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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第五章
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依頼2~巨人~

湖の大蛇事件。その蛇の正体は、おそらくは予想した通りミシャグジ様を模したモノだったのだろう。分霊。おそらくは、いや当然ではあるが正式な方法ではない方法で造り出し育てていた、と思われる。そして、本物の怒りに触れ食われた。

呪詛師同盟のカヨの術は召喚術。自身の呪力を餌に蛇の式神を喚ぶという術である。そしてストレスを呪力に変換という特性を持ち合わせており、メンタルが打たれ弱いこと、追い込まれると実力を発揮するタイプということ、キレると元々強い呪力が倍増暴走するという性質があり、それらを利用して喚び出す種を縁の深い蛇に限定したことで最強クラスの召喚術となった。

先程『本物』と記したのは、その術により今回召喚された式神こそが、正にミシャグジ様であった、という見解に至ったからである。我が名を語り領土に被害をもたらす悪しき存在を討伐するために人肌脱いで手を貸してくれたと…



「って、帰るんじゃなかったんですか!? また湖??」

協会への報告書を片手に事件の解説をするタケト。へのセイヤの突っ込み。

昨晩は役所の人が手配してくれていた近くの宿に一泊し疲れを癒した。小さな旅館で急なことではあったが温泉も料理も大満足。すっきりさっぱりしたセイヤは何の疑念もなく朝イチで帰るものとばかり思っていた。そんな思い込みもあり、来た時と違う道を走っていることに深く疑問も持たずにタケトの背で揺られて半分寝ていた。故に「到着」と言われて着いた場所に少しの間、理解が追い付かなかった。

「いや~近かったからさ~ せっかくだからこっちの依頼も済ませてしまおうかなって」

「ああ、例の巨人が作ったとかの。ここがそうなんですね? じゃなくて!報告書ももっとちゃんと!」

「まあまあそんな堅いこと言わないで。ちなみに、ここは現場とは別の昔からある湖でね。そこそこ人気のある観光地だよ」

「また寄り道!?」

「一応さ、見ておこうと思ってね。じゃ、現場はすぐ近くだから行こうか」



再びバイクで走ること数分。中途半端に開拓された場所に出る。

「え? なんか、これ…」

「おお~ 予想的中、って感じかな」

「さっきの湖と似てるです」

依頼の現場に到着。今回は呪力とは関係無く普通に朝に弱くて隠れていただけのウララも、すっかり目が覚めて元気一杯のご登場だ。

「実はさっきの湖はね、それこそ巨人が作ったって伝説があるんだよ。日本各地に伝わるダイダラボッチ伝説。そのうちのひとつ」

「似てるのは同じやつが作ったから、です?」

「これまでの流れから考察すれば、これも伝承の模倣? とすると、ダイダラボッチモドキと戦って倒すってのが目的になるんでしょうか」

「端的に言えばそうなるだろうね。で、確認だけどデカい化物と戦った経験はある?」

真剣に過去を振り返るセイヤ。しかし、今まで戦った最大の存在は教団の先輩巨漢。およそ巨人と言える人ではない。ウララはと言えば、生じて一年も経っていない式神。そしてほぼタケトと行動を共にしている。考えるまでもない。

「というかですね、そんなデカい化物と何回も戦ってるってことが異常ですからね?」

「だよね。うんうん。いい経験になるね♪」

セイヤの声が耳に入っているのかいないのか、タケトは上機嫌。そんなタケトの影響で連れて機嫌が良くなるウララ。に反して、不機嫌とまではいかないが嫌な予感で項垂れるセイヤ。

(さすがに毎回流されてばかりじゃ、いつまでも行き当たりばったりじゃあよくないよなぁ…)

と、気を引き締めてタケトを予想外の質問責めにしていく。

「湖がここまで大きくなった時系列を詳しく…」

「やはり雨だけのせいではないと…」

「湖に気を取られがちですが、あの山…」

ある程度の質問と回答から事件のおおよそを把握したセイヤ。真剣な表情で、さらに深く静かに考え込む。本人には伝えていないタケトのセイヤに対する評価の一つ。洞察力の才能もタケトの上位互換。鍛えればナオズミと同等以上になるかもしれないとすら思っていた。以前に言った『会長候補』という言葉もまた本心なのだ。だが、それを全て伝えるにはまだ若い。故に、そんな期待はなるべく顔には出さないように、次の発言をセイヤ以上に静かに待つ。


「そもそもこれ、本当にダイダラボッチなのでしょうか?」

「お?その心は?」

「いやですね、なんと言うか… まぁ人的被害が無いのは伝説準拠な感じなんですが…」

「めんどくさいです。さっさと結論言うですよ」

「わかってるよ!」

考えることが苦手なウララがもどかしくなり愚痴りセイヤが声を荒げる。とはいえ、優秀ではあるが考え過ぎて足踏みするセイヤの背を、直感型のウララが自信を持てと押してやるような感じのこのやり取りは、師として見ているタケトにとってむしろ心地好い『いつもの流れ』となりつつある。

「俺もダイダラボッチの伝説?を少し調べてみたんですけど、なんか突っ込み処満載な昔話ですよね」

「ふむふむ」

「どの物語でもかなりの巨人じゃないですか。それこそ足跡が湖になったり山を崩して盆地にしたり、その土を富士山にしたり…」

「だねぇ~」

「普通に考えて、そんな大きなのと人間の間で交流は成立しないでしょ。てか、それ以前に被害があるはずでしょ? まぁあくまでも誇大表現の多い昔話ですから、本当にそこまで大きいわけでなかったり、体格のことだけではなく人柄のことを指していたりな可能性もありますが…」

わかったと言いつつも結論になかなか達しない話しにウララはついに飽きてぼんやりと景色を眺めている。タケトはそれに反比例するように、まるで恋する乙女のように目を輝かせて聞いている。

「普通に考えて、巨人、いませんよね。いや、神様の中には、本物はいるかもしれませんが… こんなにたくさんいるはずない。うん有り得ない!」

「その結論は?です」

「あ、うん。ごめん。つまりね、今までの事件とは違って信仰すべき確固たる姿がないんだ。似たような名前だけど姿も大きさもやったこともバラバラ。信仰する対象があやふやなモノであるなら、そこに付け入るスキはあるのかと」

「ワケわからんです」

いやだから、と言い直そうとするセイヤともううんざりなウララとの不毛なやり取り。それを一通り楽しんだタケトが場を制する。

「セイヤの考えは概ね正しいと思うよ。あやふやな物語がモチーフなら、その存在もまたあやふやだろう。存在の根底を崩せばかなりの弱体化、もしくは消滅を促せるだろう」

どうだ!とどや顔のセイヤと無表情のウララ。

「でも、そううまくはいかないと思う。敵もそれはわかっているはず。それでも全国に様々な形で伝わるメジャーな妖怪を選んできた。さすがに無策ではないだろ」

ふん!と見下すウララと悔しそうなセイヤ。

「俺の予想はね、この事件はやはり同一犯によるもので、そしてまだ実験段階なんだと思う」

「実験、です?」

「実験、ですか?」

二人が同様に首を傾げる。

「様々な条件下での力の発現、及び使役の実験」

二人が同様に口元をひきつらせる。今まで悪戯に事件を起こしているとばかり思っていたのだから。

「まるで自分の力で何が出来るのかをひとつひとつ確かめているようだ。もしそうだとしたら、今回の実験は何としても失敗させてやらないとだねえ」

二人が同様に聞きたい質問を声に出せずにいる。それは逆に言えば成功した場合に何が起こるのかを聞くのと同意なのだから。

「あやふやな存在であってもそれなりのモノを発現使役が可能となれば、あとは敵の趣味次第で何が出てくるやら。果たして俺たちにそれを止める術はあるのやら…」

これはあくまでも可能性の話だ。タケト個人の想像に過ぎない。今は可能性を論じるだけの時間。術師にとっては、このいくつもの可能性を想像し対処を深く考える時間もまた大切なのである。

「だが」

事件を軽く考えていた二人は事の重要性にすっかり畏縮してしまっていた。そんな二人を見据えてタケトは続ける。

「戦いにおいては些細なミスが、微々たる影響が、ほんの僅かな亀裂が、重大なイレギュラーを引き起こして致命傷になることを俺達は知っている。そして、それを拠り所としなければならないほど君らが弱くはないことも知っている」

そして、二人はこのタケトが自分よりも強く大きな化物と何度も戦い、そして勝利していることを知っている。

「敵の取り得る対策を予想して、その対策をする。さあ、どんどん意見を出してこう」

セイヤは僅かながらに自信を取り戻し自身を鼓舞するようにうんと頷き、ウララもタケトの自信ありげな姿に喜び大きく頷く。


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