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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第二章
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実習8《上書き》

「呪力じゃない。これは霊力。 やはり彼女は」

再び攻撃が始まる。第2ラウンド開始だ。触手の動きにも慣れてきたタケトは少女の攻撃を躱し反らし回避し続ける。

(呪力と霊力の混在。呪術的に見ればまだまだ短期間だけど、学校単位で祈り続けられてきたわけだからな。力の総量はそれなり。でも、その祈りのせいかおかげか、非常に不安定な状態なわけだ)

「おっと!」

振り抜かれたと思った触手の一本が、ぐにゃりと曲がってタケトを追尾してきた。初めての攻撃パターンだ。だが、その一本に集中したためか、他の触手の動きは止まった。

(成長しようとしてるんだろうけど、実戦経験が無さすぎて思うようにはいかないみたいだね。生前も運動は得意な方ではなかったっぽいし)

タケトは追尾してきた触手を躱して再び少女に近づき、懐から呪符を取り出して放つ。

「封じよ!!」

少女の動きが一瞬止まる。だが一瞬だった。ゆっくりと腕を動かして呪符を剥がして投げ捨てる。その呪符は呪力や妖気の流れをき止めて、妖怪や悪霊等の動きを封じるための物。半分が霊力である今の彼女には効果は半減以下だった。だが、それはタケトも想定済み。

(うんうん。やっぱり効かないね。このまま呪力を削って霊力を残していければ… 頼むよマダム)

タケトは再び回避に専念する。そして隙が生まれれば呪符を貼り付け、と繰り返した。

(そろそろいってみるか)

タケトは回避しつつ、今度は呪符ではなく反撃を試みる。

「ためしに、はっ!!」

一本の触手を切り落とそうとする。が、予想以上に固い。しかも、なんとか斬った部分は微妙にほつれて攻撃範囲が広がってしまう。

(やっぱり固い。霊力が強くなってきてる。優しさから生まれた存在だけにそっちに傾きやすいようだ。相性は最悪。削り合いでは分が悪い。ほんとに頼むよマダム・スカーレット様!)

範囲が広がった触手攻撃をギリギリ回避する。が、ギリギリ故に先ほど傷付けた触手のバラけた一部がタケトの顔と接触する。呪力を纏って密度を上げて防御力を高めてはいるが、向こうの髪の毛一本の力の方が強く皮膚が切り裂かれて頬から血がにじむ。かといって大きな動きで回避すれば他の触手攻撃を回避しづらくなる。タケトは少し距離を取り、地面に落ちた髪の毛をチラリと見る。

(あれからも触手が伸びたり、クローン化したり、発展途上な存在だけにいろいろ成長しそうで怖いねぇ)

地面に落ちた髪の毛。今のところ動く気配はないが怪しい気を放っていて注意力が殺がれる。それも攻撃を回避しづらい原因となっていた。

「そういう感情から生まれた存在だもんな。本当は戦いなんてしたくないんだろう? 君の攻撃には殺意が感じられない。邪魔なものを、まるで蝿でも追っ払おうとしてる感じだもんな。さっきも言ったけどさ、俺も君と戦いたくてきたわけじゃない」

その言葉に反応したのか、ほんの少しだけ攻撃のスピードが緩む。その隙を突いて触手を掻い潜り、凡そ3mのところまで一気に距離を縮める。

葬爪散華そうそうさんげ!」

左腕がうねりながら伸びて、その鋭い爪が少女の体を貫き、捻り、切り裂いた。そう思われたが実際は貫いておらず、飛び散ったのは血ではなく髪の毛。

どうやら鎖帷子くさりかたびらのように本体を髪の毛を幾重にも巻き付けて防御しているらしい。

「そういう知恵は最初からあるんだね。これは信仰じゃあなくて死因からきた防衛本能かな?」

少女は「嘘つき」とでも言いたそうな顔でタケトを見た。表情にも変化が表れてきていた。


~講堂~

「噂の原因の事件、その被害者の少女、それは美しい黒髪だったそうね。そしてとても優しい娘。という物語になっているようね」

生徒のみならず教職員もざわつく。

「もちろんいい娘だったのは間違いないわ。遺族に会っていろいろ確認してきたの。でもね、やっぱり話題性のためにだいぶ盛った部分もあるみたい。体の傷もそこまで酷くはなかったそうよ。どんな理由だったとしても、怨み辛みで殺めたわけではない。愛しい人の体、出来れば傷付けたくはなかったでしょうから…」

「彼女はね、大切な一人娘。家族には特別な存在だった。でも、あたしたちから見ればどこにでもいる普通の女の子だったの。本当に普通の…」

ざわついていた構内は静まり返る。涙を流す生徒もいた。皆に今までとは違う感情が芽生える。


~中庭~

再び距離を取って回避に専念していたタケトが異変に気付く。再びの少女の発する力の変化。呪力が更に低下したのだ。霊力が増加したわけではない。つまり単純なパワーダウン。攻撃の質が低くなり、スピードが遅くなり、振り抜いた触手が反転するのに時間を要するようになった。ほんの少しではあるがタケトクラスの術師には大きな変化だ。

(効果が出てきたね。そろそろいってみるか)

再び距離を詰めて攻撃を仕掛ける。今度はゼロ距離で真正面へ。しかし少女も学んでいた。タケトの行動を読んで、棍棒状になった髪を四つほど振り下ろす。しかし、タケトにはその攻撃は想定の範囲内。そのうち二本を切り飛ばしながら少女の右側へと移動してメインの攻撃を放つ。

「よし!斬れる! イケる!!生捻流転しょうじょうるてん 摧破さいは

左手を叩きつけるとその部分が捻れ、歪みが広がっていき、少女を覆っていた髪の毛の帷子が砕けて剥がれ落ちる。少女は怯んで距離を大きく取った。初めて本体が動いたことにタケトは微笑む。

「さすがにまだ本体に直接ダメージは与えられないか。でも時間の問題だね。確かに相性は悪いけど、君の未熟で低い霊力ではさほど脅威にならない。逆に、君はやっと俺を脅威に感じてきたね。上々」


~屋上~

「まったく。何が上々だか。滅するだけならいくらでもやりようがあるでしょうに。ほんと、うざいくらいに人がいいんだから」

屋上で待機中のセイヤがおやつのメロンパンを頬張りながら愚痴る。

「倒すだけなら何も問題ないだろうさ。でもねぇ、やっぱりそれだけじゃあ誰も救われないままだなぁって思ってさ。せっかく力もチャンスもあるんだから、やれることは全部やってみたいじゃない?」

タケトがセイヤに依頼に来た時に言った言葉。せっかく自分が出るんだから、結界で封じて弱らせて、そこをタケトが全力で斬り伏せれば一瞬でカタがつく。なのに何故めんどくさくて遠回り、しかも成功率が低そうなことをわざわざ?と愚痴った時に返された言葉。

仕事は早く終わらせて高い評価を頂く。ということを一に考えていたセイヤにとっては、そんな自分の浅はかな自己満足や功名心を見透かされたようで、それが認めてはいるが認めたくはない相手だったことで、僅かながらに苛立ちを感じて、それもまた自分のダメな部分であることも感じて…


(いつか必ず超えてやる)


セイヤはペットボトルの紅茶を勢いよく飲み干してタケトに絶対に聞こえないように心の中で叫んだ。

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