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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十七章 繋がる過去
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210話 もう一方の正義

「手を組む?」


「その通りだ。お前は、追放されたとはいえ姫の子だからな」 


「どの口が言っているのですか!?」


 ジェノスを唆しリリィを殺害させた張本人が、今度は娘のアイリスと手を組むと言い出す。あまりに身勝手な発言にマリアは怒りが抑えられなかった。


「月の魔法! ――――うぐっ!?」


「マリア!!」


「邪魔をするな上級精霊。今は姫の子と話しているのだ」


「う……ぐ……」


 プロミネンスは片手でマリアの首を掴み宙吊りにする。


「マリアを離しやがれですよ!!」


「おっと」


 プロミネンスはマリアを開放し、アイリスの拳を避ける。


「マリア!? 大丈夫ですか?」


「ゴホッゴホッ……申し訳ありませんお嬢様」


 プロミネンスはふたりと少し距離を取り、そしてアイリスを注意深く観察しながら話し始める。


「姫の子……アイリスと言ったな?」


「ええ」


「もう一度言おう。我等と手を組まないか?」


「私も一緒に人間界を潰せと?」


「簡単に言うとな。だが勘違いするな、別に人間を全滅させようと言うわけではない」


「?」


「我等は人間に扮し、長く人間界を見てきた。そして学んだのだ。人間も様々だとな。全てが我等精霊に仇なす存在ではない」


「滅ぼすのは悪い人だけだと?」


「正しくは我等に仇なす人間共だな。まずは人間共に内戦を起こさせ、数を減らす。そして我等の力で人間界を蹂躙する。蹂躙と言っても無差別ではない。我等に歯向かう阿呆共だけだ。そして我等に友好的な者、従順な者は生かす」  


 当初、プロミネンス達は裏切り者のリリィを始末した後は、人間界で内戦を起こした後、人間界を殲滅する予定だった。しかし長く人間界で生活する内に考えを改めたようだ。


「そして我等精霊は人間共の上に立つ。これこそが我等の最たる目的だ」


「精霊が人間の上に立つ……」


「そうだ。人間と契約を結ぶ我等は、本来なら人間と対等な関係だ。しかし人間(やつら)は精霊を自身の所有物、道具として扱うようになった。中には兵器に近い扱いを受けた精霊もいる。だから我等は教えてやらねばならない。精霊こそ人間を使役する存在だとな」


「……」


 アイリスはユグドラシルの話で精霊を()()()()使()()()をする人間がいると知った。だが、精霊の立場になってそうしたことを考えたことはなかった。


「そこまでですよ」


 話を遮るようにシャロンが現れる。


「ジェノス・ランドールの記憶を見て全てわかりました。リリィ・アンフィールド、ジーク・アンフィールド、そして王国騎士団上層部による謀反。全て貴女方の仕業だと」


「コソコソ何かしていると思っていたが、記憶を覗いていたのか」


「ええ。無論、目的を知ったからには見逃すわけにはいきません」


「まあ、人間の立場からすればそうなるだろうな」


 プロミネンスは冷ややかな目でシャロンを見る。アイリスとは違い、シャロンからは理解を得ようとは思っていないらしい。


「アイリスさん。下がっていて下さい。彼女は私がやります」


「言葉には気をつけろよ人間。まるで貴様ごときが私をどうにかできるように聞こえるぞ」


「さあ、どうでしょうか」


 杖を取り出し、シャロンは薄く笑う。間髪入れず両者共に強力魔法を放つ。


「お嬢様! ここはあの方に任せて我々はルイス達の援護に!」


「ええ!」



 残るふたりの四大精霊も一方的な展開を繰り広げていた。ユグドラシルは、水を司るルギアが。ルイスやカルナ達は、風を司るグリーンベルがそれぞれ相対していた。



「ユグドラシル……核がなければこんなもの?」


「くっ……主等……力をつけたな」


「確かに私達は強くなった。でもそれ以上にお前が弱くなった」


 ルギアは抑揚のない声で、そう言い放ち、追い打ちをかける。ユグドラシルは完全に防戦一方となってしまう。しかし、ルイス達はさらに戦況が悪かった。



「そお〜れぇ〜」


 グリーンベルは手が隠れた長い袖を振り、トルネードを発生させる。細く強力なトルネードは壁や床に簡単に穴を空ける。


(クソ……間抜けそうな面とは反対に、なんと暴力的な魔法だ。あれでは近づけん……)


配合魔法(ドイスブレンド) 幽鬼の奏鳴曲(ソナタ・ゴースト)


 死角からカルナの反撃。


「う〜わぁ〜くるな〜」


 グリーンベルは強力な突風を発生させ、カルナの魔法を跳ね返す。


「冗談なのっ!?」   


 跳ね返された魔法を転げ回るように回避する。鉄よりも硬いルイスの樹木魔法に穴を開け、カルナの強力魔法を跳ね返す。言ってしまえばたかが「風」だ。しかしその最もシンプルな物理攻撃に上級精霊は手も足も出ない。


「こぉれが神のちから〜 んん?」


 エレノラの結界魔法でグリーンベルを囲む。


「なぁんだぁ〜これぇ〜?」 


「今だ! 足元の魔法陣に!」


配合魔法(ドイスブレンド) 灼熱の闇光線(ファイイレザーガン)!」


呼応する種(ポン・シード)


 魔法陣へ放った魔法は、グリーンベルがいる結界の中へ繋がっていた。逃げ場のないグリーンベルに攻撃は直撃する。


「カルナふたり分の威力だ。ただでは済まないだろう」


「出てきたらとどめを刺すの」   


「さすがにこの程度じゃ死なないだろうしね」


 煙が晴れると、繭のようにグリーンベルの周りを可視化できる風が舞っていた。


「ちょぉ〜と痛かったぁ〜」


 ダメージはあるようだが、想定していた程の傷は与えることはできなかったようだ。


「冗談だろう……」


 エレノラの発言が3人の総意だった。


「今度はぁ〜こちらからいくよぉ〜」


 グリーンベルがルイス達に襲いかかる。そんな3人を瓦礫に隠れて見守っている精霊がいた。


「う……うえ……」


 半べそをかきながら戦況を見つめるのは水曜日の精霊ベルだった。

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