228話 新生、王国騎士団2
「いや、しかしお前が元帥になる日が来るとはな」
ひとりの騎士が、クレアの対面のソファーに腰掛けて足を組む。クレアはそんな彼女に愉快そうに声をかける。
「お前、元帥の面前で態度がなっていないのではなくて?」
「おーおーそれは失礼した」
そう言ってジーナ・フランベルは組んだ足を元に戻す。
「今の騎士団に彼女以上に必要な人材はいないだろう? 私の配下にしていたが、騎士団にお返ししよう」
ニヤリと笑いながらシャルロットが言った。
「たくっ……相変わらず人のことを物みたいに扱いやがって……そういうところが気に入らねえ」
ジーナ・フランベル。かつて任務で命を落とした王国騎士団大佐。一兵卒の頃からクレアの同期であり、イレイナの実母だ。遺体を回収したシャルロットがアンデットとして蘇らせてからは、シャルロットの配下となっていた。出来が良かったため魂を分け、学院の教師、そして試練の森へ生徒の相手役として放っていた。
「そう言ってくれるな。今の君は生前よりもさらに力が発揮できるようになっている。純粋な戦闘力で言えば、うちの席官クラスなんだ。本当は惜しいのだよ? 傑作である君を手放すのは……」
ヒカゲと並んでジーナはシャルロットが造ったアンデットの中でも会心の出来だった。そんな傑作をあえて手放すにはもちろん理由がある。
「ちっ……貸しはこれ以上作りたくなかったのだけれど、こればかりは仕方ないわね」
「貸しだなんてとんでもない。今やアイギスと騎士団は同士ではないか」
シャルロットは張り付いたような笑顔で言ってのけた。
「……まあいいわ。それとフランベル、形はどうあれ蘇ることができたのだから、死んでいた期間の分もしっかり働きなさいな。アンデットに睡眠は必要ないのでしょう?」
「鬼か、てめぇは……」
「とりあえず、夕方には使いに出したイレイナが帰ってくるわ。母親らしく食事でも用意することね」
クレアは口調こそいつも通りだったが、フランベル親子のことを気遣っているようだ。彼女も死んだはずの親友とこうして軽口が叩けることに、少なからず嬉しさを感じているようだ。
「ではクレア元帥。こちらの書類にサインを。これを持って正式に貴女は王国騎士団元帥に就任となります」
「ええ」
信頼を失った王国騎士団は形式上、アイギスから監査が入るようになった。本部のある王都も、今後はシャロン率いるアイギス8番隊が統治するようだ。しかし、新生王国騎士団は、静かだか確実に新たな胎動を始めていた。
元帥 クレア・ネル・オーガスト
中将 ジークフリード・レアブラッド
中将 ジーナ・フランベル
少将 ドラン・ジアンビ
准将 ラオン・ベルガー
中佐 イレイナ・フランベル
その他、黒衣の騎士団を各地に部隊長に任命。忠誠心の高い部下を広く配置して隙間なく騎士団を管理するようだ。またランドール派の抜けた将校ポジションには各地から選りすぐりの若手を抜擢。かつてジェノスに見出された自分のように、若き才能を育てるようだ。
(ランドール。お前の叶えることのできなかった青臭い野望は私が実現してやるわ。あの世で指くわえて眺めていることね)
ランドール家霊園
「姉様」
「あら、ミーナ来ていたの」
もっとも激動のひと月を過ごしたであろうリオンは、イレイナのような深い隈を作っていた。
「あの、少し休まれては。毎日ほとんど眠っていないのでしょう」
心配するミーナに優しく微笑む。
「大丈夫。こうして風に当たっていると、いくばくか、心が休まるわ」
ランドール家の人間として、数えきれぬ程の謝罪会見に、損害賠償に資産の処分。行く先々で人に囲まれ、命すら狙われた。普通なら雲隠れでもするような状況だが、真面目な彼女は全てを真面目から受け止めた。その心労は想像を絶するものがあるだろう。
全ての資産を国に返却するとリオンが申し出るも、そのあまりに潔い姿勢に、温情の声も上がり、屋敷とランドール家霊園だけは処分されることはなかった。
「悪かったわね」
「何がでしょう?」
「あの男……いいえ父親のことよ。私は自分の父親を殺したと同時に、あなたの父親を殺したもの」
学院に残っていたミーナには全て事後報告となってしまった。彼女は父親の最期に立ち会うことも、最期の言葉を聞くこともできなかった。
「父上の死について……思うことはあります。ですが! そのことで姉様を恨むことなど絶対にありません!」
ミーナははっきりと言い切った。ジェノスについては全てリオンから詳細を聞かされた。未だに全てを消化することはできていないが、リオンの行いを責めることはなかった。
「そう……ありがとう。あなたにそう言ってもらえて救われたわ」
憔悴していたリオンの目に僅かに生気が戻る。
「姉様はこれからどうするおつもりですか?」
ミーナはリオンの去就を尋ねる。
「どうもしないわよ。あなたが卒業するまでは学院で教師を続けるわ。その後は1番隊に復帰かしらね」
元々1番隊所属のリオンは、教師としての職務が終われば1番隊へ帰隊する。1番隊本隊は北方の局地にあるため学院を離れれば、もう会うことも容易ではないだろう。
「そうだ。ミーナ、あなた進路はどうするの?」
騎士クラスは全員、王国騎士団入団を目指していたが、あんなことがあった後では進路を改める者がほとんどだろう。
「それは……」
ミーナは言い淀む。リオンは少し声を張り言った。
「ミーナ、アイギスに来なさい」
「アイギスですか?」
「ええ。私が推薦するわ。どこに配属されるかはわからないけど、あなたなら悪くない待遇で入隊できるわ」
アイギスは現在、世界一の規模を誇る治安維持組織だ。今回の一件でまた評価も上がった。軍属となるならこれ以上ない就職先だろう。何より、姉であるリオンもいる。
「姉様、ありがとうございます」
姉から「一緒に働かないか」という誘いは嬉しかった。
「ですが私は、もう進路を決めています」
リオンが目を見開く。断られるとは正直思っていなかったからだ。
「そ、そう。ならばどこへ?」
ミーナはゆっくり深呼吸してからリオンの目を見て答える。
「私は、王国騎士団へ入りたいと思っています」
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