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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十七章 繋がる過去
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214話 最終局面へ

「色々と辛かっただろう……」


 優しさと悲しさの入り混じった目でイレイナを見る。


「いや……あの」


「こい」  


 ジーナはイレイナをその胸に抱き寄せる。


「あの……わ、私はもうそんな歳じゃ……」


 イレイナは恥ずかしさもあり、少し間抵抗を見せるが次第に大人しくなり母の胸に収まる。


「あの……」


「いいから」


 ジーナはぶっきらぼうに言うと、器用に片手で煙草に火をつける。

 ホムンクルスとはいえ体温はある。母の温かさと懐かしい煙草の匂い。イレイナの目からは自然と涙が流れ始めた。


「う……ぐ……」


 その涙はまるで、長年の苦労でできた、目の隈を洗い流しているみたいだった。しかし、そんな親子の時間はすぐに終わる。


「お取り込み中、失礼するよ」


「ヒカゲか?」


 闇使いヒカゲは地中からヌルりと姿を現す。警戒するイレイナに、ジーナが仕草で仲間だと伝える。


「どうやら騎士団本部の戦況が怪しいらしい。学院長代理が呼んでいる。フランベル、君も来てくれ」


 学院の中庭には、シャルロットの他に主だった者達が集合していた。


「集まったようだね。ではあちらの戦況を伝えよう」


 シャルロットは魔術で王都側の情報を掴んでいるようだ。


「まず残念だが、我がアイギス8番隊は壊滅状態のようだ」


「あの……」


「うん?」


 騎士団からの増援、ランドール小隊のフラーが恐る恐る質問する。


「それは騎士団と戦闘があったということでしょうか?」


「いや、アイギスと騎士団は剣を交えてはいない。損害は全て魔族との交戦によるものだ」


「魔族と……」


「うむ。王都に数箇所出現した魔族の大軍を、席官率いる各部隊が迎撃した。この戦闘で、我が8番隊は大打撃を負ったようだね。4席のブラッド率いる部隊が最も被害が酷く、全滅も有り得る事態だったが、騎士団大将の援護により無事に敵を撃退した」


「騎士団大将……クレア様が!?」


 イレイナはクレアの参戦を知り、驚きを隠せなかった。


「イレイナお前、クレアを知っているのか?」


 ジーナは旧友クレアのことを尋ねる。


「知っているも何も、私の直属の上官です……え? クレア様をご存知なのですか?」


 ジーナとクレアの関係を知らないイレイナは質問に質問で返す。


「旧友……いや悪友だな……」


 ジーナは嬉しそうに笑う。全てを理解したようだ。


「あ〜話を続けていいかな?」


「失礼した」


「魔族掃討後は騎士団団員の協力もあり、王都に被害はほとんどない。ただ騎士団本部でマスター……8番隊隊長、以下数名が敵と交戦中だ。ただちに援軍を送る必要がある」


「敵は騎士団元帥かな?」


 ヒカゲの問いにシャルロットは険しい顔をする。


「いや、敵は人間ではない」 


「まさか魔族? いやしかし彼女に倒せない魔族なんか……」


「敵は精霊だよ」


「「「「……っ!?」」」」


 その場にいた全員が理解できなかった。


「ちょっと待ってくれ! 元帥は!? 騎士団元帥は何をしているんだ!? 本部に全員いるはずだ!」


 イレイナは大声を出す。大将であるクレアが戦いに加わっている以上は、最高戦力である元帥も参戦していなければおかしいからだ。


「あー……私もにわかには信じられないのだが……」


 シャルロットは珍しく歯切れが悪かった。


「その元帥がどうやら精霊だったようだ」


「意味がわからん……どういうことだ?」


「精霊……それも上級精霊を遥かに凌ぐようだが、その精霊が元帥、つまり人間に擬態していたようだ」


 その場にいた者達は絶句する。特に騎士団の人間はかなり混乱している。


「向こうの状況は以上だ。それで学院にある魔力兵器をあちらに送りたい。君達にはその手助けをしてほしい」


「具体的には何を?」


 ヒカゲがいち早く状況を飲み込む。


「まずこちら側で魔力を使い、転送魔術を発動させる者だ。魔力が強い者が数人はほしい」


 シャルロットは結界維持で魔力を消耗しているので除外された。さらにアリューシアとマハードも重症のため外された。また生徒ではアリスがずば抜けて魔力が高かったが魔力切れ(ロスト)を起こしているため見送られた。そのため選ばれたのはまず、ホムンクルスのヒカゲとジーナ、そしてエヴァンレッジ学生隊の部隊長、さらに学院教師のモリーだ。


「うむ。起動にはかなり魔力を使うが、人数が多ければいいというものではないからねぇ」  


 そしてパンドラと共に現地に乗り込む人員は、戦闘力の高いセシリアと騎士団に顔が利くイレイナが選ばれた。


「まあこんなところだろう。では――」


「待ってくれ!」


 腕を押さえながら現れたのはリオンだった。腕に巻かれた包帯からは赤い血が滲んでいる。


「何かな?」


「王都へ向かう人員に、私も加えていただきたい」


「ふ、む。しかしだねぇ……君は戦いで疲弊して、軽くはない怪我もしている。無理についていっても何もできまい」


 全快のリオンならば戦力になるが、今の彼女は手負いの上、魔力も消費している。シャルロットの中で彼女は負傷者の扱いだった。


「此度の騒動……全ての元凶はジェノス・ランドール。父親のせいであると聞き及んでいます」


「こいつランドールの娘なのか?」


「ええ……」


 ジーナはジェノスの娘であるリオンを興味深く見る。


「同じランドール家の人間として、何より娘として、私は始末をつけねばなりません。どうか同行させて下さい」


 リオンはシャルロットに深々と頭を下げる。


「うぅ〜む……」


 人間の感情に疎いシャルロットは難色を示す。しかし――――


「わかりました。一緒に参りましょう。ですが――――」


 修羅場に飛び込む以上、命の保証ないとセシリアは目で訴える。リオンもセシリアの目線に、力強く頷く。

 戦いの最終局面が始まった。 


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