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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十四章 軍靴の音
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170話 決起

 シャロンの話を聞き、生徒達は絶句する。いや、それよりも理解が追いついていないようだった。


「馬鹿な! デタラメだ!」


 騎士クラスのひとりが立ち上がり叫ぶ。この声を筆頭に騎士クラスを中心に非難の声が飛び交う。彼らからすればシャロンの話はあまりに荒唐無稽だった。

 一向に止まない怒声。シャロンは何も言わずに黙ってその様子を眺めていた。すると何かを殴ったような大きな衝撃音が大聖堂内に響く。


「貴様ら、喧しいぞ……」


 リオンが殴った壁からはパラパラと破片が落ちる。まさに鶴の一声、リオンが一瞥すると騎士クラスの生徒達は条件反射のように黙り込む。リオンは怒鳴りつけるのではなく、一度、ため息のような深呼吸をしてから話し始める。


「急にこのような話をされて混乱するお前達の気持ちもわかる。だが今、学院長がされた話は全て真実だ」


 リオンは一度、シャロンへ目線を送る。シャロンはリオンの意図を察して頷く。


「お前達も、私がかつてどこに所属していたのか知っているだろう」


 その言葉を聞いて生徒達はハッとする。リオンの前所属は話題の渦中である王国騎士団である。


「いい機会だ。お前達に少し昔話をしてやろう」


 リオンはミーナに語った自身の過去を生徒達に話す。信頼する教師の話に生徒達は真剣に耳を傾ける。事実に基づくリオンの話は十分過ぎる説得力を持っていた。リオンが話を終えた頃には、シャロンの言葉は真実として生徒達に受け入れられたようだ。


「そ、それで先生! 俺達はどうすればいいんですか!?」


 騎士クラスの生徒がリオンに問う。たった今まで目指すべき目標だった組織が、倒すべき敵に成り変わったのだ。生徒達は救いを求めるような目でリオンを見る。その問いにリオンではなくシャロンが答える。


「王国騎士団の今後については、今語るべき言葉を私は持っていません。ですが確実なことは、近日中にこの学院は敵陣営から攻撃の対象となるでしょう」


「学院は騎士団から攻撃を受けるということですかっ!?」


「騎士団本隊が兵を率いて、わざわざこの僻地までやってくるとは考え難いです。とすれば騎士団の支配下にある者が攻め込んでくると考えるのが妥当でしょう」


「それって……」


 先程、騎士団上層部と一部魔族との癒着している事実を聞かされたばかりだ。()が攻めてくるのかは、火を見るより明らかだった。

 敵は学院を攻め落とそうとしているのだ。その数は10や20ではないことは容易に想像できる。生徒達はイメージする。目の前を埋め尽くす程溢れ返った魔族の大軍、そしてそれらに立ち向かっていく自分の姿を。


「うっ!」


 地獄のような景色を想像して、ひとりの生徒が吐き気を催す。他の生徒も明らかに顔色が優れない。

 そんな生徒達の様子を見てシャルロットが一歩前に出る。


「君達がこの学院に入学したときに、それぞれの担任から聞かされているはずだよ? 君達は王都の予備戦力であると。王都、ひいては国が未曾有の危機に瀕したとき、君達は剣や杖を持ち、魔族に立ち向かわなければならない。まさに今がそのときだぁ〜!」


 いつものようにテンション高く、張りついた笑顔で決め台詞を吐いたように、差し出すように両手を上げる。だが生徒達は誰ひとり笑わない。

 しかしシャルロットはそんな生徒の様子を気にすることもなく、にこにこしている。どうやら彼女には生徒達の心の機微は全く理解できていないようだ。


「ふっはっは〜どうやら魔族と戦うのが怖いようだね。だが心配はいらないよ? 相手は相当な数になるだろうが、何も君達だけを戦わせるわけではないよ?」


 その言葉に反応して生徒達は顔を上げる。


「学院長は所要があり、戦いに参加はできないが学院長代理である私を筆頭に、学院が誇る優秀な教師陣は皆、学院防衛のために死力を尽くす」


「無論、私も参加する」


 リオンは不意に向けられた騎士クラスの生徒の視線に応える。その言葉に生徒達の士気が上がる。騎士クラスの生徒達は誰よりもリオンの実力を知っている。彼女がいればまさに百人力だろう。


「なるほどね〜この森での一週間はこの戦いのためのリハーサルだったわけだ」


 アリスがわざとらしい声を出し、シャロンの意図を見抜く。


「ご明察。この試練を越えた皆さんなら、必ずやこの学院を守り抜いてくれると確信しています」


 シャロンの言葉にアリスがにやりと笑う。


「いいんじゃない。私個人としては去年の雪辱が晴らせるいい機会だし」


「いっちょ、やったりますかぁー!!」


 アイリスも雄叫びを上げてアリスに同調する。


「武士たる者、戦を怖がってなどいられませんわ!」


 イサミも自信に満ちた目で立ち上がる。彼女にしては珍しく声を張る。


魔法クラス(お前達)ばかりにいい格好はさせんぞ!」


 イサミの意図を汲み取り、ミーナも意気揚々と立ち上がる。


「こうなったらやるしかねえ!!」


「そうよ! 戦うしか道はないんだから!」


 イサミやミーナに鼓舞された生徒は、ひとり、またひとりと立ち上がり、それぞれ決意の言葉を口にする。その様子を壇上から眺めていたシャロンは生徒達の成長を嬉しく思う反面、一抹の不安が過ぎっていた。


お読みいただきありがとうございます。

ブックマークと高評価もよろしくお願いしますね!


物語も終盤に入りました!

最後まで頑張りますのでお付き合い下さい。


早坂凛

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