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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十七章 繋がる過去
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201話 張りぼての四大精霊

 襲い来るプロミネンスに対して、すぐさまユグドラシルが反撃に出る。体を捻り、尾をぶつけるように振り回す。質量を活かした強力な物理攻撃だ。しっかりと3人を捉え、数メートルは吹き飛ばす。


「ちぃ……邪魔をするな! ユグドラシル!」


 圧倒的な力を持つプロミネンス達にとって四大精霊ユグドラシルは唯一の格上の存在だった。


「姫の子とは言え、人間に仕えるとは堕ちたなユグドラシル。どうだ? 今一度、我等に協力するなら貴様が精霊界に戻られるように母達に取り計らってやってもよいぞ?」


 プロミネンスは、唯一の脅威を味方に取り込もうとする。


「笑止なことを……もう精霊界に未練はない。それに今の我は名もなき契約精霊だ」


「なるほど、やはり裏切り者はどこまでいっても裏切り者というわけか。ならば覚悟しろ、貴様の命は今日限りだ!」


「姫達は下がっておれ」


 3方向に別れて、ユグドラシルを挟撃する四大精霊達。アイリスの見たことないような最上位の魔法が飛び交い始めた。大広間は数百人をゆうに収容できるだけのスペースがあり、天井も高くユグドラシルの巨体でも余裕を持って戦うことができる。しかし――――


「おのれ……ちょこまかと」


「ぐっ!」


 ルギアの攻撃が直撃する。畳み掛けるようにプロミネンスとグリーンベルが追撃の魔法を放つ。


「ぐおぉー!!」


 ズシンと地響きを鳴らしながらユグドラシルが横たわる。


「ぐ……おのれ……」


 すぐに首を持ち上げるがダメージは大きい。


「ふ……ふふふ……ふははははは!!」


 プロミネンスが高笑いをあげる。


「どうした!? まさかその程度かユグドラシル! 伝説と謳われた力を見せてみろ!」


 プロミネンスはひとしきり笑った後、にやりと下品な笑顔を浮かべる。


「貴様、核を破壊されているな?」


「……」


「精霊界を追放された際に、母達から相当な仕打ちを受けたと聞いていたが、まさか生命の源なる核を破壊されていたとわな」


「不味い!」


 ルイスがユグドラシルの前に立つ。


「小僧よせ」


「ここで貴方を見殺しにはできない」


「同感ですね。我等、契約精霊は一蓮托生」


「はいです〜」


「受けた屈辱は倍にして返すの……」


「と、言うわけだ。姫もいいよね?」


「もちろんです! カルナちゃんをぶっ飛ばした礼はさせてもらいますよ」


 ユグドラシルに加えてアイリス、そして契約精霊揃い踏みで四大精霊に挑む。だが、シャロンはその戦いの輪に加わることはなかった。



「なんだ……?」


 シャロンはジークフリードに守られながら、大広間の端で横になるジェノスの横にしゃがみ込む。


「少し、頭の中を覗かせてもらいますよ」


「何を!?」


 シャロンが杖を取り出すとジークフリードは彼女の腕を掴む。


「ジークフリード、構わない」


「……」


 ジークフリードは納得いかない様子で彼女の腕を解放する。


「私は洗脳されている……そう言ったな?」


「はい。間違いなく何らかの影響下にあると思います」


「……私自身、違和感はずっとあった。奴らを手懐けたつもりだったが、逆に利用されていたわけか……」


「時間がありません。早急に彼女達を抑えなくては、被害は甚大なものになるでしょう」


「君は……私の洗脳を解くことができるのか?」


「約束はできません。ですが可能性はあります」


「……なら好きにしたまえ。今更隠し立てするようなことは何もない」


「では失礼致します 記憶の捜索(メモリー・ダイブ)



 シャロンはジェノスの記憶の中に潜る。彼の幼少期から順に記憶を旅していく。真っ暗闇の中に無数のスクリーンがあり、ひとつひとつが彼の人生を映していた。



『やあ、僕はジェノス・ランドールだ。君は――――』


『凄い……いや凄すぎる!! ジーク! 君の剣なら世界を変えることができる!!』


 16歳の記憶。ジェノスとジークが出会った頃だ。


『父上……あまり領民から搾り取るような政策は民から反感を……』


『何が正義の騎士団だ……裏で札束合戦じゃないか……こんな組織、僕が変えてやる。いや変えなければならない!』


『魔法クラスに転科する!? 正気かい? 君の剣は将来どれだけの人を救えると――――』


 17歳の記憶。騎士団の現状、そして友との仲違いに苦しんでいた時期だ。


『あの女がジークを誑かした魔女か。あの魔女さえいなけばジークは――――』


 18歳の記憶。リリィの存在を知り、彼女に対して明確な悪意を抱いた時期だ。


(この辺りでしょうか……)


 シャロンは18歳前後の記憶を重点的に探る。他者からの介入があれば、何らかの痕跡が残る。しかしいくら探してもそれらしいものは見つからなかった。


『ジークはやはり彼女と生きる道を選んだか。仕方ないジークにはジークの人生がある。騎士団は僕自身の力で変えればいい。明日の卒業式では彼に手を差し出そう』


 リリィに対して、敵意を抱いたジェノスだったが、自分自身で消化して最後は友好的な感情を持っていた。


(ここじゃない……もっと未来か)


 シャロンは記憶の旅を進める。そしてついに見つける。学院卒業から数年後。二十代の記憶だった。それはジェノスとジークが数年振りに再会した日のことだった。

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