50話 ベルの本領
「ほお? アンデットの分際で私と戦おうとは……」
上級魔族であるイゴールはアンデットのハーネットを見下すような言葉を呟く。アンデットは自然には生まれない。誰かが造った人工的な存在であり、それがイゴールには侮蔑の対象になったようだ。
「私が自ら相手をするまでもありませんなぁ……」
そう言ってパチンと指を鳴らすと、草陰からガサガサと何者かが現れた。
「なに!?」
ハーネットはその者の姿に驚愕する。
「フランベル!?」
ハーネットは姿を現した西洋騎士に叫ぶ。ハーネットの問いかけに西洋騎士からの反応はない。
「ほお? フランベル? アレはそのような名前なのですかな……」
「貴様っ……」
ハーネットから怒りの感情が滲み出る。この西洋騎士こそが森に残っている最後のアンデットだった。森にいるアンデットの中で唯一ハーネットと言葉を交わすことができ、人間らしい理性が残っていた個体だった。森で孤独なハーネットはフランベルと呼ばれる西洋騎士に友のような感情を持っていた。
「フランベル……僕がわかるかい?」
ハーネットの問いにフランベルからの返答はない。黙ってランスを構える。ハーネットが間合いに入れば迷わず攻撃を仕掛けてくる。そんな雰囲気だ。
(操られているのか……)
普段から無愛想な奴ではあったが、ハーネットが話し掛ければ何かしらの会話にはなっていた。今の機械のような対応は、何らかの魔術にかかっているに違いない。
(まずい……フランベルが本気でくれば魔族を相手にしている余裕はない……くそカルナがいれば――)
本気で戦ったことはないがフランベルと自分の実力は拮抗している。それがハーネットの分析だった。アイリス達ではイゴールに敵わないだろうがカルナなら対抗できただろうと、今はもういない精霊の存在を悔やむ。
「ほっほっほ……」
イゴールは、セシリアの防衛魔法をあっさり解術するとイサミとコリンを解き放つ。
「アイリィ達と同じ服を着ていますが敵なのですかー?」
「どうやら操られているみたいですね」
険しい表情で答えるアイリス。
「なら任せて下さい〜! 水球」
ベルはイサミに向かって攻撃魔法を放つ。イサミはベルの魔法をあっさりと斬り捨てベルに斬撃を加える。
「ひああああっ〜!!」
イサミの斬撃を小さな体躯を活かして素早く回避する。そして怯えたようにアイリスの背中に隠れる。
(彼女ではダメか……)
ハーネットは横目でベルの戦闘能力を確認した。斬撃を避けた体捌きはなかなかのものだが、魔法の威力は完全に下級精霊のものだ。彼女では戦力にならない。
ベルに代わりアイリスとマードックが前に出る。
「おめぇ、剣士相手はつれーだろ。コリンをやれ。女は俺がやる」
アイリスがコリン、マードックがイサミと戦うようだ。セシリアはイゴールを警戒しながらアリスの治療を進める。
「若者の同士討ちですか……イヒヒ、これは一興」
そう言って腰を下ろした。自分が戦うまでもないということだろうか。イゴールの視線はアイリス達に注がれる。
「いひひひ……」
「完全に目がイっちゃってますね……申し訳ないですけどちょっと痛い目にあってもらいますよ!」
「きいい〜!!」
コリンから火球が3発放たれる。操られていても元々使える魔法などは変わりなく使用できるようだ。
「水の魔法 巨人の波乗り」
アイリスが魔法を唱えると、杖の先から瞬く間に大量の水が発生。まるで巨大プールをひっくり返したような激流がコリンを魔法ごと飲み込む。魔力の強さに物を言わせ、物理の力で相手を圧倒するアイリスの戦術だ。
「アイリィ〜凄いです〜!」
「ふふん! ようやく回ってきた出番ですからね! いつもより気合いを入れちゃいましたよ!」
「ほお……」
イゴールもアイリスの魔法の威力に興味を示す。数十メートルは流されたコリンだったが、ゆっくりとアイリスの元に歩いてくる。
「やっぱり魔術そのものをなんとかしないとならないようですね……」
「おお~! アイリィ〜頑張って下さい!」
「解術……ってどうやるんでしたっけ……?」
コリンを止めるには殺すか、魔術を解術するしかないがクラスメイトを殺すわけにはいかない。しかし、アイリスには上級魔族がかけた魔術を解術する方法など検討もつかない。普段の勉強嫌いが裏目に出た。頭を捻るアイリスにすすす〜っとベルが近づいてきた。
「アイリィ〜?」
「はい?」
「アレ、食べてもいいですか?」
「……!? まさか……」
ベルはコリンを指差しアイリスに尋ねる。ここで精霊ベル・レインドールに『対価』を求められたのだ。アイリスは数秒間色々な思考を巡らせてから口を開く。
「……特別に許可しましょう。ただ程々にお願いしますね?」
「ほんと? うれしい〜!」
くるくるとアイリスの周りを飛び回るベル。
「ではまず動きを止めますね! 水牢獄」
アイリスは水の魔法を放つ。球体の水の固まりがコリンを包む。中で藻掻くコリンだが脱出はできないようだ。魔法も放てず無力化に成功したようだ。それを見たベルがコリンの眼前まで近づく。
「それではいただきますね〜!」
両手の甲を額に当てる。
「魔性吸引」
ベルの両手が光る。そしてベルは、アイリスの魔法ごとコリンの魔力を吸収していく。コリンの魔力だけでなくコリンに掛けられた魔術の魔力も同時に吸収する。可視化できる程に強力な瘴気がコリンの体から溢れベルに吸収されていく。
「なんですとっ!?」
イゴールはその異様な光景に驚く。魔術を解術するのではなく魔術ごと飲み込んだのだ。魔力を吸い切られたコリンは魔力切れを起こしその場に倒れる。意識も失っているようで微動だにしない。アイリスがコリンに駆け寄り呼吸や脈を確かめる。
「あ〜、うん。まあ生きているのでよしとしましょう」
コリンの無事を確かめ安堵するアイリス。
「ごちそうさまでした〜」
ベルは満足気に笑顔を浮かべる。
「おい、片付いたならこっちを手伝ってくれ!」
マードックからの援護要請があった。マードックは傷付けずに無力化するということが苦手で攻めあぐねていた。攻撃特化のイサミ相手に苦戦しているようだ。
「アイリィ〜……」
甘えた声を出すベル。
「えーえーもう皆まで言わずともわかりますよ」
「いいの〜?」
「ええ、ちゃちゃちゃっとやっちゃいましょう!」
アイリスとベルも参戦しイサミに挑む。イサミもアイリスとマードック2人相手は厳しいのか防戦一方になる。
「よし! 今だやれ!」
アイリスが魔法で刀を弾くとマードックが間髪いれずイサミを羽交い締めにする。体術にも優れているイサミだったがマードックとの体格差ではどうしようもなかった。
「あ……その体勢は不味いかも……」
アイリスがそう言ったときにはもう遅い。
「魔性吸引」
ベルはマードックとイサミの両者から魔力を吸い上げる。
「おい! なんかやべぇーぞ!! おお…おぉぉ……」
マードックの抗議も虚しくベルは一気に魔力を吸う。
(アレはまずいですな……)
コリンに続きイサミまでも解術させられてしまい、イゴールはベルに脅威を感じる。
(芽は摘んでしまわないとなりませんなぁ!)
ベルの能力は脅威だが戦闘力自体はイゴールからすれば無に等しい。今ここで殺してしまえばいいと立ち上がりベルに向かう。
「お腹いっぱいです〜」
コリン、マードック、イサミに加えてイゴールとアイリスの魔法を吸い上げ、ベルの体は光に包まれる。
「ヒャヒャヒャ!! もらいましたぞ!!」
凄まじい速度でイゴールが迫る。イゴールは闇の魔矢をベルに向かい放つ。
「はあ? キモいんだけど」
収束していく光からベルより少し低い声が聞こえた。
「異物放出」
ベルから放たれた闇魔法の衝撃波は魔矢ごとイゴールを吹き飛ばす。ベルを包んでいた光が消えると、ベルより一回り大きな人魚が姿を現す。
「はぁ〜いアイリス。元気ぃ〜?」
ギャルのような軽い口調で契約主に挨拶を交わす。
「進化したようですね……グレースちゃん」
お読みいただきありがとうございます!
早くも50話!
あっという間でした。
これからも応援よろしくお願い致します。




