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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十六章 それぞれの正義
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188話 ジークフリードの正体

 王都。騎士団本部。


 水蒸気爆発による煙が立ち込めていた大広間だったが、徐々に視界が戻ってくる。その中でひとりの男が立ち上がる。


「ふ、ふふふ……相討ち覚悟の大爆発か……だが……」


 立ち上がったのはジェノス・ランドールだった。無傷とはいかないものの深刻なダメージはなかった。


「御三方、怪我はありませんか?」


 ジェノスはナザリック元帥達に声をかける。彼らを守る結界は健在で、ナザリックはジェノスに対して問題ないと軽く手を上げた。





「今ので駄目なのか……」


 エレノラを始め、精霊達も続々に立ち上がる。アイリスも無事のようだ。


「ほお?」


 ジェノスは6人の体を見る。みるみるうちに傷が塞がり回復していく。


「直前回復魔法か。隊長さんの魔法だね。思っていたより色々と仕込んできたみたいで、こちらとしては楽しいよ」


「わりととっておきだったんですけどね。そっちはどんな魔法を使ったんですか?」


 アイリスの質問に、ジェノスはにっこりと笑い剣を抜く。


「魔法は特に使っていないよ」


「剣術です。お嬢様」


「剣術?」


「ほお、君はよく見ていたようだね」


「魔法が当たる直前、凄まじい速度で回転して私の拘束魔法を捩じ切り、爆発をいなしたようですね」


「いい洞察力だね。ランドールの剣は代々、回転を軸としたものなんだよ。舞うような優雅な剣技こそ我が一族の真骨頂だ」


「なるほど。貴族の地位と政治力のみで元帥の椅子に座ったわけではなさそうですね」


「先生!?」


 シャロンが大広間に戻ってきた。ゆっくりと歩き、アイリス達の隣にくる。


「そうか、ジークフリードは敗れたようだね。()では駄目だったか」


「さて、貴方の懐刀は倒しました。まだやるおつもりですか?」


「完璧な対魔法装甲を施したジークフリードがやられるとは。さすがは大魔導、一筋縄ではいかない」


 ジェノスは変わらず穏やかな口調だったが、シャロンは警戒レベルを上げる。この余裕の裏には何かあるはずだと。特にこれまで傍観しているだけの元帥を用心する。

 だが、ジェノスの口からは予想外の言葉が出た。


「ジークフリード」


「はっ」


 ジェノスの声に反応して、柱の影から姿を現したのは先程倒したはずのジークフリードだった。


「…………」


 シャロンは動揺を理性で抑えて、ジークフリードを注視する。


「え? あの人、シャロン先生が倒したんじゃ……」


「…………」


 シャロンは先程倒したジークフリードの手応えのなさに得心がいった。20代の若さで元帥の地位に就き、剣聖と呼ばれる天才的な剣技を持つ騎士団誕生以来の最高傑作。それが大魔導であるシャロンを相手取ったとはいえ、あの体たらくはあまりに不自然だった。

 だが、それにはカラクリがあった。


「ホムンクルスですか……」


「いかにも。私はランドール元帥に創造された人工生命体です」


「では先程倒した貴方は……」


「あれは失敗作だよ。君用に対魔法装甲を施したはいいが、他の能力がイマイチでね」


「なるほど。ではここにいる彼がオリジナルですか?」


「その通りだ」


 ジークフリードが鯉口を切ると、シャロンは反射的に後方へ下がる。そして炎の広域魔法で目眩ましをする。ジークフリードは剣技で炎を薙ぎ払い、シャロンに近接戦を仕掛けていく。先程のジークフリードとは違い、魔法は有効のようだが、身体能力が桁違いだった。シャロンは距離を取りながら、手数でジークフリードに反撃する。

 大魔導と剣聖による激戦の第二幕が始まった。



「彼女が心配なら加勢にいっても構わないよ?」


「いいえ、先生はあんな優男に負けたりしませんから。それに私達はあなたをぶっ倒す役目がありますからね」


「私を倒す意味もじきなくなる。もうすぐ君達の味方は全滅するからね」


 ジェノスは魔法陣から巨大な水晶を取り出す。そこには各地の戦場が映し出されていた。









 騎士団本部庭園



「オオオッ――――!!」


 8番隊第4席のブラッドは、直属の部下達と庭園で孤軍奮闘していた。


「魔法障壁を崩すな! 雪崩込まれたら終わりだぞ!」


 部下達に細かに指示を出しながら、自身も最前線で一番多く剣を振るう。既に半数近くの仲間が倒れてしまった。


(やはり……ここに召喚された魔族は市街地へ向かう様子がない。俺達を殲滅させることだけが目的か)


「ぐあっ!?」


 部下のひとりが魔族にやられた。ブラッドは敵を斬り分け、部下のもとへ向かう。


「らあっ!!」


 止めを刺そうとした魔族を逆に斬りつける。


「ナイルズしっかりしろ!」


 ナイルズの首根っこを掴み後方へ投げる。その隙にあっという間にブラッドは中級魔族に囲まれる。


「ブラッドさん! 伏せて!」


 その声に反応してブラッドは這いつくばるように地面に伏せる。


「魔導弾! てぇぇぇーーーー!!!!」


 味方の援護により敵はブラッドを囲んでいた中級魔族は一掃される。


「今だ、いくぞ! ブラッドさんを援護しろ!」


 魔導弾の威力で敵が怯んだ隙に、魔法障壁で作った本隊はさらに前進する。

 ブラッド達は魔族の狙いが自分達だと気づくと魔法障壁で本陣を作り、その陣地を軸に文字通り一進一退の攻防を見せる。優勢なときは歩兵が切り込み前進して、劣勢になれば魔法障壁より後ろに後退して、遠距離魔法で拮抗を保つ。魔族の大軍にも少人数で五分の戦いを見せていたが、徐々に人数が減り雲行きが怪しくなってきた。


「退け! 退け!」


 またも劣勢になり、本陣まで撤退する。


「くそ! あと何体いるんだ!」


「ブラッドさん! あれを!」


 下を向き愚痴をこぼしたブラッドだったが部下の声で顔を上げる。


「なんだ……あれは……」


 そこには見たことない異様な光景が映し出されていた。大型の中級魔族同士が何体も体をぶつけ合う。体を潰しながらぶつかり合っているので、一見すると仲間割れに見える。だがすぐに違いに気づく。潰れた体同士が融合してさらに巨大な生命体に変化していく。


「変異種か……」


 一般的に下級、中級、上級と分けられる魔族だが、そのどれにも属さない特殊なタイプも存在していた。ただ魔族同士が融合して誕生するとは知らなかったブラッドはその光景を黙って見ているしかなかった。

 中級魔族の融合した変異種は全部で3体出来上がった。体長は数メートルはあり細長い下半身に、手はなく頭部は巨大な円になっている。記号のΛ(ラムダ)にドーナツ状の円形が乗っかったような奇妙な形だ。


「おい、あれは何だ?」


 中央の変異種、円の中心に魔力が溜まり始まる。中級魔族のときとは比較にならない魔力だった。


「魔導弾……いや魔導砲を撃つ気か!!」


 隊員の一言で部隊全員に動揺が走る。


「あんなもの……防げるわけないだろ……」


 溢れた一言は皆の総意だった。席官のブラッドでさえ同じことを思った。だが――――――――



『ブラッド、後は任せました』



 その一言を思い出し、ブラッドは本陣より一歩前に出る。


「お前達は目一杯魔法障壁を強く張れ」


「あの……ブラッドさんは?」


 ブラッドはその問いには答えず、変異種に向かって剣を構えた。

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