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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十五章 開戦
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180話 対峙する巨頭

 王姉妹が木箱を開けると、魔法瓶が大量に入っていた。


「何それ?」


「回復薬かなにか?」


 魔法クラスの生徒達が魔法瓶の中身について尋ねる。


「これはですね――――」


 メイメイが中身について説明しようとすると、恰幅の良い中年女性が王姉妹と同じ木箱を担ぎドスドスと歩いてくる。魔法薬と薬草学を担当するモーリーだ。


「師匠!」


 王姉妹はこのモーリーを師として仰いでいた。


「特製の魔法薬だよ! さっさとお飲み!」


 モーリーは自身が持っていた木箱から魔法瓶を次々と生徒達に投げる。


「特製と仰っていましたが、一体どのような効能があるのですか?」


 イサミはラベルや説明書きの一切ない裸の瓶をまじまじと眺める。受け取ったはいいが、すぐに口にしない生徒達にモーリーは早口で効果を説明していく。


「よくお聞き。この魔法薬は飲めば、魔力増強に加えて使用魔力減、おまけに肉体活性化で身体能力向上、疲労減、治癒能力の向上までできる優れ物だよ!」


 効果だけ聞くと素晴らしいが、この手の劇薬にはリスクは付き物だ。


「絶対ヤバい副作用あるでしょ、コレ」


 アリスは絶対的な効果を持つ魔法薬を怪しむ。


「そりゃそうさ! こういった魔法薬に副作用は付き物に決まってる! なーに、魔力切れ(ロスト)状態がしばらく続くだけさ! 大したことないだろう?」


 にっこり笑顔を見せるモーリー。しかし生徒達の顔は引きつっていた。


「しばらくってどのくらいなの?」


「そうだねぇ〜1週間から10日くらいかね」


魔力切れ(ロスト)が1週間……」


 魔力切れ(ロスト)を起こした体の状態は高熱が出ているときの体調に近い。頭痛、全身倦怠感、疲労感と起き上がるのも億劫な状態だ。通常は数時間、睡眠や休息を取ればある程度症状が改善され2日程で全快する。

 しかしそれが1週間以上続くとなれば、堪ったものではないが死ぬよりマシと割り切り、生徒達は一気に魔法薬を飲み干す。


「15分もすれば効き始めるだろう。効果は半日くらいかねぇ……」


 半日。今からだと日没くらいまでは効果が持つようだ。既にアンデットとゴーレム、さらにアリューシアとマハードの活躍により100〜200体は倒している。あと半日あれば勝敗を決することができそうだ。

 戦況前半、学院防衛は最高の状態で戦いを進めていく。











 王都。騎士団本部。


「先生! しっかりして下さい!」


 アイリスがシャロンを揺さぶるも反応はない。


「ふむ……」


 シャロンに対して関心をなくしたのか、ジェノスは窓辺へ行き庭園の戦況を見る。


「さすがはアイギスだ。数だけの軍勢では押し切れないか。だが、種は蒔いている」


「よくも先生を!」


 アイリスが杖を構えると同時に、アイリスの首に剣が突き立てられる。ジークフリードの剣だ。


「う……ぐ……」


 神業のような速さでアイリスを牽制する。しかしジェノスが目で合図すると、ジークフリードは剣を引き鞘に納める。ジェノスにとってアイリスはどうでもいい存在のようだ。

 再びジェノスが外に目線を向けた瞬間だった。


「しっ!」


 突如、シャロンが体を起こし、魔法を放つ。閃光のような高速魔法はジェノスが持っていた魔水晶を破壊する。


「なにっ!?」


「くっ!」


 ジークフリードがシャロンに斬りかかると、シャロンはアイリスを抱えてテレポートで攻撃を躱し、大広間の端まで移動する。


「ほお」


「馬鹿な……間違いなく致命傷を与えたはず……」


 剣聖と呼ばれる自分が、手応えを見誤るはずはないと目の前の出来事に狼狽える。よく観察すると斬り伏せたシャロンの傷口から煙のようなものが上がる。


「ただの治癒魔法ですよ。攻撃を貰う()()()()一気に治療を開始しました」


「そんなことが……」


「いやいや、さすがはアイギスの隊長だ。警戒はしていたが、まさか破壊されるとはね」


 魔族の召喚に必要であろう、魔水晶を破壊されたというのにジェノスにはまだ余裕があった。


「これだけ大量の魔族を呼んだからね。もうあんなものがなくとも状況は変わらないさ」


「大した余裕ですね。いいんですか? 他の方々は加わらなくとも」


 ナザリック元帥、他2名の元帥は玉座から立つこともなく、まるでつまらない余興でも見るような退屈な目でシャロン達を眺めていた。 

 ジェノスはアイリスの前に立つ。


「それよりもいいのかい。君がここに来たのは私達に対抗しうる力を持っているからだろう? 切り札があるなら遠慮なく出したまえ」


 ジェノスはジークの娘というだけで、アイリスがこの場にいるわけではないと理解していた。リリィの血を継ぐアイリスには、元帥と対等に渡り合える力があると――――


「いいんですか? ボッコボコにしちゃいますよ?」


「ふふふ。望むところだよ」


 アイリス如きに負けるはずはないと、ジェノスは不敵な笑みを浮かべる。

 アイリスは5つの魔法陣から契約精霊を召喚する。契約日外に精霊を呼び出す強制召喚だ。マリア、カルナ、ベル、ルイス、エレノラがアイリスの眼前に現れる。


「ほお、上級精霊か」


 ジェノスはマリア達、精霊を吟味するように眺める。


「ジークフリード、隊長さんは任せていいかな?」


「もちろんです」


 ジークフリードはもう一度剣を構える。


「魔法が効かないとは貴方、何者ですか?」


 大魔導の称号を持つ、シャロンにとって魔法を無力化できるジークフリードは天敵だった。慎重な様子で杖を構える。


 アイリス対ジェノス。シャロン対ジークフリードの対決が始まる。

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