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二人を見送った後のタケト。なるべく数を増やさないようにと呪力を断ち、徒手空拳で付喪神たちを相手する。敵は変化したての、体当たりと噛みつきだけが能の妖怪。そこに驚異は感じられない。
「とはいえ、素手で戦うのはしんどいな。そうだ」
カナタ仕込みの太極拳もどきで妖怪たちを受け流していたタケトはふと思いつき、躱した椅子の足をすれ違い様に掴んで持ち上げ振り回す。次々と飛び掛かってきていた皿やカップ等の小さな妖怪たちは弾かれて砕かれ、元の道具の姿へと戻る。もちろん砕かれた道具の姿に。
「とりあえず、この部屋だけでも片付けておかないと、だよね。今のところ順調だけど…」
余裕の出来たタケトはスマホをいじりながら対処する。小物相手なら全く問題無いようだが…
ズシン… ズシン…
奥の調理場から大きな足音が聞こえる。小物たちを相手しつつ其方の方見て、タケトはドン引いた。
「業務用冷蔵庫もかよ。でかすぎだっつーの」
タケトが椅子を投げ付けるが、椅子は壊れて落ちるも冷蔵庫は無傷。その攻撃に怒ったのか、冷蔵庫は雄叫びをあげて突っ込んでくる。
「やれやれ。普通の人間にこんなのの相手は無理だっての」
タケトは突進をギリギリでしゃがんで躱し、そのまま足払いを仕掛けて冷蔵庫を転ばせる。
「っってぇ!!ッらあっ!!」
なんとか払うも足に激痛が走る。しかしそれを堪えて転倒させ、倒れた冷蔵庫の背中?に向かってジャンプして力いっぱい踏みつけた。
「だろうね。くそっ!」
タケトは出来るだけ新たな付喪神を発生させないように呪力を断ち戦っている。先程の『普通の人間』とはそういうことだ。そして、その普通の人間が業務用冷蔵庫を踏んだところで行動不能な程に破壊するまでには至るはずもなく。そうこうしてる間に、奥から別の冷蔵庫が二体やって来た。
「…いるな」
冷蔵庫の上に乗って一緒に現れた包丁が冷蔵庫から飛び降りる。そして冷蔵庫が包丁たちを張り手で打ち出した。タケトはそれを回避するも、後ろで起き上がっていた一体目の冷蔵庫が受け止め、再び張り返す。
「まったくもってめんどくさ… お?」
遠くから聞こえる悲鳴。どうやら他の場所にも付喪神が発生したようだ。逃げる乗客の中には術師もいる。その呪力を吸って付喪神化。十分に考えられることではあるが、いったい船内のどれほどの物に術を施したのかと気が滅入る。
「まあいいや。ここまで、ってことで」
タケトは脱力し、呼吸を整える。それを隙だと勘違いした妖怪たちは一斉に襲い掛かる。対してタケトは動じることもなく、懐から全ての札を取り出して唱えた。
「大結界 妖禍衰贄」
札は燃え、放たれた光が妖怪を弾き飛ばしながら四方八方に拡散する。学園の時と同様に船内に隠された結界を形成する札から札へと走り、広がり、間も無くクルーズ船全てを包み込む大結界が完全した。その術に反応して様々な物が新たに付喪神化する。食器以外にも衣類や家電、装飾品までもが目鼻口耳が生え、手足が伸びる。羽や角、尻尾のあるモノもいる。その姿はあまりにも歪で不気味。中には本数や長さも不揃いなモノすらおり、ただただ強い呪力の元へ、タケトのいる場所へと向かって這いずる。タケトは次々にやってくる化物たちを、今度は術でもって撃退していった。
「この結界内にいる敵はね、全身が徐々に捻られるんだよ。ほんとは捻り潰して切り裂いてやりたいんだけど、俺の力ではさすがに無理みたいでさ。しかもこれ、広範囲にすればするほど一体一体に加わる力は弱くなる。この広さだと、赤ちゃんにつねられた方が痛いかもね」
タケトは戦いながらわりと大きな声で話す。が、周囲には付喪神しかいない。
「……いや、そろそろ出てきてもいいんじゃない?なんのためにそこにいるんだよ?」
タケトが呆れてぼやく。その言葉に反応したのか、自信満々の顔をした冷蔵庫たちが出てきた調理場から数人の男たちが現れる。
「さすがはツクモだな。俺たちの存在にちゃんと気付いていたか」
「しかし、こんな結界に何の意味があるのやら」
「小物とは、追い詰められると時になんとも不可解な行動をするもの。あまり苛めてやるな」
三人の… いかにもな、細ノッポと太っちょロン毛とチビメガネの三人組が、いかにもなセリフを吐く。
「………はぁ。一応聞くけどさ、雇い主は何処?」
「はて? 雇い主とは?」
わざとらしい疑問文で返すチビメガネにうんざりしながら、新たに部屋にやってきた付喪神を相手にしながら、タケトは返答する。
「付喪神発生術はあんたらの合作だろうけど、その術を教えたやつ、この作戦の発案者、いるはずだ」
「何故そう思う?」
今度は太っちょロン毛が言う。タケトは三方向から迫る業務用冷蔵庫たちの中心で一回転すると凄まじい呪力の渦が発生し冷蔵庫たちを巻き込む。そして軽くジャンプして左手を床に叩きつけると、冷蔵庫たちも床に叩きつけられた。
「畔渦 断!!」
頭部?が捻り合わされ潰されて、それでもなんとか動こうとしているがどうにもならない。空中から襲い来る衣類たちを迎撃しつつ、それらにトドメを刺してタケトは叫ぶ。
「なんでもクソもお前ら三流にこんなこと出来るわけないだろ! なんでわざとらしく自分の存在アピールするかな? なんでわざわざ敵に姿を見せるかな?あと、船内全域で付喪神発生させたんだから一般人に危害が及ばないように引き寄せるのは当然だろ! 聞くまでもないだろ!?まったく。この後の展開もだいたい読める。だ~から簡単に対処される」
珍しくイライラして怒り心頭のタケト。そのタケトの力と圧に怯みそうになるも、なんとか堪えて更に強がる三人組。
「ふ… ふはは! な、なにが読めるって?どう対処するって? 強がるのもよしたまえ!」
タケトはもうこれが最後だぞ、とでも言うようにスマホを見せる。
「?そのスマホがどうした?」
「オークション開催時間は電波の届かない海上。もちろん衛星通信は搭載しているが、通信機器を優先に付喪神化させたろ。さすがに客のスマホまでは付喪神化させられないが、それで海上での連絡手段は無くなる。上手い手だ。にもかかわらず…」
「だから何も出来ないだろ?それともこれからいよいよ付喪神化するこの船自体を破壊す…」
「おい!」
「あ」
さすがにネタバレが過ぎると仲間に止められるが、タケトはもはや呆れることすらしていない。
「大丈夫だよ。想定済み。だからもう連絡取った」
「なんで?どうやって?ハッタリだろ!?」
「だ~か~ら~!スマホ!電波三本!」
タケトのスマホは電波がバッチリ入っていた。そして慌てて自分のスマホを確認する三人組。
パシャッ!
三人組はシャッター音に驚きタケトを見る。
「船の付喪神化は予想出来たから、船長にお願いして電波入るとこまで近づいてもらった。あとは協会が動いてくれる。そして…」
全てを言い終わらないうちに三人は逃げ出してしまった。
「送信っと。顔、どうせ変えてないだろ? 下手すりゃ名前も。直ぐに身元は判明する。そうすれば、この破壊せざるをえなかった物たちの賠償請求も俺たちじゃなくてあんたらに突き付けられる。てか、とっくに協会が動いているんだ。逃げ場なんて何処にもないっての」
既に付近の陸地には術師たちが配置され、索敵能力の高い者たちが船を監視している状況だった。泳ごうが飛ぼうが、見つからずに逃げるのはこの三人にはちょっと難しい。
(ふぅ… 落ち着け落ち着け。本命が残っている可能性がある以上、全てを見せるはダメダメだぞ)
タケトは大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
(主犯は狡猾。囮の使い方が巧いね。さすがにオク品までは付喪神にされてないと思うけど… ま、向こうはマリアさんがいるからいいか)
ミシ…ミシミシ……
そんなことを考えながら立ち振舞っていると、天井や壁から異音がし始める。もちろんこれも予想はしていたが、出来ることなら起こってほしくはなかったことではある。
「よいしょー!っと」
カゴ台車の付喪神らしき妖怪を、車輪を利用してぶん投げて周囲を払ってスペースを確保する。と、異音が更に大きくなり
バキバキバリッ!!
天井を、壁を、あらゆる障害物を破壊して大量の付喪神が雪崩れ込む。一体一体の力は弱くとも、物量による重量で床や壁は破壊された。
「まあこれで一般人の安全はより確保されたかな? あとはこの雪崩に巻き込まれてないことを祈るか」




