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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第四章 天才の苦難、垣間見えた闇
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41話 魔法クラスの才女

 思い出せる記憶で最も古いものは研究所にいた頃だ。ベッドに横たわる私の側で、白衣を着た大人達が忙しなく駆け回っている。私は横目でそんな大人達をぼんやりと眺めていた。

 私は何かを測るためなのか、ベルトのようなものが腕に巻かれ注射針も何本も刺さっていた。大人達はモニターに映し出された数字を見ては一喜一憂してしていた。自分にはよくわからないことばかりだったが、何かが上手くいった時は手放しに喜び、私をたくさん褒めてくれた。それが幼い私にはとても嬉しかったことは何故か覚えている。そしてある大人が興奮気味に私に声をかける。


「素晴らしい! アリス! 君は最高傑作だ!」


 今ならばわかる。あれは所詮、実験用モルモットの機嫌をとるための言葉に過ぎなかったと。




 試練2日目午前6時。

 夜が明け、薄暗い森にも僅かに明るくなる。敵地であるため、膝を抱えるような姿勢で座り睡眠をとっていたアリスは目を覚ました。


「うう〜ん……」


 両手、両足を伸ばし眠気を飛ばす。横には同じ魔法クラス第5小隊のフーラ・スノーホワイト、コリン・スーウェンが体を丸めながら熟睡していた。


(なんでこの子達、この状況で熟睡できるんだろう?)


 魔法クラス随一の実力者のアリスは、魔族に襲われても返り討ちにする自信があった。それでもここは敵地。いつ、どんな不測な事態が起こるかわからず、警戒はするに越したことはない。アリスより実力の劣るフーラとコリンは、さらに警戒してしかるべきだ。なのにしっかりと熟睡しているふたりを見てアリスはシンプルに思った。


(バカなのかな? まあ別にいいけど)


 アリスはクラスメイトにあまり頓着がなかった。2人を横目で見ながら身支度を整える。


「とうっ」


 アリスは寝床にした大木から飛び降りる。人がすっぽり入れる程の大木を魔法でくり抜いて空間を作り、そこを拠点(ベース)にした。地上数メートルの位置なので歩行型の魔族にはまず見つからない。さらに入口も偽装しているので、傍目からはそこに人間がいるようには見えない。3日間に及ぶ試練は不眠不休というわけにはいかず、安全に休める場所の確保は急務だった。

 アリスは森に入ると、後ろで震えるフーラとコリンを引っ張り、積極的に歩き回り寝床を確保。近くに水源も発見して課題だった入浴の問題も解決した。幸い魔族や野獣にも遭遇しなかったため無難な初日を送る。

 恐怖に怯えていたフーラとコリンも魔族に遭遇することなく初日を終えたこと、安全な寝床ができたことで安心したのかしっかりと眠ることができたようだ。


(なーんか拍子抜けなんだけどなぁー) 


 近くを流れる川で朝風呂と洒落込むアリス。服を全て脱ぎ無防備に見えるが、すぐに攻撃魔法が放てるように周囲には複数の魔法陣が展開されている。


(あれだけ歩き回って魔族どころか獣一匹いないのは解せないなぁ〜)


 仰向けで川に浮かぶアリス。腰まである美しい金髪が、川の流れに沿ってゆらゆらと揺れる。ハーネットの存在を知らないアリスは森に魔族や野獣の類がいないことを不審に思っていた。


(裏がありそうな学院だし何か別の意図でもあるのかなー)


 その時、遠方に仕掛けていた魔法陣が発動した。ある程度大きい生き物が動くと作動して、攻撃魔法を放つように術式を組み込んでいたためだ。


「なに?」


 水音を立てて立ち上がり周囲を警戒する。アリスは一瞬で臨戦態勢に入る。


「あああー!!」


「きゃああー!! コリン君!?」


 叫びながら、こちらに向かってくる人影を見てアリスは魔法陣を止めた。魔法陣が感知したのはコリンだった。呆れたようにぽかんとふたりを見るアリスにフーラは涙目で話しかける。


「アリスさぁ〜ん! 無事だったんですねー! よかったですぅ〜!」


 フーラとコリンは起きたらアリスがおらず、敵に攫われたと思い周囲を捜索していた。ふたりにとってアリスの存在は生死に関わる。しかし、ふたりはそんな打算抜きにアリスを心配した様子だった。


「あ、あ〜……ふたりともよく寝てたから、声をかけずに出てきちゃった」


 あはは、と笑うアリス。自分がいないのなら大人しく寝床で震えていればいいものの、危険を犯して探しにくる無謀さとお人好しさに呆れたのだ。


「いやぁ見つかってよかったです……あああっーー!!!」


 コリンが絶叫する。生まれたままの姿のアリスが、モロに視界に入ったためだ。


「すすす、すみません!!!」


 物凄い勢いで後ろを向くコリン。


「アリスさん! 服! 服を着て下さいぃ!」


 フーラが畳んであったアリスの制服を持って叫ぶ。


「……? 私プロポーションいいから平気だけど?」


 スタイルがいいから裸を見られても恥ずかしくないという、どこかズレた感覚を持っていた。恥ずかしがる様子もなくフーラから渡された制服を着る。


「あの、もういいでしょうか……?」


 ずっと後ろを向いていたコリンが尋ねる。アリスの裸を見たせいか、後ろから見てもわかるように耳が真っ赤になっている。


「あははーごめんねー。もういいよ〜」


「そうですか、じゃあ……」


 そう言って振り向くコリン。


「え?」


 振り向いたコリンの顔の前に差し出されたアリスの手のひら。アリスはにっこり笑いながら――――


「風の魔法 突風(ブラスト)


 ほぼゼロ距離からの中級魔法を放つアリス。轟音とともに、コリンは一瞬で10メートルは吹き飛ばされ、地面に着地してからもさらに10メートル程ゴロゴロ転がる。

 絶句した様子のフーラ。アリスは無表情でコリンを見る。立ち上がる彼を見てさらに攻撃用に魔法陣を展開する。


「ア、アリスさん! やり過ぎでは……確かに裸を見たコリン君が悪いんですけど……」


 裸を見られた腹いせに、コリンを攻撃したと思ったフーラはアリスに意見する。そんなフーラにアリスは表情を変えずに言った。


「あいつ……操られてるよ……」


早くも第四章に入りました。

これからも頑張っていくのでよろしくお願い致します!



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