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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第二章 入学二日目の激闘
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21話 火曜日の精霊 カルナ・ヘルゴール

 上に向けて激流のように昇る、突如現れた巨大な火柱は、直径2メートルを越え高さは10メートルはあり、まるで火山の噴火のようである。アルバーナの火炎放射はこの火柱にかき消されてしまった。


「な、なんだ!? 何が起こった!?」


 突然の出来事に狼狽えるジョージ。噴火のような火柱の激流はやがて流れが緩慢になり、登頂部は真っ赤な炎から闇のような黒いマグマに性質変化して、ドロドロと地面にたまっていく。地面に落ちた黒いマグマからは水蒸気のような闇が漂い始め、火柱のあった辺りを闇で覆っていく。赤い火柱は、黒いヘドロの闇へ溶けるように変化していきみるみる短くなる。

 そして地上150センチ。黒いマグマへとドロドロ溶けていく火柱の中から1人の少女が姿を現す。

 火曜日の精霊カルナ・ヘルゴール。アイリスと契約する上級精霊。外見は14歳くらいの幼さの残る少女だ。綺麗な黒髪をツインテールにしておりソフィアレッドと黒色のドレスを身に纏っている。人形のような可愛らしい顔立ちだがその目は怨讐(おんしゅう)の敵を見るように険しい。


「おい! なんだお前は!? 何者だ!?」


 人型の精霊であるカルナを見て、人間だと判断したジョージは取り乱しながらカルナに叫ぶ。しかしカルナは、ジョージの言葉に反応することなく一歩前に出る。

ジョージは狂気に染まるカルナの目を見て恐怖を感じたのか、一歩後退り立会人のヒカゲを見る。


「ぼ、妨害だ! これは試合の妨害行為だ!」


 助けを求めるようにヒカゲに訴える。ヒカゲは状況が飲み込めず即答できない様子だ。するとカルナが口を開く。


「私はカルナ。アイリスの契約精霊」


 必要最低限の説明だけ口にしてさらに一歩前に出る。カルナの発言にギャラリー達から動揺の声が沸く。


「ウソっ!? あの子精霊なの?」


「すげぇ……俺人型の精霊なんか初めて見た……」


 カルナやマリアなど「完全人型の精霊」はかなり珍しく、生徒達のほとんどが目にするのは初めてのようだ。ギャラリーの声にほとんど気を失っていたアイリスがなんとか体を起こしカルナに話しかける。


「カルナちゃん……出てきたんですか……まだお昼過ぎですよ……」


 弱々しくカルナに笑顔を向けるアイリス。「朝日が嫌い」と答えていたカルナ。明るい場所自体が苦手で、普段は日の高い内は闇に浸かり、アイリスの影に同化して付き従っていて滅多に出てくることはない。

アイリス自身がどのような状況にあっても無理に出てくる必要はない。アイリスなりのカルナへの精一杯の気遣いだった。

カルナはアイリスの方へ振り返り()()()表情で語りかける。


「お友達……アイリスは私のお友達なの……」


「えぇ……私はカルナちゃんのお友達ですよ……」


 囁くような小さな声で話すカルナ。カルナの言葉にアイリスも同じように返す。カルナは控えめに微笑み、ジョージの方へ向き返る。そしてまた険しい表情に戻る。


「人型の精霊だと……何者なんだあの女……」


 珍しい「完全人型」の精霊。さらに巨大な火柱と辺りを覆う黒いマグマの闇。そしてカルナの醸し出す異様なオーラ。 そんな精霊を使役するアイリスに、ジョージは動揺を隠せなかった。カルナはジョージの動揺などお構い無しに、カツカツと靴音を立てて一歩一歩距離を詰める。


「私はアイリスのお友達……」


「お友達の敵は……排除する」


 「排除する」1トーン低くなったカルナの声に先に動いたのはジョージだった。


「アルバーナ!!」


 アルバーナはカルナに向かい強力な火炎放射を放とうと口を開く。その瞬間だった。


「邪魔なの」


 カルナがアルバーナに向かって右手を突き出した瞬間、魔法陣がアルバーナの足元に展開され巨大な闇の沼が出現。一軒家程ある巨体のアルバーナを半分程沈める。


「馬鹿な……」


 一瞬で舞台の半分はある闇沼を発現させたカルナに、信じられないという声をだすジョージ。


「ギシャアアアーー!!」


 興奮しながら闇沼から這い上がろうとするアルバーナにカルナが追撃の魔法を仕掛ける。


闇薔薇の拘束鎖(ローズチェイン)


 闇沼から黒い有刺鉄線のような鎖が現れてアルバーナを拘束して再び闇沼に沈める。必死に足掻くアルバーナだったが、鎖についた刺が暴れるほど体に食い込んでいき苦悶の叫び声をあげる。


「アルバーナっ!?」


 自身の主戦力である炎竜を完全に拘束され敗戦を悟るジョージ。「降参だ!」そう宣言しようとした瞬間、舞台の数ヵ所からさらに火柱が上がる。轟音をあげる火柱はジョージの声を掻き消し、視覚的にもジョージを外界と(へだ)てる。


「降参なんてさせない……」


「地獄の苦しみをあなたに与えるの……」


「おいで闇の従属達(マイペット)


 カルナを覆う闇から5体の闇精霊が現れる。「騎士の鎧」「四足歩行の動物」「怪鳥」「胴体の丸いぬいぐるみ」そして巨大な顔に手だけついている「ヘドロの怪物」である。いずれも闇に覆われていて実体はよくわからない。


「あいつを殺してマイペット」


 さらりと恐ろしいことを口にするカルナ。アイリスを瀕死に追いやったジョージのことは完全に排除対象になっており、その方法は「殺害」らしい。

 5体の闇精霊はジョージを標的と捉え襲いかかる。その瞬間、アルバーナの火炎放射が5体中3体を襲う。主人を守ろうとした懸命の攻撃は、闇精霊にダメージを与えたのかヘドロ状になりゆっくりと再生していく。倒すには至らなかったが時間は稼げたようだ。


「邪魔しないで」


 カルナが付き出した右手をぐっと握るとアルバーナを捕らえた鎖がきつく絞まる。当然、鎖の刺はより深くアルバーナの肉体に突き刺さる。


「ギシャアアアーー!!」


 アルバーナは断末魔を上げて再び闇沼に沈んでいく。そして火炎放射を逃れた「騎士の鎧」と「四足歩行の動物」がジョージに襲いかかる。


「うおおおおっ!!!」


 半ばやけくそになったジョージが長剣を構え襲いくる「騎士の鎧」の刀を受け止め弾く。しかし「四足歩行の動物」の体当たりに突き飛ばされ舞台を無様に転がる。


「うっ……ぐ」


 取りこぼした長剣を「騎士の鎧」に弾き飛ばされる。咄嗟に魔法を放とうとするが、魔力が残っていないのか上手く発動できない。


「がっ……!」


 そして「四足歩行の動物」に後ろから襲いかかられ無様に前のめりに倒れる。奇しくも「騎士の鎧」の目の前に倒れたジョージは大きく振り上げられた刀が視界に入る。


「や、やめろーー!!」


 ジョージの叫びも空しく「騎士の鎧」の刀はジョージの首に向かい振り下ろされた。


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