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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十七章 繋がる過去
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217話 慢心

 3体全てに各々の会心の一撃が直撃する。


「ぐおおおっ!? 人間ごときに……ああああっ!!」


「うごぉ、あああああ〜!!!!」


「あああっ!!!」


 敵を侮り魔法を真正面から受け止めたプロミネンス達は、攻撃を受け止めきれず魔法に飲まれる。


「はあっー、はあっー」


 さすがのシャロンも息を切らしている。


「皆さんご無事ですか……?」


「ええ……なんとか……う」


 セシリアは頭を押さえながら膝をつく。


「おい! しっかりしろ!」


 セシリアはリオンとイレイナに支えられながら、ゆっくりとその場に横たわる。


魔力切れ(ロスト)を起こしている。たった一度で恐ろしい兵器だな……」


 シャロンに次ぐ実力者であるセシリアを発射のコントロールだけで魔力切れ(ロスト)に追い込んだパンドラ。だが、それだけの威力は発揮してくれた。


「のあああっ〜!?」


 アイリスが悲鳴を上げる。


「つ、杖がぁ……」


 アイリスの杖は持ち手の10センチ程を残して、燃えカスになっていた。


「恐らく発動した魔法の威力に杖が耐えられなかったのでしょう」  


「な、なんとぉ……」


 アイリスは精霊と力を合わせたとはいえ、杖を破壊するほどの威力に驚く。


「おや?」


 アイリスは異変に気づく。空から小さな固まりが3つ落下してきた。



「がはっ!」「ぐうっ!」「ぬあっ!」


 プロミネンス達だ。魔法に飲まれる瞬間、体を人間ベースに戻し、被弾する範囲を小さくした。しかしダメージは甚大だ。


「やってくれたな……人間風情が……」


 プロミネンスは何とか立ち上がりアイリス達に悪態をつく。


「ちいっ! アレを食らってまだ立ち上がる余力があるのか……」


 ルイスがアイリスを庇うように前に出る。プロミネンス達にはまだ戦意があった。重症と言えるだけのダメージは与えたが、こちらは魔力切れ(ロスト)を起こしたセシリアを始め、ほとんどの者が魔力を使い切っている。シャロンでさえ魔力は残り少ない。まだ戦況を覆したとは言えない状況だ。


「楽しくなってきたな、おい。さぁ続きを始めようか」


 プロミネンスの体も限界だったが、内に秘めた何かが彼女を動かしていた。


「ああああっ!!」


 ボロボロの体でプロミネンスが突っ込んでくる。


高重力圧(ハイグラビティ)


「ぐがああぁぁぁ……」


 シャロンの重力魔法でプロミネンスは地面に引き寄せられるように倒れ、めり込んでいく。


「プロミネンス!?」


「体が……」


「もうお止めなさい。今の貴女では私達には勝てません」


「ぬかせ……我等は四大精霊……神であるぞ!」


 重力魔法に掛かり、指ひとつ動かせないプロミネンスだったが、高圧的な態度は変わらない。


「ぐがががが……ああああ!!」


 プロミネンスはシャロンの重力魔法を力技で抜け出そうとする。


「…………」


「うっ! お……お……のれ……」


 さらに負荷をかけられてプロミネンスは気を失う。


「ぐっ!」


「ぬぬぬ〜」


 ルギアとグリーンベルがプロミネンスの前に立つ。彼女らも重症で余力はなさそうだ。


「まさか人間に敗れるなんて……」


 ルギアは解せない様子で呟く。神を自称する自分達が人間や下位の精霊に敗れた事実に納得できない様子だ。


「本気でやったはずなのにぃ〜」


 どうやら自分達が敗北するとは夢にも思わなかったようだ。


「本気で戦っただと?」


 ルイスがルギア達に一歩詰め寄る。


「?」


()()()()()()でよく言えますね」


 マリアも一歩詰め寄り、しゃがみ込んでいるルギア達に冷たい視線を浴びせる。


「……? ……?」


 グリーンベルはマリア達が何を言っているのか理解できなかった。


「お前達、何が言いたい?」


 ルギアも不思議に思い尋ねる。


「お前達……ひょっとして何で負けたのか、わかっていないの?」


 カルナはズカズカと歩き、プロミネンスを踏みつける。


「寝てないで起きるの」


「貴様! うがっ!」


 襲いかかるルギアをひらりと躱し、上から膝蹴りを入れる。


「ボロボロのお前達なんか怖くないの」


「う……」


 カルナに踏まれ、プロミネンスが意識を取り戻す。


「き、貴様ら……」


 精一杯、強気な態度を取ろうとするプロミネンスだが、もはや体が思うように動かない。


「はぁ……貴女達……まだわからないのですか? 自分達がなぜ敗れたのか……」


「は?」


 プロミネンスは間抜けな声を出す。ルギアとグリーンベルも面食らったような表情だ。負けたのは自分達の想定を上回る相手の実力だ。当初は舐めてかかったのは事実だが、真の姿を解放して全力で戦った。油断は確かにあったが、実力で負けたのは間違いなかった。


「本当に分かっていないようだな……」


 ため息を吐き、ルイスは呆れたような顔をする。


「お前達、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「はあ?」


 プロミネンスはルイスの質問の意味が理解できなかった。


「何を言っている?」


「いいから答えてみろ」


「…………」


 プロミネンスを過去を思い返す。ジェノスと出会った頃から精霊界へは戻っていない。


「10年……と少しか……」


 その言葉を聞き、精霊達は皆呆れたような顔をする。話を聞いていたシャロンも得心がいったように頷く。


「馬鹿が……それだけの長期間、人間界へ留まれば力は著しく衰える」


「何?」


「自覚はないようだが、精霊界へ帰らなければお前達の魔力は日々消耗していく。10年以上もいたなら尚更だ」


「我等は神だぞ? 高々10余年程度で」


「では何故リリィ様は殺された?」


「なんだと?」


「騎士団の手練とはいえ、精霊界を統べる王であったリリィ様が人間ひとりに殺されたのは何故だ? 精霊界を追放されて人間界に居着いたせいだ。精霊王であっても魔力を消耗していくんだ。それ以下であるお前達が弱体化するのは当然の帰結だな」


(まあアイリスを生んだせいでもあるがな……)


「人間界へ留まったせいで、我等が弱くなっただと!?」


「ああ。まともにやれば、少なくとも俺達に敗れるようなことはなかっただろう」


「小僧の言う通りだ。コロナ達の強さは、今の主等の比ではない」


 精霊界の住人は、人間界に留まり続ければ魔力を消費し、消耗していく。そんなことは当然知っている。だが、プロミネンス達は最高位の存在である自分達に、戦いの勝敗を分けるほどの影響があるとは思ってもみなかった。


「慢心。それが主等の敗因だ」

 

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