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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第四章
43/82

古き神々の模倣の意図は

「へぇ~本当にそっくりに造ってあるんだ」

中に入って直ぐにタケトが感嘆の声をあげる。

「階段じゃなくてスロープ? 珍し… てか変な感じがする…」

セイヤが感動と愚痴?の混じった感想を述べる。

「なんか歩きにくいです。浮いてていいですか?」

ウララがそう聞くと、答えを待たずに宙に浮く。

「え? こいつ浮くの? てか、もう少し慎重にならねえのお前ら?」

自由奔放な一行にキョウスケが呆れてしまう。だがそんなことは気にもせずタケトは軽く答えて笑う。

「ウララ、地縛霊って設定がまだ生きてんですよ。幽霊って便利ですよね~ てか、セイヤはさざえ堂は知らなかった?」

「そういう建造物があるのは知ってましたけど… ええ、そうですよ。どんな造りだとか歴史的背景は知りませんでしたよ!所詮はテスト勉強で暗記したレベルです!」

タケトにマウントを取られたような気がして少し不機嫌になるセイヤ。もちろんタケトにそんなつもりはないのだが。だからこそ、タケトはセイヤのフォローも兼ねたコメントをする。

「最近はネットで全部調べられるからね。ARで実際に見るのと限りなく近い体験は可能だし。でも、それでもやっぱり実際に見て触れることは…」

「あーわかったわかった。んで、どうよ? 中に入ってなんか感じられることはあったのかい?」

タケトのフォローがセイヤには逆効果であることをなんとなく感じて、そしてこういう説明もなんとなく苦手だと感じて、キョウスケが話題を変えようと流す。タケトはちょっとだけ寂しそうな顔をするも真面目に答える。こういうところがタケトなのだ。

「まだ何も。とりあえずはゆっくり、慎重に上まで行ってみましょう」

三人も真顔で向かい合って頷いた。



「で、ここまでは何事も無し、か」

慎重に、とは言っても本物同様に一回転半程度で最上部だ。あからさまにキョウスケは肩を落とす。観光大使としての立場というのもあるのだろうが、それ以上に知人の、しかも協会の術師を呼んで進捗無しでは、互いの信用もだが市の財政面でも大打撃と言っても過言ではなく…

「ま、そんなこと気にしててもしょうがないんだけどさ」

「いや、気にしてくれよ。ほんと頼むぜ?」

泣きそうな顔になるキョウスケを見て笑うがキョウスケ本人は大真面目だ。それにタケトたちも事件解決とはいかずとも、何も成果を上げられねば協会の評判を下げかねないのは確か。実のところ『そんなこと気にしててもしょうがない』わけにはいかないのだ。

「ここまでは壁にも床にも天井にも、観音像が納めてあったと言われる厨子にも特に仕掛けはなし。この最上部には本物と同様に皇朝二十四孝の額が飾ってあるが、やはりこれにも特に変わったところはなく、天井の千社札もしっかり模倣してあるが呪詛的なものは感じられない」

天井を見上げながらタケトが解説混じりの現状報告をしつつノートに書き留める。報告書には詳細な経緯も必要なのだ。どういう事案にどう対処したか、は後進の術師はもちろん、先達もまた知見を広めるためにとタケトのそれは需要が高い。

「いやぁ、でも初めて見たけど… ちょっとビビりますねこれ。札がびっしり貼られているってのは、なんか背筋にぞくぞくきますよ」

「符術師が何を言ってんの」

タケトの突っ込みにセイヤがムッとする。ここまでで既に何度か見た師弟の不仲な様子。そしてキョウスケは既に何度か発症した胃の痛みを感じた。

「仲良しでもケンカでも何も反応無しなのです。天井の奥にも何かある感じはしないのです」

「ウララ、もういいから降りておいで」

ウララが浮いて天井の札を間近で確認しながら話すのをタケトが呼び寄せた。ロリータファッションのウララ。中はドロワーズとはいえ、さすがに男性らは目線に困る。

さて、彼女の言うとおり感情が大きく変化することですら反応無し。つまり人間に反応する術や仕掛けが隠されているわけではなさそうで…

「ぶっちゃけ、通路の天井と床って帰り道は逆に床と天井になるんですよね? 裏側から調べて変化あると思います?」

「調べてみないとだけど… まぁ、ね…」

踏むや触るで発動するトラップ系の術は多種存在するが、タケトの左目のような感知系の術やセイヤの探知型の呪符、ウララの同質の存在を感覚的に捉える能力等で発見は難しいものではない。どんなにうまく隠していたとしても違和感は出てしまう。仮に遮断の術で隠していたとしても、これだけ入念に探索すれば何も感じられない場所が、マッピングされない空白地帯が出てしまうはず。

「とりあえず一回外に出て、今度は逆に回ってみようぜ? そういうトラップかもだからよ?」

進展が見えず重くなった空気を払うかのようにキョウスケが大きめの声で提案する。

「仏教の礼法である右繞三匝うにょうさんぞう。それを模してる以上、確かに反対に巡れば礼に反して怒りを。それが発動条件なら或いは…」

とタケトは指を口元に当てて呟くように話した。その言葉に納得し、そして焦りの見えるキョウスケを元気づけるために。


「風が出てきましたね」

下りのスロープ。小窓から外を見ると木々が大きく揺れている。音も少しずつ大きくなってくる。

「予報では注意報とかは出てなかったし、いきなり木が折れて吹っ飛んできても問題無い連中だけだろここには」

少し元気になったキョウスケが笑って言う。も、タケトは無反応。タケトだけではなく、セイヤもウララも。そしてキョウスケも真顔になる。呪力だ。大きい。しかもどんどん大きくなって、それは景色が歪んでいく程である。一行は『ここに居続けてはヤバい』ということだけは理解し、全速力で御堂から抜け出した。


「なんだってんだいったい!?」

「きっかけはもしかして」

「ああ、この風、だろうね。確かにドラレコの映像でも木々が揺れていた。だがそれだけでこれ程の… うわっ」

「きゃっ!?」

風の音と共に大きな呪力が背後から押し寄せて周囲を染め上げる。景色は一変して、黄昏時の… 逢魔時のような赤黒い色に染まる。御堂は朽ちて腐って崩れて落ちておどろおどろしい姿となり、周囲の林も閑散として真っ白な、化石のような枯木が十数本を残すだけとなった。

「マジでなんだってんだいったい?」

「どう思う? セイヤ」

「完全にやられましたね。罠は御堂にあるとすっかり思い込んでいた。でも実際は、罠はこの付近全体にかけられていた。だから御堂に違和感なんてあるはずもなかった」

「だね。術の中で術を探していたとは、なんとも間抜けなことをしてしまったよ。だが問題はこの呪力だ。相当に大きい。というかこれは…」

タケトは周囲を再確認する。そして自身の知識をフル動員して、置かれている状況、そして呪力の大きさから、ある推測を皆に伝える。

「まずいな。家宅六神の力っぽい…」

聞き慣れない神の名前に困惑する。タケトも皆が知るはずもないだろうと少しの説明をする。

「家宅六神は建造物を司る神々。土を石を、戸を屋根を、そして木々とそれらを囲う空間を各々司り、内に住まう者を守護する存在だ」

「にしてはずいぶんと…」

キョウスケが呟いて周囲を見渡す。他の二人も同様同意見だ。

「うん。おそらく、これはその力を逆転させているね。方法はいろいろ考えられるけど、それは一先ず置いておこう」

「これも置いておくのですか?」

ウララが白い枯木の側でタケトに問う。どういうことだとセイヤとキョウスケも近付き、そして絶句した。タケトは気付いていたのだろう。そちらには視線を送らず、周囲を警戒しながら返答する。

「木や石を用いて人を守る。その逆。人を用いて木や石を成した。元に戻せるかは現状不明。傷つけないようにだけ気をつけて、今はすべきことがある」

「いや、これほっとくと… か…」

セイヤがタケトに対して怒る。が、その怒りは途中で止まってしまった。タケトから溢れるセイヤ以上の怒りの呪力によって。キョウスケも同じく感じていた。これは安易に触れてはならないモノだと。


「じゃあマスター、これからどうするです? 敵の姿も確認出来ないですし、出入口だったっぽい御堂もこの状態では脱出は難しいのです」

ただ一人、良くも悪くも平常運転のウララがふわふわ浮きながらタケトに問う。

「……そうだね。少し、乱暴な手を使おうか」

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