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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
十八章 懺悔、そして
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221話 アイリスの気持ち

「コロナ……まさか……」


 出現した魔法陣からは、こぽこぽと黒い球体の固まりが浮かんでくる。そしてコロナの魔力が()()()()膨れ上がっていく。


「皆さん! 今すぐここから離れて下さい!」


 事態を察したシャロンが全員に退避するように指示を出す。しかしアイリスは状況が飲み込めず、その場に立ち尽くしていた。


「え……何を……?」


「お嬢様!! 何をやっているのです!? 早く!!」


 マリアが力一杯アイリスの腕を掴むが、アイリスはとっさに振り払う。


「お嬢様!?」


「何を……しようとしているんですか……?」


 アイリスは混乱した頭で尋ねた。


「自爆です。コロナ様はリリィ様やジーク様を殺めてしまった責任を取ろうとしているのです!」


「どうして……?」


「っ!? それが誠意なのです! さぁ早く!」


 マリアはさらに腕を引っ張る手に力を込めるが、アイリスはその場から離れようとしない。


「な、なぜ?」


 プロミネンスはよろよろとコロナのもとに歩いていく。


「なぜ母が死なねばならぬのですか? 私は……私は精霊界のために……」


 プロミネンスはリリィやジークを殺し、人間界で内戦を起こさせるため暗躍してしていた。しかし全ては精霊界の平穏のためだ。その行いのため、なぜ母親が死なねばならないのか。今のプロミネンスにはまだ理解できなかった。


「何か! 何か至らぬところがあったのなら私が仕置きを受けます! ですからどうか!!」


 プロミネンスは罪があるなら自分が被ると懇願する。


「プロミネンス!」


「これ以上はほんとにまずいぃ〜〜」


 ルギアとグリーンベルが、コロナに縋るプロミネンスを引き剝がそうとする。


「離せ!!」


 プロミネンスはふたりを振り解く。


「プロミネンスよ」


「は、母……」


「お前のしたことを咎めるつもりはない。ただ間違っていたのだ。いつの日か、そのことに気づくときが必ずくる。そのときはお前が、真の四大精霊として精霊界を正しい方向へ導くのだ」


 ユグドラシルが、プロミネンス達3人に巻きつき絡め取る。そしてコロナを見上げる。ふたりの目線が重なる。


「済まぬな、友よ」


「案ずるな」


 ユグドラシルはプロミネンス達を拘束したまま、器用に地面を這ってその場を離脱する。コロナの体は魔力を取り込み過ぎたためか少しずつ膨張を始める。

 もうこの場にはアイリスとマリアしかいない。


「お嬢様!! 本当に間に合わなくなりますよ!! 早く!!」


 マリアは目を見開いてアイリスを怒鳴りつける。いつもの彼女らしくないが、主人の命が掛かっているのだ。そんなことを気にしている場合ではない。


「お嬢様!!!」


 叫び声に近いマリアの言葉にもアイリスは動じることはなかった。ゆっくりとマリアを見る。そして――――


「マリア。この場を離れて下さい」


「だからそうしろとっ――――」


「マリア。これは命令です。下がって下さい」


「っ!?」


 アイリスは心底落ち着いた表情でマリアを見た。叫び声を上げながら、アイリスを引っ張るマリアが酷く幼く見えるほどだ。


「お嬢様……?」


「私なら大丈夫ですから。さあ早く」


 普段であればアイリスを気絶させてでも連れていくところだが、今のアイリスには有無を言わせない迫力があった。一瞬戸惑いを見せたが、マリアはアイリスの顔を一瞥してから走り出した。

 アイリスはゆっくりとコロナに近づく。


「馬鹿な……この魔術は我を内から爆ぜる魔法。近くにいては巻き込まれる……」


 コロナはアイリスの身を案じるが、アイリスは意に介さない。そして冷えた声で言う。


「じゃあ爆発を止めて下さい」


 努めて冷静な声だった。アイリスの言葉は四大精霊であるコロナでさえ圧を感じるほどだった。


「ならぬ。これは我のケジメなのだ。弑逆の罪を清算するには遠く及ばぬが、亡き姫に対するせめてもの償いだ」


「そういうのをやめろつってんですよ……」


 下を向き、独り言のように言った。静かだか明確な怒気が含まれていた。


「どちらにせよ、もう遅い。数え切れぬ我等の罪。どうかこのコロナの命でご容赦いただきたい」


 王殺し。弑逆の罪はどうやっても償い切れるものではないが、現精霊界のトップであるコロナを命を差し出すことは最大限の誠意だろう。だがアイリスの怒りは頂点に達する。

 大きく跳躍して、コロナの足元へ青き魔力を纏った拳を振り下ろす。


「だからすぐそうやって、殺すだ死ぬだのをやめろっつってんでしょうがぁぁ!!!!」


 アイリスの拳は、コロナの魔法陣を粉砕する。


「何を!?」


 しかしコロナは限界を超えて魔力を含み、いつ爆発してもおかしくないほどに膨張している。アイリスは、すかさずコロナの体を駆け上がる。


「でぇい!!」


 アイリスは下から思い切り、コロナの下顎を蹴り上げる。モロに受けたコロナの口は天高く上を向く。


「どっせいっ!!」


 そして魔力を溜めた渾身の右ストレートをコロナの土手っ腹に叩きこむ。爆発寸前の体は強力な衝撃を受け、断末魔を上げながら魔力を吐き出す。嘔吐の要領で天高く、体内に溜めた魔力を魔導砲を放つように吐き出していく。10秒ほど魔力を吐き出し続け、放出が終わると口から煙を吐き出し、ゆっくりと巨体が倒れていく。アイリスの力技による自爆回避だった。

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