依頼2~ダイダラボッチ2~
「ふぅ…」
セイヤが深呼吸をして心を落ち着かせる。そして
「じゃあ、ダイダラボッチ浄滅作戦開始!」
の一言でそれぞれが動きだす。掛け声こそぎこちないが、今回はセイヤが作戦の要。リーダーとして場を動かす。
「ウララ、配置に着いたです」
セイヤの呪符を通信機として使い進行状況の報告をする。と同時に、呪力に反応したダイダラボッチがこちらに向かって動きだす。
「ほんとに微弱な呪力でも術に反応するんだな。危ないとこだった」
先ほどタケトが征してくれたことに感謝する。そしてありったけの呪符を取り出して、一気に呪力を練り上げて呪符に込める。
「うまくいきますよ~っにっ!!」
そう叫ぶと呪符をダイダラボッチの頭に向けて飛ばした。千メートル越えの山を越える程の巨体。その頭部だけでも有に数十メートル×3はある。セイヤは向かってくるダイダラボッチの迫力に圧されぬよう呪符のコントロールに集中する。
「よし。間に合った。ウララ!」
「はいです!」
呪符が頭部を囲んだ瞬間、上空に控えていたウララがダイダラボッチの目の前に降りて術を発動した。
「幻と踊れ、です!セイヤ!」
「了解!」
さらに合わせてセイヤの術が発動する。
「座れる場所、作ったからそこで待機しといて」
「了解なのです。気が利くです」
結界の上部にはセイヤの言った通りに窪みがあり、椅子のような形をしていた。ウララはそこに座り術を継続する。
「誤魔化せるもんだな… あとは…」
ダイダラボッチは呪符に反応して虫を払うかのように動こうとしていたが、一瞬その動きが止まり、そして再び動き出す。何事もなかったかのように湖へと戻る。そして山向こうの湖を確認すると、今度は自らが造った山を崩して湖を埋め立てていく。水が勢いよく飛沫を上げるのを見ると、手のひらで水を掬って近くの川に流しつつ、ある程度水が減るとゆっくり丁寧に土を入れて固めていく。
「さあ持久力勝負だ」
~15分前~
「二人なら出来るよ」
「いやいや、ここで俺ら任せですか!?いきなりあんなの押し付けられても!!」
急なことに焦るセイヤ。逆にウララは冷静で、考えを巡らせていたようだ。
「戦って倒す以外の方法があるですか?」
ウララの発言にタケトはにっこり笑い、セイヤは驚いてしまっている。
「アレとまともに戦っても無理ゲーだ。だから、まずは削る。ウララ、あれに幻術をかけるのは可能かい?」
ウララはダイダラボッチを見上げ、そして考える。
「おそらく可能、です」
「そう思う理由は?」
「アレはわざわざ頭を動かして確認していたです。つまりあの頭には目に相当する部位があり、視覚情報を管理する脳に相当する部位がある、と考えられるです。目と脳があるなら効くはずです」
タケトが関心してうんうんと頷く。対して、セイヤはまるで別人のように解析、解説するウララに呆気にとられた。むしろ慌てふためくだけの自分と比べ敗北感にも似た感情に胸が締め付けらる。が、今はそんなことに一喜一憂してる場合ではないと押さえつけた。
「あの術で幻術空間に落とすのか?」
「いえ、あの大きさは無理です。でも修行して簡易版も使えるです。あの動きから動物よりも単純な思考回路と考えられるです。幻を見せるだけならあの頭だけでも問題無いはず、です」
「仮定が多いなぁ… まぁ仕方ないか。どんな幻を見せるんですか? アレは呪力に反応するんですよ? それをいつまで…」
セイヤは途中で言葉を止めた。タケトは二人に任せると言い、ウララも置かれた状況から自分なりの考えを示した。自分も何か示さねばいつまで成長出来ない。セイヤは考える。
「景色を変え続け… いや、行動自体ではそれほど消費している様子はない。ウララの呪力も消費が…
そもそも術に反応… なら呪力を? として最後は? 最後? まさか…」
「何か思い付いたかい?」
タケトは結論に達したらしいセイヤに嬉しそうに声をかけた。
「全く恐ろしい人ですよ。いつからこの方法を思い付いていたんです?」
俺は何も、と笑って首を横に振るタケト。やれやれと呆れつつ、セイヤはウララに説明を始める。
「ウララが幻術をかける。見せる幻はここの元の景色。写真で確認して。で、術に反応するけど、その術は俺の結界で隠す」
「デカイですよ?イケるです?」
ウララの突っ込みに「イケるよ!」とは反射的に答えずに、改めてダイダラボッチを見上げて、手持ちの呪符と自身の呪力総量を考慮して考える。
「俺の術が効けば巨人は再び開拓に動く。が、今度は山を削って湖を埋め立てる作業になる。早ければ一気に崩して終わりだが、たぶんそうはならない」
「何故?」
「それこそ水が溢れて洪水です。溢れた水で景色が変化するのは避ける… と思うんですが…」
そこはいまいち自信が持てない。動物以下の思考回路でその判断が可能なのか、そこは賭けになる。
「もしヤバいようなら幻術の内容変更もあるから、そこは覚悟しといて。慎重に動かれた場合もそれはそれで厄介なんだけど」
「何がです?」
「あの動きで慎重に、だよ? 長い長い持久戦になるよ。呪力、大丈夫そう?」
「問題無いです」
あっさり答えるウララ。これには頼もしさしか感じられないなと笑うセイヤ。
「で、うまく事が進めばダイダラボッチは悩み出すでしょう。どうしても土が足りない、と」
「そうなるね」
「なぜそうなるです?」
納得するタケトといまいちわからぬウララ。
「あのダイダラボッチがあそこにあった山の土から出来た妖怪だからね。山一つ分の土が足りないのは当然。それを埋め合わせるために…」
「自分の体を山に戻す、ですか!?」
二人が頷く。
「そのまま消滅すればラッキーだけど、頭部には脳に当たるモノがあるんだろ? その脳、核が今回のラスボスになるだろうね」
「セイヤすごいです!マスターみたいです!」
「いやいや、しかし本当にうまくいきますかね?」
「イケるさ。自信持っていいよ」
「うまくいったらもっと誉めてやるです!」
~現在~
作戦開始から三時間経過
「はぁ… はぁ… 消費は、それほどでもない、術なのに… くっそ… あ~キッツいなぁ!」
「省エネでも、かなり疲れる、です… 椅子、付きでなか、たら、ダメだった、です…」
二人は慣れない、むしろ初めてだろう同じ術を長時間かけ続けるという作業にかなり疲労していた。うっかりアホな問いかけでもすれば、集中力が切れて術が解け全てが無に帰すだろう。そこに現場から離れていたタケトが戻る。
「もう少しだね。こっちは問題なし。役場と警察、動いてくれたよ。ま、実際に見えちゃってるしね。封鎖完了。念のための呪符も設置完了。反応しなくてよかった」
現場は二人に任せて外の対処をしてきていた。おかげで野次馬等は気にせず戦える。
「あと数回で山は同じ大きさになる。そうすれば体を崩し始めるはず。頑張れ!」
「わかってますよ~も~」
「がんばる、です~」
「絶対に!タイミング!逃さないでくださいよ!」
二人が気合いを入れ直して再び集中力を高める。タケトはというと、ダイダラボッチの作業の巻き添えにならない背後から少し離れた場所に移動し待機。ただの待機ではない。ダイダラボッチが崩れて核が現れた瞬間に攻撃、浄滅させるための待機だ。前もって呪力を高めてしまえば気付かれる。かといって反応が遅れれば、核が次にどんな行動をとるかわからない。対処は絶対に事後、しけし早いに越したことはない、なのだ。
(二人の努力を無駄にしないためにも、一瞬で呪力を高め、一瞬で近づいて、一撃で滅する)
ダイダラボッチの動きが止まる。向こうを向いて、戻って、また向こうを向いて。どうやら崩していた山は同じに大きさになったらしい。それでもまだ山一つ分の土が足りない。悩むダイダラボッチ。そして自身の腕の土に気付き、指先からボロボロと崩壊させて山を成していく。ただ、やはりそのスピードは非常にゆっくり。既に辺りは暗く、三人の、特にセイヤとウララの限界が近い。月が綺麗で優しく照らしてくれるのが唯一の癒し。
そして、その時が来た




