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中編 嬉州刺史騒動顛末

かたる名前は十指に余り、だました数なら星にも並ぶ。

自他共に認める稀代の詐欺師・はつ桃白とうはく

彼が語る嬉州きしゅうを舞台とした騒動とは?


どうぞお楽しみください。

 ……あれは今から五年前か。

 あいつの父親、嬉州きしゅう刺史ししよう法岩ほうがんは、所謂いわゆる堅物でな。

 知っての通り、郡や国の太守を監察する立場の刺史にとって、そいつらと馴れ合うような奴は論外だが、対立する程の堅物ってのも問題だ。

 まぁちゃんと仕事をしてる太守からは、


「法岩とはたまには酒でも酌み交わし、胸襟を開いて話したいものだ」


 と苦笑いされる程度のもんだったけど、沼田しょうでん国のよく語毱ごきくって奴がまぁ性悪でな。

 私腹を肥やそうと税を上げたり賄賂を取ろうとしたりしては法岩にとがめられて、内心煮えたぎっていたそうだ。


 ……あぁ、そうだ姫さん。語毱からすれば、目の上のこぶを除こうとするのは当然だからな。

 奴は法岩を刺史の地位から追い落とそうとした。

 しかし法岩は私生活まで品行方正な、難攻不落の堅物だ。

 酒は飲まない、女は妻以外知らない、賭場は見つけ次第取り締まる、なんて面白味のない奴に付け入る隙なんかない。

 そこで目をつけたのが……。


 流石旦那。ご明察。

 その娘、天華てんかだ。

 語毱は顔の良く口が回る軽薄な男を雇って、天華を籠絡して法岩の情報を引き出したり、醜聞を作ろうとしたんだ。


 いや、俺じゃねぇよ!

 俺が依頼されてたら、「その難攻不落を落としてこそ詐欺師の誉れ」って、そっちに罠を仕掛けんだよ!

 で、標的と依頼人の弱みを両方握って、取れるだけ取った後で種明かしして、潰し合わせてる間におさらばってのが俺のやり方で!

 第一『顔が良い』ってところがまず合わねぇだろ!

 ……「あっ」って顔すんな薬師さんよぉ……。

 まぁいいや。

 んで、天華も若い娘の悲しさ、ぱっとのぼせ上がっちまった。

 そんで男に聞かれるまま家の事を話したんだが、法岩は仕事の内情を家族にも話していなかった。

 まぁ当然だわな。

 これに焦った語毱は、男を通じて法岩の書斎から何か書類を盗んでくるように命じた。

 これは天華も渋ったが、惚れた弱みでとうとう父親の書斎に忍び込み、書類を盗んで渡しちまった。

 書類自体は大した事はないものだったが、日頃から厳正な仕事をしていた法岩だ。

 ここぞとばかりに語毱は、「身内に書類を奪われるなど、管理が杜撰ずさんなのではないか」「どういう教育をしたら娘が盗人に育つのか」なんて責め立てた。


 ……ま、そういうもんなんだよ、姫さん。

 語毱からすれば、法岩が責任を感じて辞めてさえくれれば良いんだから、自作自演でも何でもするさ。

 ともあれ法岩の立場は悪くなった。

 このままでは職を辞すか、娘を罰して続けるかしかなかった。

 続けるにしても周囲の信用はかなり落ちていて、これまでのようには動けない。

 語毱の思惑通りってところだ。

 俺がいなければ、な。

 基本的に人の上で偉そうにしてる奴は大体嫌いだが、法岩が刺史をしている嬉州では、他よりも貧困や犯罪が少なかった。

 姫さんと薬師さんには前に話したが、俺は戦で家も家族も失ってる。

 貧しい中で盗んだり騙したりして生きる知恵を身に付けた。

 ここで法岩が刺史を辞めてしまえば、戦ほどじゃないにしても、貧しい子どもが増える。

 詐欺師は半端者が増える程やりにくくなる商売だ。

 食い扶持を守る為に、俺は法岩に手を貸す事にした。


 ……何でにやにや笑ってんだ三人とも。

 で、情報を一通り集めた後、まずは天華に近付いていた男に接触した。

 語毱の後ろ盾があると思って身を隠さずにいたその間抜けさには、心から感謝したね。

 がく貌竹ぼうちくと言ったその男は、酒を飲ませて軽く煽てたら、まぁ喋る事喋る事。

 語毱が勝利を確信してる様子を見て、気が緩んでたんだろうな。

 そこで貌竹から、語毱が頭抜けた女好きで、法岩が失脚したり天華を追放したりしたら自分のものにするつもりだから、天華には手を握るくらいしかしていない事も聞き出した。

 ここまで分かれば後は簡単だ。

 俺は、自分が国守をも裁ける私裁権を持つ密使で、このまま語毱に付いていたら連座に引っかかるぞと脅したら、泣きながら協力を約束してきた。

 貌竹の手引きで女装をした俺は語毱の家に入り込み、


 な、何だ。何をそんなに驚いているんだ?

 女装なんて、男を陥れるのに普通に使うだろ?

 ……姫さん、何で見たいんだ?

 旦那も乗らないでくれ!

 ……薬師さんよ、もし玄流げんるに聞かせたら、ただじゃおかねぇからな……?


 んんっ……。

 ま、それで適当なところでかわやに立つ振りをして、貌竹との契約書やら表沙汰になってない不正の証拠やらをごっそり頂戴して、法岩の家に届けたって訳だ。

 それでここまでの騒動全てが語毱の差し金と公表され、法岩の信用は回復、語毱の信用は地の底まで。

 極刑こそ免れたけど、語毱は奴隷の身にまで落とされ、今はどうしているんだろうなぁ。

 貌竹は、「きん寿栄じゅえいって密使に協力したんだから俺は無罪だ!」とか騒いでたけど、そんな奴どこにも居やしねぇから、普通に罰を受けてた。

 最後にさぁ謝礼だと思ってたら、法岩は「天華を嫁に」とか言い出して、天華は天華で「寿栄様の妻になります」とか面倒臭い事言い始めたからおさらばしたって訳よ。


 ……何だ三人ともその顔は!

 これで俺の話は終わりだ!

 分かっただろう!?

 手ぇかけた割に金に出来なかった、くだらねぇ話なんだよ!

 あー! くそ! やっぱり話すんじゃなかった!

 とにかく! 恥を忍んで全部話したんだから、天華に俺が金寿栄だったって事、絶対ばらすんじゃねぇぞ! いいな!

読了ありがとうございます。


顔真っ赤な桃白は置いておいて、お名前紹介コーナー。


よう天華てんか……太陽をイメージして作りました。ちなみに五行説的に金の気を持つ桃白とは相性悪いです。

よう法岩ほうがん……決まりに厳しいイメージで。日本における監察官である判官ほうがんと重なったのは狙ってたんだからねっ。本当なんだからねっ。

よく語毱ごきく……欲の塊から。ほら、かたるにまりで……。

がく貌竹ぼうちく……らくと『顔だけ』から。俺のちょい役が凝った名前のわけがない。


次話で完結の予定です。

よろしくお願いいたします。

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