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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第一章
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団欒

「という感じで、組長、もとい社長の存在が強力なので、悪さをすることも無さそうです。もう一方の組もセイヤが片付けてくれました」

「あの年齢で、やることが冷徹だねぇ。そして的確だ。大丈夫なのかい?」

「はい… むしろ逆に怒られてしまいましたよ」


タケトはセイヤの電話報告のことを思い出し、ナオズミに語って聞かせる。

『問題無く対処完了しましたよ。あとはもう一方の組だけですね』

「ありがとう。ほんとに仕事がはやくて助かるよ」

『他に言うことは?』

少し不機嫌な声。察しはついているが気まずく少し誤魔化そうとする。

「へ? あ~掃除屋には話は通してたからスムーズだったでしょ、とか…」

『話を通したのはそれだけじゃないでしょ? こっちの上にも手を回してましたよね? ちゃんとわかるんですよ? いまいち信用してくれてない』

「いや、こういう仕事だからさ、さすがに俺も気を遣うというかなんというか…」

『俺のような学生にこういう仕事をさせること自体に気を遣ってください! まったく…』

タケトとは異なり、こちらの世界でじっくりと成長してきたセイヤ。独自の死生観を持っており、汚れ仕事の後でもメンタルは崩れない。延々と悩み続けたタケトとは根本が違っていた。だからこそ何かをきっかけに崩壊しないかという一抹の不安もある。


「ははは。さすがだね。彼の心配はいらないか。それよりも…」

「はい。尾の追加情報は残念ながら。その術師のことも情報屋ミサトに調査してもらいましたが、やはり野良のようで」

会長室。ナオズミへの最終報告。『野良』や『はぐれ』とも呼ばれる協会にも同盟にも所属しない、義務化された登録も行っていない術師のことを指す用語。ミサトが開発した術師識別システムにより、隠れていた能力者や能力発現の可能性のある者をある程度は炙り出すことが出来た。しかし、そもそもシステムの前に現れなければ発見しようもない。隠れるのが能力な者もいるだろう。未だに裏の裏では個人で依頼を受けたり、自分のため、身近な人のためだけにひっそりと能力を使う者も少なくない。なるべく早く、そして多くの術師の存在を把握しておきたいのだが…

「PRの方法に問題があるんでしょうか? 隠れて危険なことをやるよりも、それなりに高額で安心安定な報酬が得られるのに…」

「あんまり内情を大々的に公表出来ないのが問題なのかもね。(裏)があることに気付けばいろいろ勘繰るだろうし。そもそも組織に所属するのが嫌な人もいるし」

「勘違いのうえにコミュ障ですか? 術師のくせに」

「言うようになったね」

「だって、あの林田さんにも協力してもらっているのにですよ? 進捗が悪いのはなんかこう…」

林田とは某報道機関の会長。前会長と浅からぬ繋がりがあり、術師世界存続のために情報操作を依頼した人物だ。それぞれの組織の存続、及び利益のために今でも協力体制にある。せっかく協力してもらっているのに成果が出ていないので、タケトは申し訳ないとすら思っていた。

「野良やはぐれ、そういう人たちがみんな悪い人でなければいいんですがねぇ…」

二人は小さなため息をつく。ため息をしたことで頭が軽くなったのか、タケトはふと思い出した

「あ、そう言えばですね…」

「?」

「あの爺さん、俺の名字を聞いて『奇妙な縁』って言ったんですよ。まだ何か隠していそうな気が」

「ふふっ」

ナオズミがタケトの言葉に思わず吹き出す。

「なんですか?」

「いや、タケト予想全開だな、と」

タケトが顔を赤くする。中学卒業後、タケトはナオズミの先読みの力が能力ではなく技術だと聞き、自分もその力を身に付けるべく努力し、そして検討違いの推理を連発して熟練者を笑わせていた。それでも努力を続け、失敗を乗り越えて、恥ずかしさに耐え続けた結果、先日の幹部会議が示すように今では実力十分。しかし、当時を知る方々はたとえその推理が正当性が高くとも、昔を思い出して思わず笑ってしまうのだった。

「もう。あんまりいじめないでくださいよ。今はそれなりに…」

「ごめんごめん。でもまあ、俺も概ね同意だよ。それほど重大なことを隠してるとは思わないけど」

「ですね。まあ元々所持していた組織?とか、入手経路でもわかれば最良なんですけどねぇ」

「ほんとねに。鳳凰の時間跳躍の力を借りて、タイムスリップしたい気分だよ」

ナオズミが笑って話す。笑ってはいるが、なかなかにしんどそうな顔だ。裏とは言えども組織としてのメインはこちら。大事件の後に若くして会長に就任しただけに、タケトたちには想像のつかない苦労、気苦労があるのだろう。あまり触れない方がいいと思いタケトはスルーした。なんとなく気まずい空気になるのを感じたその時、ノックの音がして女性が一人、入ってきた。

「あ、お話し終わりました?終わりましたね?おいしいお茶を頂いたので淹れてみたんですよ。タイミングばっちりです~」

シラベさんだ。ナオズミさんの彼女であり事務室長でありタイミングよくお茶を出してくれる空気読み上手(無自覚)。付き合いは長いはずだが、何故かまだ結婚はしていない。

「ありがとう」

「ありがとうございま… まさか!?」

針のような細長い茶葉たちが湯に浸っており、この上ない上品かつ強い香りが漂う。口に含むと、また格別の香りと甘味に包み込まれる。

「さすがタケトくんです。お察しのとおり、狭山の手揉み茶ですよ~」

あまりのおいしさに無作法にも次々とお代わりをお願いしてしまう。煎を重ねるにつれて広がり、元の姿に戻っていく茶葉もまた風情があって楽しい。

「この茶葉、最後は食べてもおいしいらしいですよ? ためしてみます?」

不思議と苦味は全く無く、噛み締めるとまだ茶葉の中に閉じ込められている旨味が口いっぱいに溢れてきて、タケトは思わず感動の声をあげる。

「タケトくん、本当にこういうの好きだねぇ。ジジ好みというかなんというか」

「渋好みと言ってください。こういう和を感じるものって、なんか好きなんですよね~」

「祖父母さんの影響とかですか?」

「俺が小さい時に亡くなっているから、あんまり影響は受けてないかな… 両親も今と同様、家にいない時が多かったし…」

「あぁ、納得」

「なにがでふか?」

茶葉を咀嚼しながらタケトが問う。そして返ってきたのは意外な、そして確かに納得の答え。

「カナタさんの影響だね。俺も最近懇意にさせていただいてて妙に親近感があったんだけど、そういうことだったんだねえ」

「なんかそう言われると… うん、確かに… マヤの代わりにお爺ちゃん孝行しておこうかな?」

「マヤちゃんの代わりだと親孝行になっちゃいますけどね~」

「茶化さない」

「は~い」

三者笑って話しが終わる。これで解散かと思いきやシラベから依頼の相談が出た。

「他の人でもいいんですけど、タケトくんが一番適任な感じなので。よかったら検討していただけますか?」


~同日・自宅~

「学校への潜入調査か。珍しい依頼だな?」

「誰にも気付かれずにじっくり調査するためにってことで。俺なら教育実習という名目が使えるので、潜入も退散も楽ってことのようで」

「んでも、その分期限ができちまうからハラハラもんだな」

「それよりも、家に帰れない日ができそうで… 将来的に引っ越しもって本気で考えてしまいますね」

「おいおい、さみしいこと言うなよ」

「いうなよー」

「てか、なんで当然のようにいるんですか?」

家に帰ると、そこにはヒジリとミコト、そしてもちろんムギちゃんもいた。

「いやぁ、すまないねぇ。夫婦水入らずの時間にお邪魔してしまって」

と、カナタもいた。ムギちゃんのおかげでマヤがいないことを寂しく思う暇もないようで、最近はむしろ元気になってきている。

「みんなで食べる方がご飯美味しいもんね~」

「ねー」

「いや、俺は静かにゆっくり味わうのが…」

「たけとはいや?」

「え?いや、ぜんぜんいやじゃないよ!ムギちゃんと一緒のご飯嬉しいな~」

親娘の連携の前にタケトもタジタジ。その姿は遠からぬ未来で子育てに翻弄する父親の姿を想像させて皆を笑わせた。

「お待たせ~ムギちゃんの大好きなオムライスだ」

「やったー」

頬っぺたまでにケチャップをつけながらパクパク食べる幼女の姿は、大人たちの心を優しさで満たす。それだけでお腹いっぱいになったようにすら感じられる。

「にしても、そうか… タケトは静かに食べる方がよかったのか… これからは静かに別々に食べるか…」

そんな朗らか空間に、そんなチヨのまさかの発言。タケトはご飯粒が鼻から出そうな勢いでせる。

「ち、違うからね!」

「たけとうそついてばっかりー」

ムギちゃんが無邪気に突っ込む。一家団欒で大笑いの中、タケトだけが苦笑いで汗だくになっていた。


(はぁ… ペースが乱れるなぁ… 先がいろいろと心配だよもぅ… いや… 楽しみ、だな。うん)


一人納得してにやけるタケト。そして、またしてもムギちゃんに突っ込まれてタジタジになり、笑い声の絶えない一家団欒の時間が続いていく。

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