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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第二章
23/82

慰労会にて

「「お疲れさま~」」

「ありがとうございます」

教育実習が無事に終了し、タケトの家には久々に皆が集まってお疲れ様会が催されている。

「少女の霊を土地神として封じたか。それなら私でもよかっただろうに」

マダムの依頼にかかった費用をチラッと聞いたヒジリが愚痴るように言う。自分を頼ってくれなかったことも少なからず寂しく思っているようだ。

「いやいや、あのままだと悪霊封印ですから。先ずは存在の調律をしないとでしたからね。そういうことを含めて、自分の知る中で一番適役だったのがマダムだったわけで」

彼女の実力はヒジリも認めるところ。納得せざるを得ない。渋々顔になるヒジリを見かねてミコトが割って入る。

「仕事の話しはそんくらいにしてよ、タケト先生の話しを聞こうぜ?こいつが先生とかマジ笑える」

「まじうける~」

「だからムギちゃんに変な言葉を覚えさせない!」

カナタに抱っこされたツムギちゃんも楽しそうだ。他にはセイヤ、そしてマダムがリモートで少しだけ参加してくれた。


「…そんな感じ、少しも見せなかったから意外というかなんというか。酔っ払った時に『いいやつからいなくなって』とか言ってたけど、まさかそこと繋がるとは」

「教員の履歴書とかも見たんだろ? そんときに気付いてもいいとこだよな~」

「ま、そこで気付いたとしても、だからどうって感じだがな。深掘りするような話題でもない」

水曜日。マダムの講演の翌日。小林先生から飲みに誘われた。その席で実は彼が当時ヨーコの担任だったと告白される。そして講演の日の夜、彼女が夢枕に現れたと。話の内容はうろ覚えだが、感謝をされたのはわかったと。それが嬉しくて、でも申し訳なくて、と泣いて飲んで泣いて飲んで… 翌日、やはり奥様にお叱りを受けたが、そのことを話したら奥様も泣き出して。と、翌日また誘われて惚気られた。さすがにこれはしっかり怒られたようだ。

『彼女が縛りから解放されて、そして土地神となったことで可能になったのでしょう。御遺族や街に残っていた御友人からもご報告いただきましたから』

大人たちは穏やかな顔で酒に口をつける殺伐とした戦いも多い中でのこのような話しは正直救われるのだ。マダムも画面の奥でワインを嗜む。


「この間抜け面ときたら」

「だって撮り直してくれないんだもん。この方が俺らしいとか言って」

「ガキども、わかってんな~」

マダムが仕事で抜けた後、今度は生徒たちとのふれあい話しで盛り上がる。酒が回ってきて変な盛り上がり方になってきたので、セイヤは離れてムギちゃんと遊んであげていた。

「でも、ずいぶん仲良くなった生徒もいるようだ。メッセージのやり取り、さっきもしてただろ?」

「うん。文芸部の生徒とは特に。うちの大学にきてくれるといいなぁ」

「ふふ。少し妬けるな」

普段は飲まないチヨも今日はわりと多め。なので、このくらいは序の口で、いつもは言わないようなこともどんどん出てきて笑いとニヤニヤを誘う。


「ミコトさ~ん?」

「ヒジリさん?もう寝ちゃいます?」

タケトとチヨは顔を見合わせ笑って首を横に振る。

「今日は早かったな」

「タケトの成長が嬉しいんだろう。私も同じだからな。気持ちはわかる」

「そっち目線なのかよ」

「ふふ」

二人を横にして、ツムギちゃんを真ん中に川の字で寝させる。幸せそうな寝顔だ。

「あの、タケトさん」

三人の寝顔を見て、あたたかいお茶で一息。そこでセイヤが真面目な顔をする。

「仕事の話に戻ってしまうんですけど、少しいいでしょうか?」

「もちろん。ちょっとお酒入っちゃったけど、俺もそっちのが性に合うし」

セイヤが少し引く。どうやら『ちょっとのお酒』という言葉に対してのようだ。この酒好き二人がダウンするのと同じ量を飲んでいて仕事に戻れるというのだから感心の感情を振り切るのも無理はない。

「えっと、さっきの話しにもありましたが、そういえばヒジリさんも土地神を」

「そうだね。迅御。あれは封じた人の影響なのか、なかなか異質な存在だよね。俺たちでも姿が見られて触れあえるし」

迅御というのは五年前に付近で話題になった都市伝説の妖怪。それをタケトが退治してヒジリが土地神として封じて生まれ変わらせた存在。

「俺でも学べば出来ることですか?」

真剣な目だ。単に神様を作りたいという好奇心や功名心ではないことはわかる。いい機会なので、術式についてタケトの講義が始まった。

「術式にもよるけど、たぶんセイヤには難しい。君の呪力はまだ中庸、真ん中ではあるけれど、きっと負の力に寄るはずだ」

「負の力、ですか?」

言葉の響きから善くないモノを感じてしまう。が、これに関してはそういうものでもない。

「呪力のタイプは大きく二つ。正か負か。これは善い悪いではなくて使う術、使える術のタイプ分けに近い。癒したり守ったり祓ったり、そういうのが正の力。対して、壊したり歪めたり呪ったり、そういうのが負の力になるね。セイヤは呪符でいろいろ出来るけど、どちらかというと」

「…たしかにそっち寄りですね。性格的にも」

チヨの前でちょっとだけバツが悪そうに認める。こういうところはまだまだ若いと心の中で笑う。

「俺も負の呪力。元々が呪いからきてるから当然だね。そして土地神を封じる術式は正の呪力。だからどうしても苦手分野になる。絶対ではないけれど、失敗した時のことを考えるとおすすめは出来ない」

「ちなみに失敗すると?」

「最悪のパターンだと、神ではなく化物になって暴れる。そして土地が荒れる。再封にも時間が要る」

「それは… ちょっとやってみようでやれる範囲を越えまくってますね…」

「まあ、そもそもそこに土地神がいたら無理なんだけどね」

「あ!そうですよ。土地神がいない土地ってあるんですか? そこ、大丈夫なんですか?」

「うーんとね、大本の神はもちろんいるけど、細かな地域を任せる部下って感じかな。知事とか町長とかに近い感じ。だから既に近くにいたら無理だし、そもそもそういうのを嫌う神もいる」

「なるほど… てか詳しいですね」

「迅御の時にヒジリさんから。俺もけっこう勉強したんだよ。超スパルタだったなあ」

タケトはヒジリを見てげんなりする。これにはセイヤもお疲れ様でしたと笑った。


「じゃあ他人の術式も使用可能だと?」

「うん。というか、実際に君も使ってるよ。協会から最初に教わる簡易術式もそう。あれは誰でも使えるように緩め設定した式」

「そういえばそうか…」

「数学の公式と一緒さ。難しいものは条件も厳しくなる。しかも、以上を満たすXの値は? に加えてその値を用意できるか? まであるし」

「自分のために作った術式だから他人が使うことは考えられていない」

「そして、簡単に理解されてしまうような術では敵に打ち破られてしまうしね。火纏かてん一刀流のように才能ある者に継がせてより強化したり、四天流のように呪符という触媒を用いて汎用性を持たせたり…」


夕方、日が暮れる前にセイヤは帰る。彼も普段は偏差値高めの高校生。勉学にも忙しい。今日にかぎっては二人とも名残惜しそうだった。

「のが見てておもしろかった」

「なに解説してんですか。二人ともいつから起きてたんです?」

「「ほぼ最初から」」

「まったくもう」

「弟子の成長を見るのは感慨深い」

「弟弟子の成長を見るのは面白い」

「ふふ、その気持ちはわかるねぇ」

「カナタさんまで~」

二人の授業を邪魔しないようにと、ぼんやり新聞を見ていたカナタも同意してタケトを呆れさせる。そこに片付けを終えたチヨが台所から戻ってきた。

「さて、まだまだ盛り上がっているところ申し訳ないが、今日はそろそろお帰り願おうかな」

「おや、珍しいねぇ」

「え~これからタケトの成長をネタに飲むつもりだったのにぃ~」

「ははは。これから私たちはとても大事な話をしなければならないんだ。例えばマダムの報酬に結局いくら使ったのか、とかね」

チヨが真顔で笑いながら言葉を紡ぎ、とてもとても素敵な笑顔でタケトを睨む。

「そ、そうか。なら仕方ないな。お邪魔したよ」

ヒジリがそう言って席を立ち

「タケトがんばれよ」

とミコトはムギちゃんを抱いて早くも玄関に。カナタに至っては既に姿はなかった。引き留めるような顔で皆を見送り、玄関の扉が閉まると恐る恐る振り返る。そこにチヨは居らず、茶の間に戻ると笑顔で正座をして待っていた。ヒジリが飲み直そうと注いでそのまま残った酒をグイと飲み干し、ぷはあと大きく息を吐く。

「じゃあ始めようか」

タケトは覚悟を決めた。


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