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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第一章
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再怨

都内某所・建設途中で放置されたビル。幽霊どころかゾンビが出るとまで噂され、一時は都市伝説の聖地とまで称された建造物。そういうのが好きな若者たちが毎夜のようにたむろしてした場所。不思議とどれだけ騒いでも周辺からの苦情が無く、まるでここだけが外界から切り離された何か神秘的な空間のようでもあり、そういう部分も聖地と称される要因であった。しかしその実態はと言えば、単に不況による経営難からの事業停止で数年放置されただけの場所。とある結界術師によって一時期本当に外界からその存在を隠されてはいたが一般人にそんなことがわかるはずはなく、術の効果が残っているわけでもなく、それでも一部は事実に準ずる噂が発生するのだから面白い。しかし、そんな場所をそういう若者が使い始めると、むしろ化物の類いよりも恐ろしい連中が彼らを狙って徘徊するようになり、次第に誰も寄り付かなくなって、今では以前よりも化物が出そうな雰囲気の廃墟と化していた。

今夜は雲が月を隠し、都心から離れると真っ暗闇。この世界はまるであの世にでも堕ちてしまったのでは?と錯覚してもおかしくない程。静けさが強調されるこのビルも再び耳が痛いほどに静まり返っていた。再び、というのも実はこの場所で、先程まで一騒動あったためである。その騒動も終わり、空を覆っていた雲も消え去り、代わりにビル内に立ち込めていた煙とそれに包まれていた一人の青年、つくもタケトを金に輝く月の光が照らす。真ん中わけの少し長めの黒髪が左目を隠すようにさらりと流れる。タケトは「ふぅ」と一息ついて、左目にかかる髪を払いつつ左腕を振るうと煙が一瞬に消え失せた。


「まったく、何をやっているんですか?」


声と共に物陰から一人の人間が姿を現す。年齢は高校生くらいでブラウンの長髪を後ろで一つに束ねている。呆れて年上であるタケトに説教をする様子からは、自信家な性格だということが初見でもよくわかる。そして、その性格に相応しい実力も兼ね備えていた。

「あれだけ自信満々だったくせに。カッコ悪いったらありませんよ。チヨさんも呆れますよ?」

タケトは苦笑しながら無言で月を見上げた。


~15分前~

「ブツは?」

「ここには無い。術師共にバレるからな」

「モノが無いなら金は渡せん」

「着いてこい。保管場所に案内する」

「罠じゃない保証は?」

「信じろ、としか言えんな」

「話にならん…」

明らかにカタギではない連中の不穏なやり取り。交渉が決裂したかのように会話が途切れる。

「…こちらもギリギリなんだ。身内に術師がいない以上あれは宝の持ち腐れ。だが価値は知っている。こっちは『持っている』という情報を出しただけでも相当なリスクを負ってるんだ。そちらこそ俺たちに危害が及ばぬようにアレを使う保証が?」

意を決したように発言する、おそらくは売り手側の幹部。その言葉に対して、やはり信じろとしか言えない現状に買い手側も言葉が詰まる。再びの沈黙。対立しているわけではないが、互いに悪い噂はよく知る者同士。『信じる』ということがどれほど難しいか両者とも重々承知している。そしてこの交渉が互いにとって逃しがたい利益があることも。次第に空気が重くピリついていく。


「あの~交渉が決裂したなら、俺に譲ってもらえませんかね~?」


惚けた声と共に一人の青年が入って来る。場は一瞬で緊張感が走り空気が最大に張り詰める。男たちはそれぞれに武器を取り、中には拳銃や呪具を持った者もいた。そんな状況でも青年は揺らがない。

「そう興奮しないでください。そちらが手を出さないかぎり、こちらも何もしませんから。穏便にいきましょ?」

雲が途切れ、月明かりがビルの中を照らす。青年の顔も照らし出され、その正体がわかって男たちがざわつく。

「こ、こいつつくもだ!」

「あの死神か!?」

「神に近い男ってやつか!!」

「妖怪の一団を従えているとか」

「呪いに蝕まれ、呪いを調伏し、呪いから神を生み出した怪物。通称呪人カースマン、白タケト!!」

それぞれに叫び、構えてタケトを取り囲む。だが、タケトは表情ひとつ変えずに男たちに言った。

「俺を知っているなら話が早い。おとなしく提案、受け入れてくれませんか? 両者に倍額お支払いしますよ? あ、ちなみに抵抗は無駄ですよ?」

余裕たっぷりに、少し見下すように、両手を広げて演技過剰気味にタケトは言った。そして、月が再び雲に隠れて闇が覆う。

「う、うわあああー!!」

一人の小心者の暴走で戦闘が始まった。

パンッ!!

発砲音が鳴り響く。放たれた銃弾はタケトの眉間目掛けて飛んでいく。まぐれの弾道。それはこの暗闇の中でも状況を理解出来る実力者たちの

「ビビって先走りやがって」という怒りを「やった!」という喜びで一瞬にして塗り変える。しかし

「うおっと!」

タケトが足を滑らしたように体制を崩して、それによって間一髪銃弾を躱す。残念、と肩を落とすこともなく、百戦錬磨の猛者数名らが冷静に追い打ちをかける。ある者は拳銃で、ある者はその間を縫ってナイフで斬りかかる。剣林弾雨の中、タケトがポツリと呟いた。

「服、汚れないようにしないとっと…」

スキンヘッドの撃った銃弾を避けたところに、待ち構えていたように死角から長髪と角刈の二人が同時に襲い掛かる。目の前からくる長髪のナイフを手刀を当てて腕ごと反らして受け流す。勢いそのままに横を通り抜ける長髪に合わせてタケトも体を180度転換して同じ方向を向く。受け流した攻撃が後ろからくる角刈に当たり… ということはなく、そして接触することもなく、角刈は長髪を受け止めて、そして360度回転して長髪を投げ返す。更に勢いを付けて再度襲いくる長髪と、その後ろからくる角刈の波状攻撃、そして少し離れた場所からスキンヘッドが銃で狙う。

(なかなかやるねぇ。お上手な連携だ)

タケトはそんな風に余裕十分な思考ではいるが、実際の動きはギリギリであり、なかなか反撃に転じられていない。

「テメエらも加勢しやがれ!!」

スキンヘッドの声にハッとして、いい加減に目が慣れた全員が怒号と共に襲い掛かってきた。

(うーん、この辺が残念なとこだな。もったいない)

とタケトは思う。先程までの猛者数名だけなら高度な連携が取れており、それなりに攻撃の精度は高かったのだ。だが今は素人同然の者まで体裁を繕うかのように攻撃に参加し、場はごちゃついてしまっている。ましてや初顔合わせな二団体。連携など取れるはずもない。だが、そんな連携皆無な素人の喧嘩殺法でもタケトを捉えそうになるし、タケトの攻撃もギリギリ当たらない。其れ故に彼らは善戦しているように見えていた。が、やはり長く戦っているとさすがに気付く者もいたようだ。

「散れ!!」

(お?)

敵の術師が叫ぶ。その手から札が数枚飛ぶと空中で爆発四散して煙幕を生じさせる。煙には目眩ましの他にも追加効果があり、それぞれに五感のどれかを狂わせるようだ。

「くっ… ただの煙じゃ… ゲホッ」

タケトが対応に手間取っていると、連中はそんな煙幕に怯むことなく一斉に逃げてしまっていた。どうやら緊急事態に備えて予め段取りをつけていたようだ。中には「もう少しで殺れそうなのに!?」と状況がさっぱり飲み込めていない残念な者もいたが、それでもしっかり命令を聞いて即撤退するのだからそれぞれ組織としては統率が取れていて羨ましいとすら思ってしまう。

(さて、もういいかな?)

そう思った時、今度は完全に雲は消え去り、一際美しい月の光が照らしてくれた。まるで月が労ってくれているようで少し嬉しくなり、ふぅ、と一息ついて術を放ち煙を消し去る。

そんな時に先程の少年が現れたのだった。


「で、どうするんですか?」

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