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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第一章
4/82

情報

タケトたちが突入する少し前。若頭たちが帰ってきた時。組事務所のテレビには男性タレントと女性アナウンサー、そしてゲストにはタケトたちの見知った顔が映ったいた。


『本日のゲストは美人すぎる若社長でお馴染みの青天目なばためミサトさんでーす』

『どうもはじめまして。やっぱりその紹介は恥ずかしいですね』

『いやいや、実際とてもお綺麗で。しかも20才足らずで起業して、今やこの国には欠かせない会社になってねぇ』

『今夜はそんなミサトさんの生い立ちから会社設立に至るまで、そしてあの事件のこともお聞きしたいと思います』

『お手柔らかにお願いします』


と冒頭でのゲスト紹介が終わったあたりでタケトたちが窓から入ってきた。そして一騒動の後、タケトがふとテレビの方を向いた時も番組は続いており…


『そしてあの事件が』

『そうなんですよ。あれは本当に… 言い訳していいですか?』

『ぜひぜひ』

笑い声が流れる。ミサトの人生年表のフリップから顔のアップへとカメラが流れるように移動する。

『実は、呪術師協会には元々知り合いがいまして、何度か足を運んでいたんです』

『へ~』

『そうだったんですね!?』

『もちろん詳しい内情なんかはまだ中学生だった私に教えてくれることもなかったし、あったとしても理解することは出来なかったでしょうし…』


「はは。よく言うよ」

タケトがついテレビのミサトに突っ込みを入れる。組員たちは真意がわからずその様子を黙って見ているしかなかった。


『…で、あの事件が起こると』

『はい。やっぱりすごく驚きました。そして、同時にそんな人ばかりではないのに、という思いもわきまして。居ても立ってもいられずに行動に移してました』

『術師専門の情報サイトの作成。そして同じく術師専門の職業斡旋事業の設立ですね』

『怖いのは知らないから。私も知らないままだったら同じようにただ怯え、そして非難していたと思います。でも知っていたので。知ってることを伝えていこうと思って…』

『起業にあたっては、子供の頃からの実家の手伝いの経験が役に立ったわけですね』

『そうですね。そこは親に感謝しかないです』

そう言って笑う。その笑顔に嘘は感じられず、タケトも優しい顔で微笑む。

『サイトの有益性が認められて世間に広まり、職業斡旋事業も認可され、全てが順調にと思われたその時、予期せぬトラブルに見回れます!』

男性タレントが年表の隠された部分をペラリとめくると、『ハッキングで情報が盗まれる!』という文字が現れた。ミサトが神妙な顔つきになる。

『セキュリティには一番自信があったんですけど、情報が盗まれた術師には本当に申し訳なくて…』

『情報を提供するサイトとはいえ、公開されるべきではない個人情報もありますからね。この時はだいぶ叩かれたんじゃあないですか?』

『はい。それはもうご存知の通り』

苦々しい顔で笑う。つられて司会者たちも笑う。タケトは申し訳なさそうに笑う。


「俺の我が儘で大変な目にあわせてしまって。ほんとに申し訳なかったなぁ」

(ん?)

「俺の我が儘?」

セイヤも若頭も、鈍い他の組員もその言葉に疑問符が浮かぶ。

「ああ、この情報が盗まれた術師ってのが俺。俺の依頼でそーゆーことにしてもらったの」

「「はあっ!?」」

「実際にハッキングされた形跡がないとさ、調査された時に不具合があるからって、実家の会社からハッキングして自分で情報盗んで」


『ご実家の会社は残念でしたね~』

『この会社を大きくする!というのが夢の一つだったので、倒産が決まった時は半身を失ったような感覚でした』


「一応、いくつもサーバーを経由して足がつかないようにしたってことだったけど、念には念を入れてハッキング元の実家の会社を消しちゃう周到さには本当にね… まぁ、実際に倒産目前ではあったらしいけど」


『今度はそんなことのないように安心安定の経営を心掛けていきたいと思っています』

『今夜のゲストは青天目ミサトさんでした』

『ありがとうございました』


「次は無いからねってきつく言われたよ。こんなお願いすることも、もう無いだろうけど」

「なんでそんなことを!? 実家の会社を潰してまで!? なんの意味が??」

一同理由を知りたくて身を乗り出す。タケトも別に隠すつもりもないようで、そのままさらりと答えていく。

「黒ナミ事件で二柱が降臨されたのはご存知の通りだけど」

組員たちは(いや、ご存知ねえし)だが話は続く。

「そのちょっと前にも、とある場所に神が降臨してたのは知ってるかい?」

若頭はむっと眉を動かす。何かに気付いたようだ。セイヤもはっきりと覚えていたようである。

「あの頃は能力に目覚めたてだったのでよく覚えています。どこからかすごく強い力がドーンと溢れ出て、でも一瞬で消えて。で、後に黒ナミ事件のことを聞いて…」

「うん。あの事件の関連だと思うよね。そこを強力に紐付けたくて俺の嘘情報を売りまくったのさ」

「おいおいおいおい!!」

「わけわからないですよ!?だからなんで??」

二人は混乱する。他の連中に至ってはポカンとしてしまっていた。

「最初の力はレイナさんが呼び出したトト神なんだよ。彼女は俺の命の恩人なんだけど、性格上隠し事がうまくない。でも神を喚ぶ力があるなんて知れたらいろんなものから狙われてしまうだろ? だから、先ず一つ目の理由としては恩人である彼女を守るため。ごめん、お茶かコーヒーもらえるかな?」

タケトが一番下っ端と思われる男に向かってお願いする。若頭も俺のも頼むと指を3本立てる。セイヤがペコリとお辞儀をする。

「もう一つは、九十九の尾の捜索のため」

(つくもの尾?しっぽあったの?実は妖怪?)と組員たちはまたもやポカン。

「俺という存在はなんとなく知られはじめていたからね。少しでも情報が欲しいと思っていたところ、情報を盗んだ奴が現れて闇サイトでそれを売り始めた。一気に注目を浴びて予想よりもかなり早く広めることができたよ。おかげでトト神のことも新しい神の誕生によるもの、という嘘も浸透した」

「自分を餌にして虚実交えた情報を流して。はっ!全てお前さんの思い通りってわけかよ」

「そうでもないさ。こっちもしっかりと割りを食ってる。高額な報酬をふっかけられたし、全くの嘘だと直ぐにバレるからね。そこの部分以外は全部本当のことだよ。家族のことも使用する術のことも」

君も見た通りにね、とでも言うような口振りに若頭は舌打ちする。例に漏れず、この組もタケトの情報は購入していた。突如現れて政界、財界、裏社会相手に期間限定で情報を売っていた人物から…

「あの売人、まさかさっきの嬢ちゃんか!?」

「そ。悔しそうな顔してたけど、俺からの報酬に君たちからの代金。夢はプライスレスって言うけど、失った見返りは十分あったんだよね~ なかなかにしたたかでしょ?」

「自作自演にも程があんだろ…」

「おかげで俺にもいろんな情報が入るようになったよ。一流の術師相手に一方通行で情報搾取なんて無理な話しさ」

(あ、これも嘘だな。情報系の術は専門外で協会頼みだもんな~)

しかし、若頭たちはこの言葉を鵜呑みにし、だから取引の情報も漏れたのかと納得してしまう。セイヤはこの流れを見て感じて、気付きを顔に出さないように、しかしこういう駆け引きは学んでおこうとしっかり聞き入る。

「で、ここまで話したってことは…」

「そうだね。全員処理させて頂くよ。でも、こちらの条件を飲んでもらえれば…」

「そいつはお断りだ。目的が達成出来ない以上、俺らが生き長らえる意味はねえ」

これには全員同じ意見のようだ。一番下っ端ですら姿勢を正して真っ直ぐ正面をいい顔で見る。組長の写真を真っ直ぐに。

「組長さん、今は?」

「そういう情報は仕入れねえのか? 一番大事だぜ? 持病の悪化で入院中。余命僅かさ」

「なるほど。だから尾を売って…」

「入院費用だけでもバカにならねえからな。俺らみてえなバカをかき集めて育ててくれた、親みてえなもんだ。なにがなんでも助けてやりてえ」

「だったらもっと真っ当な方法で…」

とセイヤがしまったと途中で口を塞ぐ。が遅かった。当然組員らの怒りを買ってしまう。

「それが出来りゃ苦労しねえ!! 学も伝手つてもねえ俺らが大金を稼ぐのがどれだけのことか…

うちはオヤジの方針でヤクも売らねえ。だから上からも煙たがられている。誰も助けちゃあくれなかった」

そんな感情を露にした告白にも、タケトは冷静に聞き、そして呆れていた。

「やれやれだ。なにがなんでも助けたいって吠える割に、簡単な方法にはすがろうとしない」

「あ?」

「仕方ない。俺から条件を提示してやるか」

そう言ってタケトは前屈みになり、若頭を睨み付けてなるべく脅すように声を低く続けた。

「九十九の尾を寄越しな。そうすりゃ組長もお前らも全員助けてやる」

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