡単に言えば死神の一種です。罪人専門の地獄直葬、なはずなんですけど」

「だったら神職睨みつけてんじゃねぇよ。罪人ってんならあっちを襲えこの毛玉共!」

ミコトの乱れ撃ちを躱し、三人を物色するように床を壁を天井を歩いてまわり周囲を囲む火車たち。そして本命の敵も更に力を集めて実態を現しつつあった。

「仕方ない。本当はヤツの臓腑を引き摺り出してやりたかったが、如何せん相性が悪い。けだものらは私が引き受けヨウ」

「頼んだ。こっちは任せろ」

アナの提案にミコトが即答で乗る。

「繋ぎます!」

とタケトも自分の役割を理解し動く。

この、アナの判断は概ね正しい。


「さて、少し多めに出すカ」

アナが呪言を呟くと、再び床から死霊兵が生じる。数は22体。火車の正確な数は不明だが、現状十分に対応可能な数だ。

「気味の悪い獣ダヨまったく」

死霊兵がゆっくりと火車に向かって歩く。その様子を品定めでもするように、舐め回すようにじっくりと見て… 一斉に飛び掛かった。


何かを操作する術。その操作方法は大きく二種類。単純明快、マニュアルかオートか、だ。オートの場合は簡単な命令を与えてそれぞれの判断で動くが個体差が大きい。マニュアルは術師の思い通りに動かせるが、当然のことながら召喚数が増えれば操作は難しくなる。


アナは強い。死霊兵はナメてかかった火車たちを軽く迎撃。驚き一歩引いた火車たちは今度は複数で連携して向かってくる。うまく前後に挟んで交互に飛び掛かり、大きな隙が出来れば一気に首を狙う算段だろうか。だが死霊兵の、いやアナスタシオスの技量はそんな付け焼き刃の連携は歯牙にもかけない。

隙が出来たと後方から飛び掛かった火車。の攻撃が見えているかのように前屈みに回避し、そのまま前方転回しつつ火車にかかと落としを食らわせる。

対面では二体の死霊兵が背中合わせに追い込まれ、四体の火車が一斉に飛び掛かる。が、一体の兵がもう一体の兵の手を掴み大回転。振り回された兵は火車たちを蹴散らす。

「ギニャニャ!?」

「ふん。私が操作しているのだゾ。死霊には見えずともこちらからは丸見えダ」

「ギニャ-!!」

小馬鹿にして見下すアナに火車たちは怒り、何体かが集まって…

「ほう、合体。しかし、知性まではどうカナ?」

まだ余裕のあるアナ。その余裕も概ね正しいのだが


「あっちはアナに任すとして」

「油断は禁物ですよ?火車はその名の通り火の車で罪人を地獄に、ですからね。合体で力が増せば…」

「んな心配ねえよ。アナをナメんな。それよりだ、デカいの何発かぶっぱなせば消せそうか?」

タケトの左目が妖気を帯び赤黒く輝く。その目で未だ実態を表さない敵を視る。

「無理、ですね。さっきと同様、実態が希薄な状態でダメージはほとんど、でしょう」

「向こうは攻撃可でこっちは不可ってか? んなチートありかよ?」

「実はチートってほどではないんですよっと!?」

さすがにこちらの会話が終わるまでは待ってくれない。敵の姿は更に濃くなり、黒い靄を纏った人のようになった。そしてその靄は腕をこちらに向けて翳すと靄が縄のように伸びてくる。

「ふん!」

ミコトがタケトの前に出て、光を纏った手で靄を払う。再び攻撃の手が止まり敵はうねうねと揺れる。

「あれは縊鬼いきと言って自殺衝動を煽り首を吊らせる妖怪です。その呪いの応用で俺たちの手を操ってきましたが」

アナの死霊兵が一体、火車の攻撃を受けてこちらに飛ばされてきた。ミコトがタケトを突き飛ばしつつ避けたかと思ったら死霊の腕に自分の腕を絡めて一回転して上空へ投げ飛ばす。そこには上から襲ってきていた大火車がおり、死霊はそれを回し蹴りで落とす。更には死霊を追撃してきていた大火車二体が標的をミコトへと変えるも、ミコトは手を掲げ、手首を返してクイッと上に向ける。すると光が大火車たちを打ち上げて三体は衝突し墜落。そこに死霊がトドメの一撃で踏みつけた。

「チッ」

「てめえアナ!なんだその舌打ちは!!」

他の戦局に集中して、こちらを見向きもせずに舌打ちするアナに文句を言うミコトだったが、確認することもなく強烈な連携を見せた二人をタケトは素直に称賛した。

「はは、ナイスコンビネーションです… で、アレの術は自死の呪詛なわけですが、わかりやすく数値化するならその術はおそらくAAランクでしょう。ちなみにさっきの絞首術はB。ミコトさんは神の加護で呪詛耐性Sなんでどちらも無効。俺は妖怪部分がAAで人間部分はC、アナさんはBで運悪く効いちゃったってとこですね。実際、あれは術をかけ続けてますが抵抗出来てる。つまりアレが俺達をどうにかするには実態を曝して本気で向かってくる必要がある」

アナにも聞こえるよう大きめの声で、縊鬼の攻撃を払いながら話す。

「あー、つまりはこーゆーとこだろ? 俺らが油断しない限り、現状は只の消耗戦。向こうに不利な?」

「ですね」

「やれやれだヨまったク」

ミコトが疲れた口調で呟き、アナもうんざりした感じに吐き捨てる。

「というわけなので、あとは徐々に確実に速やかに削り潰していきましょう」

「「…了解」」

二人の術師は自分たちよりも年若いこの術師の言葉に、呆れつつ恐れつつ、静かに従うのであった。

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