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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第三章 試練の森〜それぞれが背負うもの〜
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38話 アンデット

「貴方が学院の生徒だった……?」  


 ハーネットと名乗る男は、闇魔法のオーラを身に纏っているせいで実体がよく視えない。フードを深く被っていることもあり、表情が読めず丁寧な話し言葉ではあるが不気味な印象を拭い切れない。


「そうだよ、まあ生徒と言っても随分昔の話だけどね」


「あなたは結局人間ではないんですか?」 


 どこか遠回しに話を進めようとするハーネットに対してアイリスはシンプルに疑問をぶつける。男を返答を待たずカルナが大声を出した。


「アイリス! こいつはアンデット、死者を闇の魔術で改造した危険な存在なの!」


 ハーネットに対して、未だに警戒心を解かないカルナはアイリスを守るようにハーネットの前に立ちはだかる。ハーネットはやれやれと肩をすくめて話す。


「さすが闇属性の上級精霊だね。よく知っている」


「アンデットは勝手には生まれない。必ず造った奴がいるはず。そいつが親玉なの」


 カルナ曰く、アンデットは人工的に造られた存在で必ず「造った者」がいる。その者こそが黒幕でありアイリス達に害を為すと。

 アイリス達がいるのは魔族の生息地である試練の森だ。セシリアやマードックなど生徒以外で近づく者は、排除すべき敵である。ましてや正体不明のアンデットなど完全にカルナの抹殺対象だった。そしてそれを差し向けた者もカルナの中では敵と認識されていた。

 

「君の言う通りだ。僕は何者かによってアンデットにされた。つまりは死人(しびと)だね」


「何者かによって?」


 セシリアの問いに少し視線を落とすハーネット。


「覚えてないんだ。誰が何の為に僕をアンデットにしてこの森に放ったのかわからない。先前の記憶や死ぬ間際の記憶はなんとなく覚えているけどね」


 ハーネットの話を聞き、セシリアは腕を組み手を顎に添えながら考える。彼女が考え事をするときの姿勢だった。


「記憶がないのは恐らく魔術を掛けられていると思います」


「だろうね。まあ先前の記憶が作り物の可能性もあるが……」


「だったら記憶は(おぼろ)げでなくはっきりと覚えているはずですが……」


「ん? ん? どういうことですか?」


 話についていけないアイリスが、2人の会話に割って入る。


「アイリス。アンデットにはいくつか種類があるの」


 主人のためにフォローを入れるカルナ。カルナはアンデットについて説明を始める。


「まず死者の体だけを動くようにしたもの。ようはゾンビなの。魂はなくて機械的に体が動いているだけ。だから頭は悪くて動きも鈍臭いから殺すのは簡単なの」


「反対に魂だけを造り物の体に閉じ込めたもの。魂があれば死ぬ前の記憶や知識があるから先前の魔法が使えたりするの。強かった人の魂を、丈夫な身体に入れられると殺すのはちょっと大変なの」


「あとは死んだ本人の魂を本人の体に入れたもの。地域によってはキョンシーなんて言われてるの。仮初(かりそ)めの肉体でなく、本人のものだから先前の力を100%発揮できる。だからとっても強いの。魔術次第では疲れない、衰えない、死なない肉体にできるから殺すのは凄く難しいの。細かくはもっとあるけど大体こんな感じなの」


(なんで全部殺す前提なんだよ……) 


 マードックは当然の疑問を覚えたがそれを決して口にすることなかった。


「なるほど……」


 そろそろパンク気味のアイリスだったがカルナは続ける。


「体に魂を埋め込むときに先前の記憶を消したりもできるの」


「ハーネットさんは記憶を消されていると?」


「こいつの話が本当ならそういうこと」


「なかなか手厳しいね」


 ハーネットを全く信用しないカルナ。しかしハーネットは話を核心へと進める。


「ちょっと話が逸れそうだから本題に移るよ。最初に言ったけど僕は君達の味方だ」


「味方ねえ……」


 胡散臭いものを見るようにマードックが言う。


「君達は学院からこの森で()()()()()()()を討伐するように言われていないかい?」


「近しいことは言われています。魔族の生息するこの森で、3日間生き残れと……」


 アイリス達はハーネットにこの森に入ることになった経緯を細かく説明する。


「なるほど……やはり昔とは変わったようだね……」


 ハーネットは昔とは違う学院への思いを口にした。


「とりあえずこの森に魔族はいないから安心していいよ」


「「「魔族がいないっ!?」」」


 生徒3人がシンクロした。この森を生き抜く上で最大の脅威がいないと告げられ脱力する。


「魔族云々は学院のブラフだと?」  


「その辺は僕の昔話を聞いてくれればわかるよ」


 ハーネットは先前から今日までの話を語り始めた。


 幾年か前、先前ハーネットは学院の生徒だった。それも開校以来の天才と呼ばれる傑物だった。闇使いの○○○と呼ばれ、その名声は学院内外に知れ渡っていた。在学中から傭兵として各地の戦場を駆け回り数多くの魔族を討伐した。

 そして学生ながら、世界最大の治安維持組織「アイギス」の席官(幹部)に内定した。この頃のハーネットは自分こそが最強だと信じて疑わなかった。入学時から同級生は自分の足元にも及ばず、優秀な教師陣さえも下に思えた。実戦で戦果を挙げるにつれて自信と同時にその傲慢さも増していった。

 しかし所詮(しょせん)は井の中の蛙だったのか、アイギスに正式に配属されてから程なくある任務であっさりと命を落とした。

 次に目を覚ますとハーネットは試練の森にいた。朧げだが自分が死んだ時の記憶があり、体も依り代(魂を閉じ込めておくための器)であり自分は死んだ、そしてアンデットにされたのだとすぐに理解できた。死んでしまったことはショックではあったが、それよりも最強と信じていた自分が凡夫の一人に過ぎない事実が、自らを絶望の淵への追いやった。

 それから時は流れたが、いつまで経ってもハーネットをアンデットへ変えた術者は現れなかった。目的もなく暇つぶし程度に遭遇した魔族を倒すだけの不毛の日々だった。

 しかしある日そんな日々に変化が生じる出来事が起こった。



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