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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第三章
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guessed the guest

二日目。午前10時。補給のために船は港に立ち寄った。タケトたちは特に予定を組んでいなかったこともあり、フォーマルなスーツに着替えて軽く髪を整えた後は、船の上から荷揚げの様子をぼんやり見ていた。食材の補給に人員の補給と入れ替え、そしてあれはおそらく今夜のオークションに出品される品々だろう。呪力を感じられるモノも少なからずあるようだ。

「でも、ヤバいレベルのモノは感じられないね」

「じゃあ偽物か、力の低い番号のってことか?」

「いや、封印がかけられていたらそもそも呪力は感じられないから…」

「結局、現時点ではわからない、か」

再びぼんやりと眺める二人。太陽に暖められ、頭がぼんやりしてくる。眼下で動き回る人影は小さく、蟻の行進を見ているような錯覚を覚える。ふと、タケトはその小さな人々の中に知った姿を見つけた。

「あれはもしかして…」

「知り合いでもいたのか?」

「ん、まあね。それと、尾の経路も多分わかった。とりあえず安心かな」

タケトはホッと一息ついて振り返る。その直後、あまりに驚いたために危うく海へ落下しそうになってしまった。

「あら、驚きすぎじゃない?」

「お、驚きもしますよ! さっきまで下にいたのに振り返ったらいるんだから!」

「あら、ごめんなさい。でもあなたが悪いわよ? また詮索、してたでしょ?」

タケトはギクリとした。というか、術も無しにこの距離でこちらに気付いた上にそんなことまで予測しての高速移動がまず信じられない。本気なのかイタズラなのか、どちらにしろこの預かり所の主人であるマリアの底知れなさを再認識することになった。

「あ、この人、仕事の知り合いでマリアさん」

紹介されたチヨが会釈をしようとすると、そこにマリアの姿は既になく…

「あなたがタケトちゃんの彼女さん? もったいないわね~ いい男、紹介したげようか? それとも私が遊んでアゲル?」

チヨの隣に移動し、べったりくっついて耳元で囁くマリア。さすがにそれはダメだとタケトが叱ろうとすると、それより早くチヨが声を出す。

「すみませんがどちらも遠慮させていただきます。誰が何と言おうとも、私にとって彼は唯一無二の存在ですので」

タケトは顔を赤くして照れて、マリアも口元を抑えてキャーと喜ぶ。

「もうオアツイんだから。タケトちゃん、ほんとに大事にしなきゃダメよ? あと、彼女の愛へのご褒美に教えてアゲル。尾は私の持ち込みじゃないわ。入手経路は私も知らない」


預かり所のルールの一つ。

預かってから333日(預かった翌日を一日目とする)を越えて持ち主からの連絡が無い場合、その所有権が他者に正式に譲渡されなかった場合、預かっていたモノの所有権は預かり所へと譲渡される。


タケトは『預かり所は他にも尾を預かっていて、その所有者がなんらかの事情で音信不通になったためにオークションに出品された』と予想したのだが…

他の一部の商品はその通りだったのだが、肝心の尾は無関係だったようだ。マリアは出品の手続きをした際にその実力を買われて、オークションが終わるまでの商品管理者として雇われたらしい。

「お店は問題ないわよ。私と同等以上の管理人なんていくらでもいるから」

この言葉の真偽は不明だが、呪力無しとはいえタケトを軽くあしらえるレベルのマリアが安心して店番をさせられる実力者がいる、という事実にタケトはただただゾッとした。

「なんというか… すごい人だったな。見た目も奇抜だが、それ以上に…」

チヨが冷や汗を流す。武人である彼女にははっきりと感じられたようだ。奇抜なスーツの中に隠された鍛え抜かれた鋼の肉体が、それを作り上げた強固な精神力が、そして個性的でありながら隙が全く無い動きに自分の遥か先を行く達人なのだと。

「体術だけならナユタさん以上かもしれないな」

剣術最強の一党(本人たちはまだ目指して修行中と言っているが)は剣だけに非ず、最強たるために他の武芸も学び習得する。体術も達人クラスと言ってもいい。それはチヨも身を持って理解している。そのチヨもタケトと同じ評価。世に知られていない強者はきっとまだまだいることだろう。世界は広い。それを改めて実感する二人であった。


「にしても、現れなかったな」

「誰がだ?」

空を仰ぎながら呟くタケトにチヨが問う。

「ここに来てから強い呪力をいくつか感じている。三つくらい。で、挨拶でもしようかと近づくと離れて消えて、一向に姿を見せてくれない。だからもしかしてオクの商品を盗むつもりかと張っていたんだけど、そんなこともなかったかぁ…」

拍子抜け、ということでもない。術によっては姿を見られることがNGなモノもある。一般人とはいえ組長のようにわざわざ呼び込む方が珍しい。だが、最初に呪力を感じた時。それはたまたまタケトの領域に触れたというよりは挑発的な意味合いを感じ…

「ハズれてばかりだな」

チヨが項垂れるタケトを見て笑う。そして

「だが、事件にならないなら良いことでは?」

と続けた。それに対して、タケトはそれはそうなんだけどと前置きして続ける。

「わざわざ俺に『いること』をアピールしてるのがさ。なんかやりそうなのは間違いなくて、でも彼らに注意はしないといけなくて… 実は完全に隠れた仲間が他にいて、もう水面下では行動を起こしているのかもしれなんあ…」

チヨがタケトの口に親指をつっこんで両頬をつまみ横に引っ張った。少し怒って、少し呆れて。

「ならば、ここで気にしても仕方ないことだろ? 今回は仕事ではない。可能ならオークションに参加して尾を手に入れる。有事の際は一般人を守る。と言われただけだ。この旅に於けるお前の今回の一番の目的は何だ?」

「ひ、ひよほあおるほほ(チヨを守ること)…」

「ん?」

チヨの指の力が強くなる。

「んがっ!? ひ、ひよほほのひょほーほはのひむ(チヨとの旅行を楽しむ)」

チヨが指を離して、ふうとため息をつきつつハンカチで指を拭きつつ、わかっているならよしと頷く。

「ん…はぁ。ごめんごめん。旅行、しっかり楽しまないとだよね。悪い癖が出てしまった。職業病ってやつかな?」

「タケトの場合、もはやそれが本質だな。だからたまにこうして叱って調整してやらないと。最悪、私のことをほっぽり出してしまいかねんからな」

「ちょ!さすがにそこまではないって!!」

「ど~だかな~」

チヨの黒髪が海風に靡いて、そして太陽の光を浴びてキラキラと輝き、タケトは一瞬見とれる。他には誰もいない甲板の上。回りの目も気にせずチヨが意地悪にタケトをつつき、タケトも盛大に言い訳をする。実のところ、もう何度目になるかわからないやり取りだ。ある意味、儀式と言ってもいい。そして今回は他にも大事な目的があった。

「ま、冷静に考えればさ。こっちには奥の手もあるわけだし。ビビって姿すら見せない連中なん全くて気にする必要もなかったんだよね。ちょっと神経質になりすぎた」

「わかればよろしい。じゃあ早速だが、行きたい店を見つけてな。前から美味しそうだと気にはなっていたのだが…」

「え”? 今日も食べるの?」

「ん?何か問題でもあるのか? 海外の有名店なのだが、この船に支店があるらしくてな。いやはや本当にラッキーだ。それとも、君が連れて行ってくれるのかい? フランスに」

もちろん、この問いにタケトがイエスと答えられるはずもなく、全身全霊を持って今日も爆食の旅に付き合うことになる。


そんなイチャつく姿を見下ろす影が複数。政治家、事業家、組長、トリスタン、マリア、そして…

役者は揃った。オークション開始は午後六時。

事件発生まであと七時間半。

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