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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第二章 入学二日目の激闘
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24話 アリス・フェアリーテイル

 マリアとシャルロットの密談が交わされている最中交流戦は続いていた。カルナはアイリスに治癒魔法をかけている。


「ごめんね……私治癒魔法は得意じゃないの……」


「気持ちだけで十分嬉しいですよ」


 カルナはアイリスのために慣れない治癒魔法に湯水のように魔力を注ぎ込む。当然契約主であるアイリスの魔力も削られていく。


「カルナちゃん……もう傷は塞がりましたからその辺で……」


「まだだめなの……」


「いえ、あの……本当に大丈夫ですから……」


 カルナの魔法で傷はある程度癒えたものの、魔力が現在進行形で消費されるアイリス。普段なら何ともないが負傷した体には堪えるようだ。

 カルナの攻撃魔法は火力は高いが消費魔力も大きい。またカルナのペットである闇の従属達の魔力もアイリスが一部負担しており、はっきり言って燃費が悪い。今日の試合でアイリスの動きが鈍かった理由もこの魔力負担のせいである。

 ただでさえ普段より大きい魔力負担を強いられて尚、カルナの苦手分野であり効率の悪い治癒魔法で魔力を消費させられるアイリス。今日はいつもよりぐっすり眠れることだろう。


「ごめんなさい。私の魔力が残っていたら治してあげられるのに……」


 治癒魔法が使えるセシリアが心配そうに声をかける。だが現在は魔力切れ(ロスト)に近い彼女にはアイリスを見守ることしかできなかった。


「治療終わったの……」


 都合20分にのぼる治療でアイリスの傷はほとんど完治した。アルバーナの直撃を受けた横っ腹はまだ少し痛むが時間薬だろう。

 そして治療を終えたカルナに魔法クラスの生徒が押し寄せてくる。交流戦は騎士クラス同士の戦いのため魔法クラスの関心は薄い。


「ねえねえ本当に精霊なの!?」


「お人形みたいで可愛いー!!」


 好意的な声を掛けられたにも関わらずカルナは「ひっ」と怯えた声を出し朝のように闇の水たまりにとぷんと浸かってしまう。


「カルナちゃんはシャイな子なんですよ」


 アイリスは自身の影に隠れてしまったカルナを擁護する。するとクラスメイトの矛先はアイリスに向かう。


「アイリスさんって何者なのー?」


「新入生で上級精霊と契約してるなんて凄いわ!」


「箒の扱いも凄かったぞ!」


 クラスメイト達からの手放しの称賛にアイリスは目を丸くする。普段から自分は天才だと(のたま)うアイリスだが他人から面と向かって褒められたことは少なく返答に戸惑う。戦いの後半はほとんど精霊カルナによる結果だが、精霊の戦果は契約主の戦果とクラスメイト達は解釈したようだ。


「え、えへへ、あ、ありがとうございます……」


 頬を赤く染めて口を尖らせながら俯くアイリス。どうやら照れているようだ。らしくないアイリスの態度にセシリアも輪の後方でくすくすと笑っている。

 そして交流戦は後半戦に突入する。


「勝者! ミーナ・ランドール!」


 ジョージを庇ったミーナという少女が同じ騎士クラスの男子生徒を圧倒した。傷ひとつ負っていない完封勝ちである。騎士クラスからも感嘆の声があがっており、ミーナは騎士クラスでも完全に頭ひとつ抜けた存在になっている。

 

「騎士クラス! アダム・リッグス!」


「魔法クラス! イサミ・K・クローバー!」


 数少ない魔法クラスの生き残りの登場に魔法クラスの生徒達は再び舞台に注目する。対戦相手のリッグスもイサミの実力がわかっているのか、警戒した様子で武器を構える。イサミは先手必勝と初戦と変わらず積極的に仕掛け相手を追い詰めていく。リッグスも果敢に反撃に出るも実力差で押し切られ最後は武器を弾き飛ばされ敗北する。


「勝者! イサミ・K・クローバー!」


 勝者宣告を受けても相変わらず笑顔はなく、無愛想に舞台を降りる。魔法クラスの生徒達も拍手はするものの彼女の他人を寄せ付けないオーラもあり、イサミに話しかけようとする者はいなかった。

 そんな空気の中アイリスがイサミに声を掛けようとした瞬間、後ろから知らない声がした。


「へえ~あの子強いんだ~」


 声の主は女子生徒だった。制服の上下のみ着用しており所属クラスはわからない。交流戦も後半になり生徒全員の顔は見ているはずだが、アイリスの記憶には女子生徒の姿はなかった。


「え~と……どなたですか?」


 アイリスの問いにくすりと笑い女子生徒は答える。


「あなたの対戦相手だよ。戦ってないけど」


 そう言ってしゃがみこんで舞台近くにあるトーナメント表を指差す。そこにはアイリス・アンフィールドの名前の横にこう書かれている「アリス・フェアリーテイル」


「ああ~~~~~!!」


 彼女の正体がわかり闘技場内全てに響く程大きな声で叫ぶアイリス。そんなアイリスがツボに入ったのか、くすくすと笑うアリス。


「初戦で私から逃げやがった奴ですねー!!」


 不戦勝が気に入らなかったアイリスはあの時の鬱憤をアリスにぶつける。


「あはは、ごめんね。なんか面倒くさくて」


 全く悪びれる様子もなく抑揚のない細い声で言うアリス。アイリスの声に注目を集めていた2人だが今度はヒカゲが大声を出す。


「アリス・フェアリーテイル! 今までどこに行っていたんだ!!」


「やっほー先生」


 ボイコットに対するヒカゲからの叱責などまるで気にする素振りもなく、ひらひらと手を振るアリス。交流戦など彼女にとって完全に他人事のような態度だ。


「誰だあいつ?」


「僕のクラスの生徒です。朝からいないと思っていたんですが……」


 騎士クラス担任のジーナは少し興味深そうにアリスを見る。入学直後にも関わらずあれだけマイペースを貫ける奴も珍しくある意味評価の対象になる。ジーナはそんなことを考えていた。


「結構なご身分ですねぇ~なんなら今から混ざりますか?」


 アイリスが挑発気味にアリスに言う。やはり不戦勝の件を根に持っているようだ。


「ん~どうしよっか。楽しそうだけど今日はいいや」


「この天才アイリスちゃんに恐れをなすと?」


 珍しくアイリスが絡んでいく。しかしアリスはアイリスの嫌味を無視して続ける。そして彼女は言う。


「だってこの中なら私が1番強いと思うよ」


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