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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第二章
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実習10《土地神》

その日の夜、再び人知れず術師が集まる。

タケトとセイヤ、そしてマダムが中庭にやって来ていた。

「すみません。何から何まで」

「いいのよ。報酬もちゃんと貰うわけだし」

「うっ… ですよね…」

「そんなことより、マダム・スカーレットは何でも出来るのですね。驚きです。尊敬です!」

「あらあら、そんなに誉めても何も出ないわよ?」

「いえ、こうしてお話しが出来るだけで十分です。あ、でも、できればサインを頂きたいです。昼間は部外者なので撮影会には参加できなかったので」

意外とミーハーなセイヤに少し驚くタケト。だが、よくよく考えると、この少年は単に出来る大人の女性が好きなだけかもしれない。家庭環境のこともある。そう考えると、もしミサトを紹介したら… そんな考えが頭をよぎったが、実行した後のことが恐ろしすぎてそれ以上考えるのはやめにした。

「それにしても、予定よりずいぶんと派手に壊してくれてるじゃなくて?」

「ぐ… それは相手の気性やら技やらありまして…」

「あ、すみません。やったのは私みたいです。無意識とはいえ母校を壊しちゃって…」

いつの間にか姿を表していた幽霊のヨーコがマダムに謝罪する。だが、マダムは逆に不機嫌になる。

「あなたが謝ることではありません。あなたにそんなことをさせないための作戦だったのですから。全てはつくもタケトという男の慢心と実力不足が原因。それをこんな幼気いたいけな少女のせいにしようなどと…」

マダムのお説教タイムが始まってしまった。カリスマによる凄く重みのある言葉がひとつひとつ胸に刺さる。その様子を見てニヤニヤしながら、セイヤは準備を始めていた。昼間とは違う結界を中庭中央に張る。今から行うのは結界内の破壊されたところの修復作業だ。講演会終了後は誰も中庭に近づかないように、戦いの痕跡を見られないようにと三人が協力する。タケトの術で景色を歪め壊れた部分を見えないようにし、マダムは中庭に近づく気が起きないよう意識を操作し、セイヤの結界で中に入れないようにした。学校側の助けは借りられない状況ではあったが、彼らの連携によって中庭破壊の事実はほとんどの人間に知られていない。

「まあいいわ。準備も終わったようですし、これくらいにしておいてあげます」

タケトはホッとする。が

「で す が」

と再び睨まれて体が硬直した。

「くれぐれも気をつけて行動なさい。あなたのためだけではありませんことよ」

「はい」

結果的に守ろうとした者に罪を擦り付けようとしたようなものなのだ。タケトは深く反省した。そしてその失敗の汚名返上とばかりに気合いを入れる。

「いや、タケトさんの出番は無いですよね?」

「あ…」

三度ヘコむタケトとそれを慰めるヨーコを他所に、マダムはたもとから小さなタッパーを取り出した。中には土らしきものが入っている。

「それが噂の!!」

セイヤが興奮する。

「あら、ご存知なのね? 彼らはね、旅先で出会ってあたしに懐いた精霊たちなの。ゲームなんかにも登場するくらい有名だから説明はいらないわね」

精霊ノーム。日本では土鬼とも訳される大地の精霊だ。三角帽子を被った2頭身の土人形のような姿をしている。土からひょこっと這い出てきたノームたちはちょこちょこと動き出す。土をならし、タイルを作り、壁の傷を埋め、花壇の花を癒す。マダムは我が子でも見ているような顔で、セイヤとヨーコは興奮した顔で、タケトは観察し学びながら真面目な顔で、ノームたちを見ていた。

「日本の環境に適応するか心配だったけど、すごく元気で働き者なの」

マダムのお褒めの言葉にノームたちは振り返って手を振ったり跳び跳ねたり。それでも作業は進むのが不思議で面白い。

「で、この後は具体的にはどうするんです?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「説明は概要だけ。だから、いったいどうやって彼女を神にするのか疑問というか… いろいろ調べてみたけど何処にも情報がなくて」

わからないことは調べる。それでもわからないことは聞く。どうせ後から見学できるしと安易に思わず予習を怠らない。彼が学生としても術師としても優秀な理由のひとつだ。おそらく彼なりの考え、理論は出してきたのだろう。わざと詳細を省いたのは、それをここで答え合わせしてほしかったのだ。術式への理解を深めるために。

術式の理解。それは敵の使う術をいち早く解析して対応するために必須の力であり、オリジナルの術式を作成するための最低条件だ。才能があるセイヤは様々な情報を与えられ、そしてそれを直ぐに飲み込んでいった。だからこそ知らないことが起きた時にどれだけ対応できるのか?という心配ができた。彼の元々の師である皇クニサダがタケトへと預けたのにはそういう理由もあった。年も近く、全く異なる性格と術のタケトとならば遠慮なく切磋琢磨していけるだろうと。

(実際、ほんとに遠慮なしだし。今回も予想はだいたい当たっていそう。きっと怒るから言わないけど)

「新たな神が生まれるには三通りある。のは知ってたかな?」

「元々存在する神様が婚姻し産む。それがひとつ。そこにいた『力ある何か』を信仰して奉ることで神格化する。のがふたつ目で、あとひとつがいまいち思い浮かばなかったです」

「三つ目は、二つ目と逆。そこに何かを置いて信仰し力を与えて神とする」

「そんなこと出来るんですか!?」

セイヤが驚く。それは言ってしまえば人間が神を作るということと同義なのだから。

「地方にはさ、神様として奉られてる石とかけっこうあるよね。最初はたまたまの幸運だったのが勘違いから噂が広まり、人々の祈りや願いを受け続けた結果、本当にそういう存在になる。レアなケースで途方もない時間がかかるのがほとんどだけど」

説明を聞いてセイヤが「ん?」といぶかしむ。

「ほとんど、ということはつまり例外があると?」

やっぱり気付くかとタケトがマダムを見る。マダムもタケトを見てコクりと頷いた。

「その途方もない時間は短縮可能なんだ」

「な!?それって… え?」

セイヤが驚く。今度は少し青い顔で。

「刀禰谷一門の神器錬成術がそれにあたるね。神器とは神の如き力を持ち、それ自体が神として崇められるものもあるくらいだ。もちろんその術式は門外不出だし莫大な呪力が必要だろうけどね」

セイヤが三度驚き、そして感嘆する。まだまだ質問したいことがありそうな感じだったが、ここで時間となる。

「ごめんなさいね。そろそろ話しは終わり。あたしも彼女も準備が完了したわ。はやく始めてしまいましょう。あまり夜の学校に部外者が長くいたらよろしくないわ。それに」

「それに?」

「あたしの延長料金、坊やたちにはちょっと荷が重いわよ?」

今日はセイヤの表情がよく変わる日だなとタケトは心の中で笑った。



「依りて 重ねて 幾星霜 土豊かに 花鮮やかに 鳥囀ずりて 命煌めく

数多の光 依りて 重ねて 象るは 新たな女神の御姿

新神 麗髪伽護女うるはのかごめ ここに御奉る」


マダム・スカーレットの祝詞が響く。マダムの術式が発動し、中庭が温かい光に包まれる。祝詞に読まれた景色と中庭の風景が重なって幻想的な空間が演出させる。ついそちらに目を奪われそうになるが、注目すべきはヨーコの方。麗髪伽護女という名を得てこの学校の、この周辺の土地神として生まれ変わった少女。セーラー服から巫女装束へと着替え、噂以上に長く美しい黒髪は強靭さも兼ね備え、信仰が続くかぎり、永久にも似た時間を人々を守っていくことになる。

「これでいいんだよね?」

タケトが聞く。少し不安そうな表情だ。なにしろさっきまで普通の少女だったのが神として永遠の存在となったのだから…

「うん。まあ大丈夫だよ。習うより慣れろって言うし、ね。それに、なんか成仏して六道輪廻~とかのが正直私にはしんどそうだし」

そう言って笑った新米女神の温かな光は三人の心を癒し、笑顔を引き出した。これならきっと大丈夫だろう。そんな期待と安心感で満たされる。

「そうだ。今度、土地神仲間を紹介してあげるよ。土地神なのにわりかし自由に飛び回るやつでさ。きっといい友達になれる」


『ふふ。ありがとう…』


女神の姿が光に包まれ、そして光となって薄れていく。同時に声も聞こえなくなる。それは術の成功。彼女が完全に土地神となったことを意味していた。


ただ、暖かさだけがいつまでも残っていた。

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