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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第三章
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party-team

「これは、君の判断かい? それとも、向こうで俺を睨んでる連中が差し金かな?」

「え!?」

ウェイトレスは驚き青ざめる。その反応から察するに、どうやら彼女は普通のウェイトレス。彼らに脅されでもしたのだろう。これから起こることを考えたのかトレイの上でグラスがカタカタと鳴り、今にも落としそうだ。

「駆けつけ六杯は少し多いが、まあいいか。処分も大変だろうからね。全部頂くよ」

そう言ってタケトは全てのグラスを次々と飲み干していく。ウェイトレスは泣き崩れそうな顔でそれを見守っていた。

「ふっはぁ~ これすごく美味しいね。ありがとう。さて、これで君は仕事を完遂出来たわけだ。それどころか全て飲ませることに成功し、六倍の成果をあげた。もしこれで文句を言われるようなら」

「よ、うなら…」

「ん。一般人の君には刺激が強い言葉だ。やめておくよ。直接見せるのが早いし」

「み、見せるって何をなさるつもりですか」

焦るウェイトレス。今は押し付けられた仕事に対してではなく、本来の業務からの焦りだ。今この場で事を起こすなら、他のお客様にどんな光景を見せることになるのか。そして同時に、自分がその起こす立場になりかけたことを後悔してもいるようだ。

「大丈夫。こんな素敵なパーティーで暴れたりはしないよ。それは安心して」

タケトはなだめて、奥へ戻るようにと送りだす。送りだして周囲に誰もいないことを確認すると『彼ら』の方を向いて、見せつけるように白い手袋をした左手を掲げ、その手でハットを脱ぎ、それを右手に持ち替え、今度は再び左手でしっかりと固められた前髪を掻きあげる。隠れていた左目が、真っ赤に染まった歪んだ目があらわになり、その目で彼らを睨む。左手と左目。そして一般人には気付かれないように放った怒気が、この青年が何者なのかをはっきりとわからせる。その行動だけで十分であり、彼らはこれ以降タケトの方を見ることもなかった。


(やれやれだ。さて、チヨの方は)

タケトはチヨの方に振り返る。

(あ、さらに集まってきおったよこれ。こうして人脈が広がるんか。まいったね~)

初老の男性が「ほら彼女が」と仲間を呼ぶ。海外の実力者たちからの逆輸入で名が知られたらしい。集まる人々も好奇の目というよりは憧れや尊敬の眼差しに近い。自分たちの祖父母に近い年齢の人々に囲まれ、それでも普段と変わらない、むしろ

「華麗且つ優雅であり、自分の知らない一面を自分が知らない他人が知っているという事実に若干の嫉妬も已む無し!」

いつの間にか先程のハーフの男性が隣で演劇めいた口調でタケトの脳内ナレーション。タケトは驚く。もちろん何が起きても即座に対処可能なようにしていたので、近づく彼の気配もしっかり察知はしていたのだが、心を読まれたことにはさすがに驚きを隠せない。

「はっはっは! そのようなビックリ仰天顔を作らずとも善きにござるよ!」

天パなのかかけているのか、肩まで伸ばしたウェービーなブロンドの髪を振り乱しながら、いきなりの口調の変化に(うわあ…変な日本語の外国人だぁ…)とタケトはドン引きしてしまう。

「む? 今度はずいぶんな呆れ顔。やはりまだまだ侍言葉は使いこなせぬか」

「あ、侍言葉のつもりだったんですね…」

笑顔全快だった彫りの深い顔が一気に神妙な顔になる。そのコロコロ変わる表情と口調にタケトは肩の力が抜けてしまった。そしてそれは彼の目的でもあったようだ。

「うむ。いい感じに力が抜けたむ。いやはや、あちら側からの殺気が酷くてね。おまけに君の怒気。やっと落ち着けるよ」

タケトは少し反省する。一般人の中にも霊感の強い人間はいる。武芸に秀でた者なら殺気や怒気も感じ取れる。せっかくの船旅に水を差すところだった。

「とはいえ、あれしきのことでどやさソイヤさ言う小物はここにはおらなんだがね。それよりも、さすがは白タケト氏。呪術師協会準幹部ですな。存在の説得力が違う」

「俺のこと、知ってたんですね」

「以前に彼女がうっかり口を滑らせてね。彼氏君は自分よりも強い男だと。そしたら気になるじゃな~い。金に糸目はつけずに調べた所存にござるよ~」

つまり、あの情報もしっかり買ったということだ。なるほど。この人は目的のためには金も尽力も惜しまない人物のようだ。自分と少し似ているのかもしれない。だからこそチヨも口を滑らせてしまったのだろう。だからこそ不安にもなる。

(どこまで気を許したんだろう。いったい何を話したんだろう)

そんなことまで考えてしまう。

「ま~た怖い顔なさる。ご心配めさるな。彼氏がおられると聞いて、拙がしつこく聞いた故のこと。不貞などあらずもがな。仮にそんなことを望めば~

私が彼女に斬られてしまいまーす」

またしても心を見抜かれ、しかも一番見抜かれたくないことだっただけに、もう顔も合わせられない。

「いやはや、失礼失礼。実は、私が今日話したかったのは貴方の方なのですよ。意外とまだまだ精神的に未熟なようで」

タケトの心にまたもやグサリ。しかし、気持ち的にはもう項垂うなだれる角度も残っていない。

「私としてはホッとしたというか、生きる伝説が身近に感じられて嬉しく思い、ついついテンションぶち上がりしてしまったでござる。すまぬすまぬ」

あっけらかんと言ってのける。悪気もなく、思ったことを素直に口に出しているような。だからこそ心に刺さるし、だからこそ信用もできる。

「いえ、こちらこそ初対面の方に情けないところを見せてしまって。その上でフォローまでしていただいて、なんと礼を言ったらよいやら」

「なんのなんの。私にとってはこの会話こそがご褒美のようなもの。ありがた満腹にござる。それに」

「それに?」

「この程度でタケト殿に礼を言われるのならば、いくらでものべつ幕なく語り尽くすでありますぞ?」

「そいつぁどうぞご勘弁を」

タケトも合わせてそれっぽく語ってみた。二人は顔を見合せ、そして笑いあった。間も無く秘書だろう女性がやって来て別れとなる。そして程なくチヨが戻ってきた。老若男女問わずに人気で、対応も適切で、その際の立ち振舞いも格好が良く、その場馴れした感じにタケトは感心せずにいられない。

「ふぅ。お待たせ。なにか盛り上がっていたようだな。他にもいろいろあったようだが、まぁ彼とは気が合ったようで何よりだ」

「面白い人だったよ。彼も剣道繋がり?」

「ああ。フランス遠征の時に。遠征というよりはほとんど教える側だったのだがな。その後に皆で食事に招かれたんだ。剣を教えてもらった礼とかでテーブルマナーも教えられたよ。あれはなかなか恥ずかしい思いをしたなぁ」

だからその後マナーをちゃんと覚えたらしい。一朝一夕ではないからこその格好良さ。一夜漬けのタケトが敵うはずもなかった。我ながら愚かな戦いを挑んだものだと自嘲する。

「俺のこと、調べてたみたいだね。チヨの彼氏がどんなのか気になってしょうがなかったらしい」

そう言って苦笑いするタケト。チヨはその言葉を訝しく思った。

「彼は最初から知っていたはずだぞ? 彼、トリスタン氏はEUの術師協会に所属しているとも言っていたからな。だから興味があると…」

タケトは彼、トリスタンが立ち去った方向を急いで振り返った。もちろんそこに姿はない。どこまで本気だったのか、完全に手の上で踊らされてしまったようである。

「どうかしたのか?」

「やられたよ。完全に一本負け。なんか狐狸の類いにでも化かされた気分だ」

「敵、なのか?」

少し不安な顔をするチヨ。自身の知人なだけに、何かあったのならば責任が、と思っているようだ。

「いや」

タケトは恥ずかしそうに頭を掻きながらチヨを見て、そしてもう一度振り返って語る。

「強いて言うならヤマトタイプ。本当に面白い人だったよ。次は負けられないな」



「君もなかなか面白いやつだったよ。また遊ぼう」

トリスタンはそんな二人の様子を、上階のVIPルームからワインを嗜みながら見下ろしていた。

「趣味悪っ」

と秘書から軽蔑の眼差しを受けながら。

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