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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十五章 開戦
174/234

173話 決戦当日の朝

 

 日曜日のアイリス 第4部






 午前7時。王国騎士団本部。


「失礼致します」


 朝早くイレイナが大将執務室に入ると、クレアは窓辺に立ち外を眺めていた。


「本部が随分と物々しいわね」


「はい。今日がアイギスの軍事演習の予告日ですから」


 夜明けと共に、騎士団総出で王都の住民を闘技場や大聖堂といった避難場所に誘導していく。団員達はアイギスの軍事演習のために早朝から駆り出されたことが不満なのか、本部全体にピリついた空気が立ち込めていた。


「下の人間の動きを見る限り、民間の狙いは公にされていないようね」


「しかし本当なのでしょうか? 奴らが本部に乗り込んでくるなど……」


「あら、そんなこともわからないの? 莫大な損害賠償を支払ってまで、軍事演習を行う理由なんて他に考えられないでしょう」


「…………」


 イレイナには未だクレアの言葉が半信半疑だった。


「演習を口実に大軍を引き連れて、真っ直ぐに騎士団本部(ここ)を目指してくるでしょうね」


「クレア大将はどうなされるおつもりですか?」


「私は何もしないわよ。数ではこちらが勝っているのだし、元帥5人も揃い踏み。私を参戦させて、わざわざ手柄を渡すような指示はしてこないでしょう」


 アイギスによる騎士団本部襲撃。この事実を知っているのはジェノス・ランドールを含む元帥5人。そしてランドール派閥の将官クラスの人間だけだ。大佐以下の団員は軍事演習以外の情報は知らされていない。


「ところでイレイナ。お前には命令は何も下っていないのよね?」


「は、はい。特には」


「ならばお前は学院へ向かいなさい」


「学院へ?」


「なんでも学院には民間が誇る魔法兵器があるらしいのよ」


「魔法兵器ですか……」


「どういったものかはまだ知らないけれど、それなりに価値のある代物らしいわ。ランドールは民間と同時に学院も潰すはずよ。恐らくは相当な数の魔族をけしかけるでしょうね」


「その混乱に乗じろと……」


「そう。学院も立場上、民間人を守らなくてはならないから最大限の抵抗を見せるはずよ。けれど本隊を王都に注ぎ込む以上は学院の守りは手薄になる。陣形が崩れたら学院へ侵入。魔法兵器の在りかを捜索し、可能ならば回収なさい」 


 クレアの命令は酷な内容だった。魔族の大軍が入り乱れる中、学院へ侵入。魔法兵器を捜索、そして回収。危険な任務だが学院側と違いイレイナは魔族と戦う必要はない。余程、高位の上級魔族に遭遇しない限り問題なく完遂できるだろう。

 しかしその任務には学院側の敗北が含まれていた。学院を守護するのは恐らく学院関係者と生徒達だろう。イレイナにとって、現役の生徒達は面識はなくとも後輩にあたる存在だ。そしてかつてはしのぎを削ったリオンもいる。イレイナの任務には彼女らを見殺しにすることが必要条件だった。

 その事実に気づきイレイナの顔面は真っ青になる。


「あら? お前の実力を持ってすれば決して無理難題というわけではないでしょう?」


「は、はい……しかし――――」


 この作戦は人道的にどうなのか。そう意見しようとしたときだった。


「イレイナ。お前をここまで取り立ててやったのは誰か、お前は理解しているのかしら?」


 いつもより冷たい声だった。イレイナは反射的にクレアを肯定する。


「は、はい! それはもちろんクレア大将です!」


「ならばイレイナ。私の命令は絶対よ? お前は逆らうことはもちろん、疑うことも許されないわ。ただし――――――――」





 午前7時半。王立魔法魔術学院。


「学院長代理。近隣住民は皆、闘技場へ避難完了しました」


「ご苦労」


 学院の男性教師がシャルロットへ避難完了の報告をするも、どうも顔色が優れない。


「何かあったかな?」


「いえ、民間人ですが昨夜からの突然の避難命令にかなり不満があるようです」


「放っておきたまえ。敵が姿を見せれば大人しくなるだろう。我々の邪魔になるような事態にはなるまい」


「わかりました……」


「気持ちはわかるよ」


「はい?」


「これから我々が命を賭けて戦おうというのに、避難命令ひとつで不満を垂らされては君もいい気分ではないだろう?」


「それはまあ……」


「だがぁ……今日の我々は文字通り学院や民間人を死守せねばならない」


「はい……」


「ふふふ。安心したまえ。私がいる限り、この学院は簡単に落とされはしない」

 

 シャルロットは不敵な笑みを浮かべながら、学院が一望できる校舎屋上に巨大な魔法陣を作り、その中心に座していた。戦闘に向けての準備は万全のようだ。

 王立魔法魔術学院は山々に囲まれた中にある。本来、地上から学院に入るには東西にある門をくぐる必要がある。城壁を物理的に破壊するという方法もあるが、現在は結界が強化されており侵入の余地はない。唯一出入りが可能なのは、あえて結界を施していない東西の門だけである。

 戦闘員の補給や救護のために開放しているが、当然敵が集結する場所にもなる。従って数の多い両クラスの生徒が東西の門を守護することになる。

 民間人の避難が完了してからは、生徒達はそれぞれの門に別れて戦闘準備を整えていく。

第4部に入りました。

これからも応援お願い致します!


早坂凛

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