1話 アイリス・アンフィールド
「ん〜……」
日記を書き終えて背伸びをするアイリス。
「さて、これくらいにしますかね」
ちらっと時計を確認する。時刻は23時42分。もうすぐ日付、そして曜日が変わる。
アイリスは日記帳を閉じて新品のベッドに飛び込む。
「やっぱり奮発して正解でしたね〜」
布団に頬擦りしながら、新しい寝具の感触を確かめる。アイリス自身は決して「枕が変わると眠れない」などと言う繊細な人間ではないが、大好きな睡眠に対して妥協はしなかった。
家具屋で一番いい寝具を迷わず購入した。値札も見ない即断即決に、財布を預かるメイドのマリアからは、少々ゴミを見るような目で見られた気もするが気にしないでおこう。
「さすが……新しい……お布団……」
「……zzz」
数分も経たない内に寝息をたて始める。実に寝付きのいい女だ。仮に床に藁を敷いただけの寝具でも十分寝ることができそうだ。
そして日付が変わる前に、アイリスは夢の世界に旅立っていった。
――――アイリスの日記――――
「今日は貴重な日曜日でしたが、お引越しに1日を費やすことになりました。大都会育ちの箱入りアイリスちゃんが、少々辺鄙な片田舎でやっていけるか心配ですが、みんながいるので大丈夫だと思います! それから入学の決まった王立魔法魔術学院は、なんとなんと首席で合格しちゃいました! 天才の娘を持って、さぞ誇らしいことでしょう! 声を大にして存分に褒め称えて下さいね! それではお父さん、お母さん、なかなか会えなくなると思いますがまたいつかの日曜日にお会いしましょう。愛を込めてアイリス・アンフィールド」
日記というよりは手紙に近い文体。まあ日記も人それぞれなので触れないでおこう。
この日アイリス・アンフィールドは生家のある大都市から、入学の決まった王立魔法魔術学院へ通うために引っ越してきた。
「王立」とあるが、実際の学校の所在地は王都から鉄道列車で1時間程かかる山々に囲まれた場所だ。
この王立魔法魔術学院は、数ある魔法系の学校でも選ばれた人間しか通えない名門である。実際卒業できた者は、名だたる企業や軍職に就いており「名門」の名に偽りはない。
アイリス曰く首席合格。事実であれば、彼女の優秀さは言うまでもないだろう。彼女は自身の夢である「毎日を日曜日にする」ために、まずこの王立魔法魔術学院の卒業を目指すことになる。
自称天才精霊術師。純白の髪を持つ、元気溌剌の美少女アイリス・アンフィールドの物語が幕を開ける。
そして時刻は0時を回り月曜日になる。ぐっすり眠るアイリスの寝室の横、キッチンのあるリビングが眩い光に包まれる。徐々に収束していく光の中心に、ストンと月曜日の精霊が召喚された。




