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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第三章
31/82

contract ≠ contract

「8千万!」

「2億」

会場全体がおおっ!とざわめく。最低落札価格200万円からのスタートも、開始から入札に次ぐ入札であっという間に5千万を越え、一瞬の間をおいて更にはね上がった。それまでのちょっと変わった商品を競り合う和やかなオークションとは一変し、瘴気にも似た独特の空気が場を支配していく。


~30分前~

タケトたちは会場へと入った。オークションはパーティーと同じ部屋で行われる。椅子が一定の、ちょっと広めの間隔で配置されている。メインステージに向かってやや放射状に。今回は食事は遠慮願われているがソフトドリンクは可ということで、その椅子にはドリンクホルダーが付いており、しかもゆったりと背もたれに体をあずけられる立派なもの。それがパッと見で200脚程並べられている。いったい今まで何処に仕舞われていたのかと何人かの客が感心している。

「乗客の半数近くが出席、ってことだよな」

前もって取られていたアンケート。オークションに参加するか否か。それはつまり準備のためであり、それを踏まえてこの状況ということはそういうことになるのだろう。

「なら、例の連中も姿を見せるのでは?」

「ん? ああ、ビビり術師。なんか一気にどーでもよくなったよ。それよりも、人生初のオークション。けっこう楽しみなんだよね」

タケトは少し興奮しつつ、部屋に置かれていたオークションの手引き書を読んでいる。出品情報は載っていないが、ヒントっぽいことはいくつか書かれていた。


あのハリウッドスターが使い捨てた○○!!

あの画家が無名時代に描いた○○の裸婦のラフ

あのアーティスト秘蔵の○○が登場!?


等とゴシップ誌を見ているのかと思ってしまうような文章に、このセンスは如何なものかと疑問符が出るが、周囲のセレブの反応を見るにそこまで悪いセンスではないらしい。むしろ好反応を見せる紳士淑女もいらっしゃり…

『レディース エーン ジェントルメーン♪ さ~て、そろそろ待ちに待ったオークション、開始予定の時刻と相成~りました。おやおやまだまだお席は埋まっていないようですが…』

司会の、ピエロのような格好をしたオークショニアの軽快な声が客の視線を集め、会場は自然と静かになっていく。こういう場の仕切りを任されるだけあって、かなりの喋りの実力者のようだ。

『時間厳守は社会人の最低条件! 皆さん偉くなられると忘れがち。残酷ではありますが、しっかり思い出していただきやしょうwww ではオークションの開始でございま~す!!』

微妙な笑いと盛大な拍手を受けていよいよ始まる。オークショニアの声でバニーガールがテーブル台車で商品を運び入れる。

『ロットナンバー1番! ……の義眼!! 実は撮影中の事故で片目を失っている彼。その義眼のスペアを極秘入手!!』

商品を覆っていた赤い布を勢いよく取って投げ捨てて説明を始める。場馴れした他の乗客とは異なり、オークション自体も初めてのタケトたちは、いきなりビンの中に浮いた眼球を出されてドン引きしてしまった。

「闇、とは聞いていたけど、この船の雰囲気だからちょっと予想外だったわ…」

「は、はは… さすがに私も驚いたよ…」

二人が次々と落札され、次々と出てくる商品のマニアックさに、なかなか慣れることが出来ずにいた。

『ロットナンバー12番!! ……の小指!! こいつは俺も驚いた! あの裏社会の有名人が若かりし頃にやらかして謝罪に詰め詰めした時の、この世にひとつだけの御漬物だ』

明らかにそっち系の人々の笑い声があがる。さすがに一般人は… と思いきや、数々の武勇伝を残す生きる伝説。下っ端の組員だけでなく一般人からも入札が止まらない。

「組長、超笑ってるよ…」

「皆さん、変わった趣味をお持ちなのだな…」

その後も、○○が誤射して事件になった愛用の銃とか、○○が摘出した腫瘍とか、○○と○○が不倫中に○○と撮った二度と見られぬスリーショットの生写真とか、呪術界からは蘆屋道満の秘術書の一部という逸品が登場しタケトの目を輝かせた。

「タケト、我慢」

「く… 民俗学者としても術師としても欲しすぎる」

「が・ま・ん!」

何とか入札したい欲求を堪えて、いよいよ目玉商品の九十九の尾の登場。場面は冒頭のシーンに戻る。『嘘かまことしんか偽か! 開けて見せることは出来ないが、たしかに中には入っている霊獣の尾。力あるものが使えば、あらゆる願いを叶えたり叶えなかったり? かの聖杯に匹敵する程の力を秘めていたりいなかったり?』

ざわめき、ひやかし、笑い。しかし封印が施されてはいても、誰もが箱の中から発せられる異様なオーラに【本物】を感じ取っていた。

『本日のメイン!ラストロット!万能の願望器!!神器 九十九の尾の登場だ!!』

だからこそ術師ではない者、術師との繋がりを持たない人まで入札をする。手に入ればよし。入らずとも、あの呪術師協会の若造の慌てふためく様が、金といういくらでも溢れ出てくる物を前に何も出来ずに悔しがる様が見られるかもしれない。なんなら尾を譲ってくれとすがり付いて来るかもしれない。

『800!1000!1200!おおっと一気に2000万!!2500出た!!3000!!』

価格が上がる度にタケトの方をチラチラ見てはニヤニヤしている様子から、そんな風に思っているので?とすら見えてしまっていた。

『5000キター!!からの8000万!?』

「そういえば聞いていなかったが、ちなみに予算はいくらなんだ?」

『に、2億が出たぞ!!さすがにこれは決まってしまったか?』

チヨが小声で、そして唇を読まれないように呟く。あくまでも冷静に、オークションを普通に楽しんでる風を装って。

「4億!」

また誰かが値を上げた。

「今ので完全に予算オーバー。ま、この面子を相手にオクで勝とうなんてそもそも思っていないよ」

あわよくば、という思いはあったが、やはりそんなにうまくはいくはずもなく。ついには10億を越える価格が出る。オークショニアが興奮し『10億!ついに10億出ました!!』と何度も叫ぶ声が会場に響き渡る。客も一緒になって興奮して拍手喝采だ。タケトも笑って大きな拍手を送る。だが、これで終わりではなかった。

「22億」

低く、鋭い、しゃがれた声が会場を黙らせた。組長だった。隣には昨日まではいなかった術師を従えており、タケトを一瞥いちべつしてニヤリとした。

「あんのやろう…」

どこからその金を引っ張り出してきたかはわからないが、強引な手を使ってでも協会より優位に立ちたいらしい。周囲の人々も完全に勝負ありと思って再びタケトを見る。だが、タケトは悔しがるどころか逆に意地の悪そうな顔でニヤリと笑う。

「圧倒的な力で勝ったつもりの人がさ」

タケトの呟きに「え?」とチヨもタケトを見る。

「それ以上の力をさ、しかも同じモノで圧倒的な差を見せつけられるとさ。かなりのダメージになるんだよね」

言いたいことはわかる。チヨも剣の腕には自信があった。だが、ナユタたちに稽古をつけてもらった時にはあまりの実力差に恥ずかしさでいっぱいになったことを思い出す。だが、今の状況で…

『では22億で…』

「48億」

先の老人の低い威圧的な声とは真逆の、若者の明るくて飄々とした声が響く。だが周囲の反応は同じ。沈黙が会場を包む。声の主であるトリスタンと、そしてタケトの二人だけが笑顔でいた。


「ほら!オークショニア!盛り上げ盛り上げ!次を煽って!まだまだイケるって!」


静かな時間が長すぎて、トリスタンが小声でオークショニアに指示してしまうくらい他の乗客には衝撃が大きかったようだ。しかも、トリスタンはまだ余裕があるような振る舞い。タケトはニヤニヤ顔。まるで二人が結託していたような動きに、組長は怒りと悔しさで顔が別人のようになる。

「ごじゅ…」

慌てて術師と若頭が両際から口を塞ぐ。無礼者と腕を払って平手打ちから裏拳でお仕置きをするも、その値を直ぐに上書きしようとワクワク顔で札の準備をしていたトリスタンを見て放心状態で背もたれに体を沈めた。

『…で、では。ゴホン。えー… 九十九の尾、トリスタン様!48億でハンマープライス!!』

会場が歓声と拍手で揺れる。もうタケトを見る者はいない。組長もさっさと帰り支度。だから聞いていたのは隣にいたチヨだけだ。


「さ、ここからが本番だ。頼りにしてるよ」

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