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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第三章
37/82

clean up the mess and repair the problems

「たあああああ!!」

チヨの渾身の一撃が鎧武者の脳天を直撃する。鎧武者も刀で受けたが籠手ごと叩き落とされ、そのままの勢いで打ち砕かれた。鎧はタケトの術で耐久力のほとんどを失っており、チヨにトドメを差された感じである。ほとんどのパーツはその場に散らばり、兜は床に打ち付けられて跳ね、少し離れた場所に転がり、やがて動きを止める。

「終わった… のか?」

「うん。終わりだね。お疲れさま…っと」

「互いにまだまだ未熟、かな?」

チヨに近づき労おうとしたが、瓦礫に足を取られてふらついてしまい、逆に体を支えられてしまった。

「いや、ほんとだね。術は使いこなせていないし、本命にも結局は逃げられちゃったし」

二人は船内の状態を目視で確認しつつ上を目指して歩く。途中、倉庫の前で悩むマリアに遭遇。オークションの商品を置いて避難など出来るはずもなく、一人残っていたらしい。周囲には付喪神化して返り討ちにあったのだろう物たちが散乱。予想通り商品は化けることはなかったようだが、運ぶための道具は化けて砕かれたので、どう運ぼうかと悩んでいたところだった。タケトたちは荷物持ちとして雇われ大荷物を抱えて再び歩く。間も無く甲板に出る頃、タケトのスマホが鳴った。

『終わったら連絡くらいしやがれ。そろそろか?』

「あ~すんませんです。もう上に出ますんで、よろしくお願いします」

『ったく』


「たくよ~荷物が増えたんなら、そういうことも連絡しなきゃダメだろが! 呪力配分ってのがあんだよ! ったく」

「いや~すんませんです。でもユージさんだし、問題ないかな~って」

「誉めてんのかナメてんのか…」

「もちろん誉めで」

先輩術師のユージ。ミコトの弟子でミコトに憧れる青年。故に衝突もあったが紆余曲折を経て和解。今は協会での階級はタケトの方が上だが頼れる先輩術師の一人。愚痴もお説教も友情愛情のひとつだ。

「んじゃ、俺は先に行くから、あとはしっかりやっとけよ?」

「ええ!? マジで置いてきぼり!?」

「船自体は無事だからな。船長が責任持って残るって聞かねーんだわ。機関士やスタッフらは明日から来て調べて、そっから寄港する予定。お前はそれまで護衛。もし一匹でも潜んでたら襲われてアウトだからな。ま、お前の仕事だから問題ねーんだろ? ゆっくりデートの続きでもしてろ」

そう言って魔法の絨毯でマリアと大荷物とで、まだ暗い海を渡って行った。

「あ~また魔法の絨毯、行っちゃった…」

「続きって、この状況で?」

名残惜しそうに見送るチヨと、ボロボロの船内を見てため息のタケト。豪華絢爛な巨大クルーズ船はどこへやら、一夜にして幽霊船の佇まい。船長と顔を見合わせて苦笑いし、とりあえずは無事に生き延びたことを喜ぶ。そして、夜に目も慣れて来たので船内へと戻る。

「私は船長室で待機しているので何かあれば」

「自分たちもとりあえず客室で休みます。さすがに疲れましたよ」

「だな。この広い船を何往復したか。もう足がパンパンだよ」

チヨだけではない。船は広く乗員数もかなりの数。若頭たちやヤスたちだけでは円滑な避難は無理だった。スタッフたちも備え付けの機器が使えない状況になったことで船内中を走り回り避難活動を行っていた。皆ヘトヘトで、そして清々しい顔で輸送されていった。被害は多かったが、客からの信頼は充分な程得たことだろう。

そんなことを考えているうちに、二人はすっかり熟睡していた。そして朝日が昇る。



「おう、楽しめたか?」

「一瞬で爆睡でした。そもそもこんな状態の船で何を楽しめと…」

「そりゃあお前…」

「セクハラ!」

こんなバカ話で朝から大笑いだが、ユージも何百人もの人間を運んで行ったり来たりと相当な疲れのはず。そして今日も朝からスタッフを何十人も乗せてやって来たのだから頭が下がる。

(音沙汰無しか?)

バカ話を続けるように、ユージはタケトと肩を組んでニヤニヤこそこそ。しかし、その内容は至って真面目なものだ。

(はい。結界に反応は無し。またしばらく潜る可能性が高いですよね)

(鑑識が調べたが、該当データ無し。海外の医療機関にもだぜ?)

爆睡してたとはいえ、タケトは結界を張って報復に備えていたし、敵の残した足も回収し協会の鑑識班に調査を依頼していた。例の三人の術師にもキツい取り調べを行っていたが、どの情報にも該当する人物は存在していなかった。

「また振り出し、か」

帰り道。空飛ぶ絨毯の上、テンション高めのチヨをよそに真面目な話を続ける二人。もちろん闇医者なら、ということも考えたが、そもそも闇医者は一般の医療機関以上に情報は出さないのは当然。それに個別に調べるにしても所在自体が不明。途方もない時間と労力になるのは明らか。しかも、何の結果も得られない可能性が高い。

「諦めんのは早いぜ。身体の一部から居場所を特定出来るって術師もいるからな。何人か集めて引きずり出すって息巻いてたぜ」

「頼もしいですね。あ、そういえばマリアさん。やっぱり尾が使われた形跡は?」

「ああ。他のオク品も同様。持ち出された形跡すら無し。つか、マジか?」

「俺が戦った鎧武者。術師の魂を憑依させていたのは確実です。そして、その達人…」

「ゲンさんに確認した。術の特徴からほぼ間違い無いだろうってよ。春夏秋冬ひととせ流で。たしかに、んな過去の達人の魂を引っ張り出すにゃあそーゆー呪物でも使わないと難しいだろうってもな」

「ともかく、我々のやるべきことは無事に終わったわけだ。愛しの我が家に戻って、ゆっくり休もう」

疲れに憑かれた顔の男二人にチヨが明るく声をかける。確認したいことはまだまだあったが、この場で二人でやり取りするよりも、後日しかるべき場所で人数を揃えて行う方が良いのは間違い無い。今はもう考えることをやめて、ただただゆっくりと休みたかった。

「つーか、俺は独り身だから帰ってもさみしいだけだっつーの!」



その日の午前。タケトたちが帰宅の途中、協会にとある術師から取引の連絡があり、その対応に慌ただしく動いていた。有力術師が召集されて、近くにいた者たちが直ぐに集まり緊急会議が開かれる。そこには前会長の政宗ゲンゾウの姿もあった。

「一言一句間違うなよ。確かにそいつは『我が欧州協会とは無関係。個人的な取引だ』と、そう言ったのだな?」

「はい。正しくは語尾が『でござるよ』でしたが」

「その語尾に欧州の言葉で何か特別な…」

「いや、それはない。念のため調べもした」

「金銭のみでの取引か。他に条件は?場所や、取引方法の指定は?」

「特には。応じる時は連絡をくれと。あと3日は日本にいるからそれまでに返答を、と」

「その時にいろいろふっかけられるのでは?」

「向こうも尾の噂は知ってるだろうに。個人的にとはいえ、こんな取引をしても大丈夫なのか?」

海外の術師の集団、特に欧州の魔術師協会は歴史が古くプライドも高く、日本とはその在り方も異なるためにそれほど交流があるわけではなく、それ故に仲が悪いこともないが良いわけでもなかった。なので、こうした取引にも必要以上に慎重にならざるを得ないのだ。ただ今回にかぎっては

「拙者は資金調達が仕事。そして骨董品が趣味の風来坊。今回の旅行もプライベートではござったが、尾のことはこちらの協会も知ってござったし、日本から持って帰るのも難しい逸品とも伝えてござったし。とりま一通り愛でて満足した所存故、転売で一儲け、となった次第でおじゃるのよ」

とのことだった。トリスタンの独特の雰囲気に初めは怪しさで警戒心MAXだった術師たちも、別れる時にはすっかり意気投合。名残惜しさにいつまでも見送っていた者がいたほどだった。

結局、その場に立ち合うことが出来なかったタケトは少しがっかりし、そして終わってみればかなりの額が動いたことに有力術師たちは肩を落とし、そして、その尾にはやはり使われた形跡が無いことに皆が不安を覚えた。

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