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鋼と奏  作者: 鉄 鉄男
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第一章 スクランブル交差点

 〜第一章 スクランブル交差点〜


 そこへ(かながやってきた。


 奏がやってきたのは、駅のすぐ側にあるスクランブル交差点で、大きな駅の側とあって、往来も激しく、信号が赤になればすぐに待機する人や車でいっぱいになった。


 奏は駅に面している方に居て、左脇に手足の先が丸く、右目が○で左目が☆になっていて、にんまり笑ったように白い歯を見せている黒ネコのぬいぐるみを抱え、黒くて長い髪の毛と黒いワンピースのスカートを微かに揺らし、目をキョロキョロと動かしながら、何かを捜すように交差点の周辺を見渡していた。


 そこへ服をダラしなく着て口元にイヤらしい笑みを浮かべた二人組みの男が近付いてきて、”おねえちゃ〜ん、何しているの〜?”と声をかけてきた。


 ”世界の悲鳴を聴いたの”と奏は、男達に視線を向けずに言った。


 その返事を聞いた二人組みは顔を見合わせ、一瞬怪訝な表情をしたものの、すぐに笑みを取り戻し、男の一人が”わけのわかんないこと言っていないで、俺達と一緒に楽しいとこへ行こうぜ”と言って、奏に手を伸ばした。


 そこへどこからともなく一本の釘が飛んできて、男の手の平を刺し貫いた。


 男は悲鳴を上げ、真っ赤な血がどくどく出ている手の平を押さえながらその場にしゃがんだまま動けなくなり、もう一人の男は何が起こったのは理解できず、おろおろしているばかりだった。


 奏は、何事も無かったように歩き出そうとしたところで足を止め、”見つけた”と呟くと、視線をスクランブル交差点に向け、歩き出した。


 交差点は歩行者側の信号が赤で、横断歩道の前には信号待ちをしている人でいっぱいになっていたが、奏が近付ていくと見えない手で押されていくように、左右に押し退けられ、海が割れるように開けていった。


 開けた人ごみを通って、車が往来している車道に一歩足を踏み入れると、奏から半径一メートル内の道路が突然、二メートルほど捲れ上がり、それによって捲れ上がった道路の内部居た車は勢いよくひっくり返り、外部に居た車は押し出されて後ろに待機している車とぶつかり、その車もまた後ろに居る車とぶつかっていくといった玉突き事故になった。


 突然起こった大惨事に周囲の人々が慌てふためく中、奏は気にする様子もなく、横断歩道が交わっている中心部分に立って、黒ネコのぬいぐるみの口の中に手を入れ、中から一本のメスを取り出すと逆手に持って、道路に振り下ろした。


 振り下ろされたメスは柔らかいものを刺したかのように道路に突き刺さり、そのまま切り下ろしていくと左右にぱっくりと割れ、奏は切り口の中へ身を投げるようにして飛び込んだ。


 〜挿入話〜


 女の子は泣いていました。


 とてもとても悲しいことがあったからです。


 女の子は涙が枯れるまで泣き続けました。


 そこへ人でないものが現れてこう言いました。


 「お前、世界を守る気は無いか?」


 〜挿入話終了〜


切り口から出た奏が立っているのは、一面茶色で大きな岩山のように隆起した場所と水溜りが点在している果てしなく広い大地に、ぼんやりよりもさらに薄い青空に覆われたとても静かな空間だった。


 「今回は随分と騒がしい場所から入ることになったもんだぜ」


 声を出したのは、奏が左脇に抱えている黒ネコのぬいぐるみで、相当なダミ声だった。


 「それとな奏、ああいう場所に出る時には少しくらい警戒しろ。お前は世界に守られているからいいだろうが、お陰で表面に被害が出ちまったじゃねえか」


 奏は返事をせず、目の前にあるものに視線を向けていた。


 目に前にあるのは、奏より何倍も大きい真っ黒なこぶみたいな形をしたいかにも異物といった物体で、下方部は木の根っこのような形状で地面にしっかりと張り付き、地面から何かを吸い出しているかのように一定の間隔で脈打ち、上方部にはドロドロに溶けたような形をした信号機が、何本も生えていた。


 奏は、巨大なこぶに怯える様子もなく、右手に持っているメスを慣れた手付きで投げた。


 メスが刺さるとこぶはとても不快な声で、この空間の果てまで届きそうな悲鳴を上げた。


 悲鳴が止むとこぶは信号機を吸収して、形を変え始め、巨大化すると同時に人のような形になり、手足は大きく末端肥大していて、体の表面には歩道線が入り、背中に何本もの信号機を生やしたこぶの時と同様に全体が真っ黒で、頭の丸い一つ目巨人になった。


 巨人は巨大な瞳を奏に向けるなり、右拳を勢いを付けて振り下ろした。


 「鋼」


 自分に振り下ろされてくる巨大な拳に対して、奏は焦る様子も逃げる様子もなく、一言呟き、黒ネコのぬいぐるみを足元に落とした。


 ぬいぐるみが、奏の影に吸収されるなり、足元から半透明な黒っぽいものが噴き出し、人の手ような形になって、巨人の右拳を受け止めた。


 半透明なものはさらに溢れ出し、奏を包んで大きく盛り上がって、人のような形になっていくのに合わせ、表面が直線ラインでまとめられたぶ厚い金属の装甲のようになって、肩が斜めに大きく張り出し、肘には斜め上を向いた突起が付き、顔は両目で口元は頑丈そうなマスクに覆われ、頭部は兜に似た形で、額に先の鋭い二本の突起が付き、背中には四基のノズルと左右に巨大な翼の付いたバックパックを背負い、赤・青・黄色のトリコロールカラーがバランス良く配色された巨大ロボットとなった。


 巨大ロボットの内部に居る奏は、周囲の風景を映している空間の中心部にて、丸い円形のステージのようなものの上に乗り、目の前にあるピアノの鍵盤に似た計器を左手で操作した。


 鋼と呼ばれた巨大ロボットは、奏での操作に合わせて、左指を折り曲げ、巨人の右拳を一瞬にして、握り潰し、真っ黒な液体を撒き散らした。


 巨人は、こぶ状の時と同様の悲痛な悲鳴を上げつつ、反撃しようと左拳で殴りかかってきたが、鋼は拳が届く前にその場でジャンプして、両足を突き出したドロップキックを巨人の胸にぶち当て、凄まじい衝撃音と供に蹴り飛ばした。


 巨人は体を何度も地面に打ち付けながら転がっていき、勢いが止まったところで、立ち上がるなり、ふんばるような姿勢を取ると、歩道線の白い部分が一斉に左右に開いて、ミサイルの発射口のようなものが現れ、内部から白くて先の尖ったミサイルもどきが大量に発射され、白くて長い煙の尾を描きながら鋼に向って飛んでいった。


 「ツインバルカン」


 奏が一言呟いて、右手にある計器を操作すると、鋼は右腕を前方に突き出し、それに合わせて右腕の外側の装甲が左右に開き、中から二門のバルカン砲がせり上がってきて、砲門から無数の弾丸を発射して、ミサイルもどきを次々に撃破し、その爆発によって発生した大量の黒い煙によって鋼の前方に黒い煙の幕が出来上がった。


 ミサイルもどきを全て撃破した鋼は、ツインバルカンをしまって走り出し、大地に足を付ける毎に地面を削るほどの地響きと轟音を鳴り響かせながら、黒い幕を突っ切って巨人に向っていった。


 巨人は向ってくる鋼に対して、右拳を大きく膨らませ、それと同時に背中に生えている信号機を引っ込めて、丸く膨らんだ右拳に生やし、ハンマーのような形に変形させ、鋼に向って縦軸に振り下ろした。


 鋼は体勢を右側にズラして、ハンマーを避けた後、エルボークラッシュを首筋にヒットさせ、続けて左膝キックを腹部にヒットさせ、巨人が上体を前に大きく反らしたところへ、体をおもいっきり縦に伸ばすと供に繰り出された右拳からのアッパーを顎にクリーンヒットさせて、地面に殴り倒したところへ、馬乗りになって、顔面がグシャグシャになるまで殴った後、首を掴んで持ち上げ、勢いを付けた右ストレートパンチを顔面に当てて、殴り飛ばした。


 「バスターソード」


 奏が呟いて、鍵盤を操作すると鋼の腰のスカート状の装甲の左脇が外側にスライドして、内部から剣の柄のようなものが現れ、右手で掴んで引っ張り出すと柄の先から刃が飛び出し、巨大な剣になった。


 鋼は柄を両手で掴んで刃を巨人に向ける構えを取った後、背中と足底のバーニアを噴射して勢いよく飛び出し、剣を左斜め後ろに引いた姿勢で、巨人に向っていった。


 立ち上がった巨人は向ってくる鋼に対し、ハンマー状の右拳を飛ばしてきた。


 鋼は飛んでくる右拳に対して、剣を横一直線に振って、横軸に真っ二つにし、巨人との距離が近付いたところで、剣を斜め左下に勢いを付けて振り下ろしながら、巨人の真後ろで停止した。

 

 数秒後、巨人は袈裟懸けに斬られた腹部から黒い液体を吹き上げ、風船が破裂するように四散して、周囲に真っ黒な液体をぶちまけた。


 巨人が立っていた場所には複数の信号機が折り重なっていて、鋼は信号機を右手で鷲づかみにして口元まで持っていくと、硬そうなマスク部分がバツの字に開き、その中に信号機を入れ、バリバリと噛み砕く音を立てながら貪り食った。


 信号機を食べ終えた鋼の体は縮み始め、奏の体が表面に現れると供に、黒ネコのぬいぐるみサイズに戻って、巨大ロボットになる前と同じように左脇に抱えられた。


 奏は鋼の腹の中から新しいメスを出して、地面を切って、開き口を通るとスクランブル交差点の前に出た。


 道路はメスで切られる前と同じく左右に大きく捲れたままで、周囲の人々はこのことと玉突き事故に意識が集中しているせいで、奏が戻ってきたことにも信号機が何か巨大なものでえぐられたようにざっくりと削り取られていることにも、気付く様子は無かった。


 周囲の人々が騒いでいるのをよそに奏は駅の中の女子トイレに向かい、一番奥に入って、鋼のおしりを便器に向け、腹をぎゅっと絞ると、お尻の穴から真っ黒なゲル状のものが出てきて、便器の中に落ちて独特な動きをみせた。


 「ふう、トイレが近くて助かったぜ」


 鋼がとてもすっきりした声で言った。


 「臭いわ」

 

 奏は便器から顔を背けながら、レバーを捻って、黒い物体を跡形もなく流した。


 「しょうがねえだろ。世界の汚れの食いカスなんだからよ」


 〜第一章 終〜

 いかがでしたでしょうか? こういったwebでの小説投稿というのは初めてなので、まだまだ拙い部分はありますが、今後ともお付き合いいただければ幸いです。

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