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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第四章 天才の苦難、垣間見えた闇
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53話 明かされる闇1

「もう終わりかな?」


 防御壁を解き、シャルロットは煽るように言う。アイリス達は信じられなかった。自分達とイゴールには、覆すことのできない明確な実力差があった。しかし目の前には、イゴールに追い詰められた彼女らのように、上級魔族イゴールがシャルロットに追い詰められている。


「お、おお、おおお、うぉおおおぉーー!!!」


 シャルロットとの実力差が受け入れることができず気が触れてしまったのか、空に向かい咆哮を上げるイゴール。その断末魔のような声にアイリス達は一瞬体を(すく)ませるが、シャルロットは全く動じる様子はなく涼しい顔をしている。

 大声を出し肩で息をするイゴール。シャルロットと向き合いながら、うわ言のように話し出す。


「私は悠久の時を生きた魔族だぞ……貴様ら人間共とは年季が違う……」


 口調の変わったイゴールのうわ言をシャルロットは黙って聞いている。しかし、表情は全く変わらず内容は頭に入れていないようにも見える。


「騎士団の精鋭達も幾人と返り討ちにしてきたのだぞ……」


 まるで自分の戦歴を自分に言い聞かせるように続ける。それだけシャルロットとの実力差がショックだったのだろう。そしてシャルロットが口が開く。


「騎士団の精鋭? あんな雑魚共と私を一緒にしないでもらいたい」


 人間の戦士としては最高峰の存在である王国騎士団。その精鋭の騎士達を数多く葬ってきたことはイゴールの中では誇るべきものだったのだろう。シャルロットの言葉に酷く慄いた。


「騎士団の精鋭が雑魚……?」


 シャルロットの言葉に反応するセシリア。名門王立魔法魔術学院を卒業しても、騎士団の精鋭部隊まで辿り着ける者はごく僅かだろう。その精鋭を雑魚と言い放つシャルロットにセシリアは違和感すら覚えた。


「さて、もう勝負はついたと思うが、いくつか聞いておきたいことがある」


 イゴールの心情など気にすることなく会話を進める。イゴールも、もう戦意はなさそうだ。


「この森には君以外にもそれなりの数の魔族がいたと思うのだが、どうも見当たらない。君が消したのかな?」


「なぜ私が同胞達を殺さねばならん……」


「ほお? ではアンデットはどうかな。こちらも随分数が減ったようだが」


「それも知らんな……」


 魔族やアンデットを殺したのはハーネットであるがシャルロットはその事実を知らない。現状、最も疑わしいイゴールを問い質すが彼は潔白だった。


「私は人間以外は口にしない。まあ、向かってくるなら別ですがな……」


 口調が普段通りに戻りかけたが、それも次の言葉までだった。


「では最後に聞いておこう。どうやって森に入った?」


 この質問にイゴールは明らかに動揺して口を閉ざす。そしてシャルロットは追い詰めるように続けた。


「君がいかに上級魔族であろうと簡単には侵入できない造りになっているのだがね。それも我々に気づかれることなく中に入るとは……一体どうやったのかな〜?」


 悪戯っぽい笑顔を浮かべながら尋問するシャルロット。


「そ、それは……」


「おや〜? そんなに答え辛いことを聞いたかな。ならば質問を変えよう。君をこの森に送り込んだのは何者かな?」


 今日一番悪い笑顔を浮かべるシャルロット。反対にイゴールの顔は青ざめていた。


「……何のことやら」


「まあ君の口から聞けるとは思っていないがね」


「ぐ……」


 イゴールのバックに糸を引いている者がいる。それさえ確認できればシャルロットは満足だった。


「さて、これで君は用済みだぁ」


 杖をイゴールに向けて構える。これ以上イゴールから有益な情報を引き出せないとわかり処分するためだ。シャルロットの杖の先が光り始める。止めを刺すようだ。


「ま、待て!」


「うん?」


 思考を巡らせるイゴール。なんとかこの状況を覆す手段を探す。


「あなたの可愛い生徒には毒を仕込んでましてね……」


 イサミやコリンのことだ。万が一魔術が解術された場合すぐに処分できるように体内に仕込んでいたものだ。イゴールは、それの解毒を条件に見逃してもらうつもりだった。


「それが何か?」


「なに!?」


「生徒ひとりふたりの命のために、危険な上級魔族を見逃すと思うのかな? むしろそれだけの犠牲で君を始末できるなら安いものだろう」


 シャルロットには目の前の生徒が助かるなら……などという甘い考えはなかった。生徒の犠牲と、イゴールを見逃すことによる今後の犠牲を瞬間的に損得勘定で計算する。そして今生徒を見殺しにしてでも、上級魔族を始末した方が助かる命は多いと機械的に判断した。一度は見逃すと口にしたものの内心ではそんなつもりはなかったようだ。


「馬鹿な……」


「生徒とて命の覚悟をして森に入っている。君の心配には及ばない」


「じ……慈悲を」


 万策尽きたイゴールは命乞いをする。


「そうやって命乞いをしてきた人間を君は何人殺してきたのかな? 残念だが、君同様に私もそういった感情は持ち合わせていない」


 目を瞑りたくなるほどの光がシャルロットの杖先に集約される。


「悠久の時を生きた魔族ならば最期まで足掻いてみせたまえよ」


「お……おのれぇー!!!」


 最後は理性も何もない無策な特攻だった。巨大な体躯がシャルロットを襲う。


五大魔法圧縮弾(ファイブ・ゼロ)


 高純度の魔力の圧縮弾がイゴールを飲み込む。


「オォォォォォォォォー!!」


 シャルロットの放った魔法は、イゴールを完全に消滅させる。全身を砕いても、首を刎ねても死ななかったイゴールもこれはどうすることもできなかった。魔法に飲まれ塵となる。


「ふむ、これにて一件落着だぁ!」


 わざとらしく明るい声でアイリス達に話しかける。アイリス達は圧倒的なシャルロットの実力に、呆けたような顔をしている。


「うん? 魔族はもう始末したから安心して構わないよ」


 セシリアがどうにか口を開こうとするが、考えがまとまらない。それを察したシャルロットが話しだす。


「私がなぜ森にいるのか不思議かな?」


「え、ええ」


「誰かこの結界に触れただろう?」


 シャルロットは近くにある結界を指差す。


「あ、私かも……」


 イゴールに追い詰められたアリスはもたれ掛かるように結界に触れていた。


「この結界は私のお手製なのだが、結界に触れた者の情報をある程度抜き取ることができるのだよ」


 学院や森にある結界には、外敵が外から侵入しようと結界に触れるか、あるいは結界に穴を開けたりした場合に結界の魔力がその者や場所を感知、魔力の周波や表層的な思念を読み取る。そして読み取った情報は、術者であるシャルロットに伝わる仕組みだ。ちなみに交流戦当日マリアの侵入を見破ったのもこの仕掛けのおかげだ。


「それでアリスちゃんの思念を読み取って森に来たと?」


 珍しく話が理解できたアイリスに少しだけ申し訳なさそうにシャルロットは答える。


「いかにも。この森にはせいぜい中級魔族しかいないはずなのだがねぇ。上級魔族に生徒が襲われたとなると助けに来ないわけにはいかないだろう?」


 本来なら、魔族に襲われても試練であるため自己責任だが、学院側のミスで上級魔族を森に入れてしまったため学院長代理自ら生徒の救出に来たようだ。


「てか学院側が森に魔族を放っていたんですか……」


 アイリスは呆れたように言う。


「全ては君達を立派に育て上げるためだ。勘弁してくれたまえよ」


 全く悪びれなく答えるシャルロット。そんな彼女の背後に闇に覆われたひとりの男が忍び寄る。


「へえ……ならば僕達(アンデット)はどうなのかな?」


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