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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第五章
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依頼2~ダイダラボッチ~

「防犯カメラの類いに映像は?」

「なにぶんこんな田舎なもんで。獣やら外人やら、いろいろあるがら、付けれるもんならいぐらでも付けたいんですけんども」

担当の初老の役場職員の中村さんが方言まじりに申し訳なさそうに笑う。

時刻は正午をちょっと過ぎた頃。昼休みを利用してわざわざやってきてくれたらしい。昼食もまだだという。にも関わらずこちらを優先し、さらにこちらも昼食がまだと言うとオススメの店を紹介してくれた。間違いなくいい人だ。だからこそ、こちらこそ申し訳なくもなる。

「金よりも人手のが足んねくて。ほんでもごしたとかずくねとか言ってらんねし」

「「??」」

本音トークで方言がもろに出てしまい、その方言の意味がわからずタケトに助けを求めるように視線を向ける若者二人。まだまだ教えることが多いなと苦笑い。

「ここもきれいな森だったんですよ? これ、空撮写真。遠目からは変わらねように見えるけんど、近くで見たらこんなにぐちゃぐちゃで…」

別れ際に愚痴るように見せてきた数枚の写真。その面影は影も形もなく、不自然に新たな山と湖が造られた。元々棲んでいただろう動植物の被害も大きいはずだ。タケトはその写真の一枚を預かり懐に納める。


先に見てきた湖ですら、昨日の湖畔とはまた異なり街灯も少なく駐車場すらきちんと整備されているとは言いがたかった。事情は様々あるのだろうが観光名所の一つでありながらこのような現状。町の財政は芳しくないのだろう。それでもコネとツテを辿って協会に依頼してきたのだ。どのような契約が交わされたかまではタケトにはわからないし、そもそも聞く気も無い。それでも、だからこそ、つくもタケトという人間は全力で事に立ち向かう。


「いや、別に普通でしょう? てか、役所の問題なんですから、そこでやる気云々言われても」

「セイヤってシビアってか、けっこう薄情だよね」

職員が帰る早々に目に見えてやる気を出したタケトにセイヤの辛辣な発言。さすがにタケトも一言物申す。ウララもタケトに同感の様子。

「言いたいことはわかりますよ。職員さんたちには同情もします。それでも『現状維持』を望んでいるのは住民でしょ? どんなに上が頑張ろうとも下は動かず不平不満ばかり。俺たちは彼らのために、その彼らは市井のために。でも市井は… って構図が、どうしてもなんですよね」

今時の青年らしい自分を外に置いた俯瞰した考え。その分析は間違ってはいない。だが、そこのどこにも自分は含まれない。むしろ上からして見れば文句ばかりで非協力的な市井と同じ括りになるだろう。

(それを言ったら怒って拗ねたりするのかなぁ)

そんなことを思いつつタケトは少し苦笑いし、それをセイヤに軽く怒られた。

「さて、呪力は付近一帯から微弱に感じられる。この呪力が集まって巨人になるのか、それとも発生源があるのか?」

「確認、するしかないんですよねぇ」

「諦めて頑張る、です」



「何が怖いって、普段は信仰心ゼロなのに困った時の神頼み~みたいに急に化物の存在を信じだして敵を強化してしまうこと、ですよ」

湖のほとりをゆっくりと歩く。思っていた以上に足場は悪く、カチカチボコボコの直ぐ隣がドロドロの土砂だったりと慎重にならざるを得ない。

「目撃者が少ないのが救いだね。この足場ではオカルト好きもしんどいようだ。整備が行き届いていないことが逆によかった。それよりも、ほんとにこの足場は厄介だね。いい場所見つけて誘い込めないかな?」

「人間辞めると楽ですよ?」

相変わらずふわふわ浮いて平然としているウララ。足元が既に泥まみれになっている二人に心からの提案。もちろん二人は冗談ではないと拒絶した。

「にしても、今日は暗くなるのが早いですね」

「山の天気は変わりやすい、です?」

「あ~昔もこんなことあったな~やっぱりこのパターンか~」

「というと?」

「上。もういるよ」

タケトの言葉で上を見ると、隣の山が巨大な人型の土の塊に変化していて三人を覆うように這い出て来ていた。

「で…」

デカイなのか出たなのか、その巨体に圧倒されて言葉が続かない。だが、今はこれで問題無いとタケトは思っていた。この巨人は自分たちに気付いていない。だからこちらを見ることなく動いているし周囲から感じられる呪力にも変化が無い。ここでこちらが臨戦態勢に入れば敵もそれを察知して臨戦態勢に入ってしまい一気に戦闘開始だろう。それは避けたい。この大きさを踏まえた打ち合わせを短時間でもいいので行いたい。

「ここまでなんて…」

「まあそんなに緊張せずに。たしかに過去一の大きさだけど」

「マスターでもびっくりの大きさです?ヤバいです?」

「びっくりしたのは今出てきたことかな。もう少し遅い時間だと思っていたからね」

「その理由は?」

落ち着いて話すタケトを見てセイヤも少し落ち着いてくる。少なくともタケトが焦るような事態でも存在でもないから大丈夫だと自分に言い聞かせる。

「妖怪が動き出すのは逢魔時や丑三つ時って相場があるからねぇ。目撃報告が少ないから動いているのは真夜中なのかなって。逆に言えば、力が十分に発揮出来ない時間… だといいなぁ」

「願望!?」

セイヤの大きな声に反応するように巨人が動いた気がした。しまったと思い構えようとするセイヤ。それを直ぐにタケトが止める。


ズズン… ズズズズズズ…


どうやら泥濘に手を置いてしまって体勢を少し崩したらしい。巨人は体勢を変えると再びタケトたちを越えて進む。足を止めると湖の端を削り、土砂を泥の山に張り付ける。その動きは巨体故に非常にゆっくり。その動きから生じる風は夏の夕方には気持ちいいくらいだ。

「……何を、してるんでしょうか?」

「湖と山を造ってるです。忘れたですか?」

「それはわかってる。こっちは全然気にしてないのに別の何かを気にしてるような…」

言われてみればとウララも巨人の行動をしっかり観察する。掘削の何度かに一度、巨人は何処かを振り返っているようだ。

「何かを確認してる?」

「向こうの山と湖の形を見てるんだろうね。どうやら同じモノを造りたいらしい」

「何故です?」

「さすがにそこまではわからないよ。指示されているのか、本人がそうしたいのか」

「タケトさんの予想は…?」

セイヤが少し不安気な顔だ。彼も彼なりに予想し、そして最悪のケースも思い付いたのだろう。その様子から、それは自分と同じ考えなのだとタケトはわかる。

「まず模倣が目的だから同じにしようと確認してるんだろうね。そこまでは問題無い。問題なのはその後。栄螺堂のように模倣に術式を施すのか、それとも…」

「「それとも?」」

「自分が本物になりたいのかもね。同じモノを造って、古いモノを破壊して、伝説を乗っとるつもりなのかも?」

セイヤが深いため息をついてしゃがみこむ。

「だとすれば、相当な被害が出ません? 破壊の仕方にもよりますけど」

「湖の真ん中で暴れたりはもちろん、あの体が崩れただけでもそこそこの洪水が起きて…」

「下の町は水浸しです?」

「それよりも、これを目撃して集まる野次馬が心配だよね。何をするにしても」

タケトがユルい顔で言う。二人はハッとしてそんなユルいタケトを叱る。

「そうですよ! まだ明るいしこんなデカイの町からもしっかり見えちゃいますよ!」

「向こうの湖を見てるなら向こうの湖からも丸見えです!ヤバいです!」

「あああ!結界!今からでも結界で隠さないと!」

慌てる二人をやっぱりユルく、だがしっかりとタケトは止める。

「慌てないで大丈夫。要はアレを暴れさせなければいいんだからね」

「そんなこと出来るんですか!? たぶんもう少しで完成しちゃいますよこれ!?」

タケトは二人をそれぞれ見てにっこり笑う。


「二人なら出来るよ」

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