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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第二章 入学二日目の激闘
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16話 激化する交流戦

 ヒカゲの勝者宣言に魔法クラスが湧く。舞台から降りてくるセシリアをクラスメイトが囲む。


「凄いわ! セシリアさん!」


「騎士相手に勝っちゃうなんて!」


「ええ……ありがとう……」


 息を切らせながらセシリアはクラスメイトの祝福に答える。勝利を収めた喜びはあるが、それ以上にセシリアは消耗していた。ダグラスは強敵だった。歯車ひとつ狂えばダグラスの一撃をもらい、倒れていたのはセシリアだったであろう。返す返す(かえすがえす)ギリギリの戦いだった。

 アイリスはクラスメイトの輪から解放されたセシリアを出迎え、クラスメイト同様に勝利を讃える。


「計画通りでしたね! さすがセシリアちゃんです!」


「ええ……昨日の模擬戦がなければ負けていたわ……」



 


 時系列は1日遡り月曜日 アイリス宅、庭。


「なるほどセシリアちゃんは防衛魔法が得意なんですね」


「ええ、魔法障壁で相手の攻撃を防ぎながらカウンターを入れるのが定石かしら」


「カウンターには何の魔法を?」


「その時々ですね。攻撃魔法はあまり得意ではないから、いつも決定打に欠いてしまうわ……」


「ちなみに魔法障壁なんですが……」


 アイリスはセシリアから聞いた情報を元に、戦術を構築して彼女に伝授する。


「そ、そんな使い方……今まで考えたこともなかったわ…」


「でもでもすっごく有効だと思います!」


 アイリスは、先程の戦いでセシリアが見せた魔法障壁を三次元で展開して敵の動きを封じる戦法を提案する。「魔法障壁は相手の攻撃を防ぐためのもの」と、教科書に書かれている文言通りの解釈しかできなかったセシリアには目から鱗だった。


「予め魔法陣をひそかに作っておいて、敵がその上を通ると障壁を展開……捕縛するというイメージかしら?」


「そうですね。そのあとはゆっくり魔法陣組んで詠唱した魔法をどっかーん! これで決まりです!」


「確かに……それだけできれば私でも強力な攻撃魔法が放てるはずだわ……」


 自分の魔法のスタイルを伝えただけで、今まで自分が思いつきもしなかった戦法を考えてしまうアイリスにセシリアは脱帽した。


「ではいっちょ模擬戦で試してみましょう!」


「ええお願いするわ」




 火曜日


「ほんと、びっくりするくらいその通りになったわ。ありがとう……アイリス」


 「セシリアちゃん」と名前を連呼してくるアイリスとは反対に、なかなか友達の名前を呼ぶことができなかったセシリア。初めて「アイリス」と名前を呼び感謝を告げる。


「おっやぁ~、ひょっとして初めて名前を呼んでくれちゃいましたぁ~?」


 ニヤニヤとした表情でセシリアをいじるアイリス。


「こ、こういうのは茶化すものではありません!」


 2人の学生らしいやり取りをよそに交流戦は次々と試合を消化していく。


「勝者! ミーナ・ランドール!」


 騎士クラスの数少ない女子生徒が魔法クラスの生徒を圧倒していた。魔法クラスの男子生徒は善戦の余地もなく叩きのめされたようだ。


「勝者! アダム・リッグス!」


 もう一面の舞台でも騎士クラスの生徒が魔法クラスの女子生徒を完封していた。セシリア戦など例外はあるが、基本的に騎士クラス対魔法クラスでは騎士クラスに分があるらしい。負傷した魔法クラスの生徒が次々と治療のため闘技場から担ぎ出されていく。


「騎士って強いんですね~」


 騎士クラスは勝率が高い上に、魔法クラスの生徒を相手にするとほとんど無傷に近い状態で勝利を収めている。


「ええ……そうね」


 平坦な声で感想を告げるアイリスとは違い、セシリアの声には重苦しさが滲んでいた。まだほとんど関わりがないとは言え自分の戦いに声援を送り、勝利を祝福してくれたクラスメイトが次々と敗れていく姿は決して見ていて気分のよいものではなかった。さらに言えば「負け方」が徐々に()()()()()()()


「きゃああああっーー!!」


 アイリスとセシリアが見ていた試合とは違う一面から悲痛に満ちた叫び声が聞こえる。


「勝者! ピドロ・バルデス!」


「おいヒカゲ! 治療班を呼べ!」


 勝者を宣告した後ジーナはすぐに治療班の要請をする。敗れた魔法クラスの女子生徒は対戦相手のピドロのランスが肩を貫通し、おびただしい量の血で上半身が染まっている。

 ジーナがすぐに傷口を押さえ止血を行う。


「うあぐぐぅ!!」


「死にたくなかったら我慢しろ!」


 ジーナに傷口を強く押さえられ負傷した女子生徒が(うめ)き声をあげる。痛みに耐えられないのかじたばたと体を動かすもジーナは力を緩めない。そこにセシリアが駆けつける。


「あの、私少しなら治癒の魔法が使えます!」


「なに!? そうか、なら頼む!」


 体の傷や病気を癒す「治癒魔法」は通常の炎や水をだす魔法とは異なる才覚が必要であり、生徒よりも実力のある教師であっても治癒魔法が使える人間は少ない。しかしセシリアは、少しであるが治癒魔法が使えるらしく治療を申し出る。


「ううう……」


「止血さえすれば助かります! 気を強く持って!」


セシリアの両手は光に包まれている。その光る手を傷口に当て治療を行う。細胞を活性化させ破壊された組織の修復を促進させる。

 5分程患部の治療を続ける。なんとか止血を終えたようだ。そしてヒカゲが連れてきた治療班に後を託す。


「セシリアちゃん治療魔法なんて使えるんですね……」


「え、えぇ……少し……だけね……」


 顔を青ざめながら答えるセシリア。ただでさえ、試合で多くの魔力を消費したうえに慣れない治療魔法でさらに魔力を酷使。魔力切れ(ロスト)寸前だった。


「お前は、もう1試合終わっていたな?」


「……え、は、はい」


「なら今日の試合はもういい。よくやってくれた。休んでろ」


 ジーナはセシリアにそう言い残し次戦の立ち会いに戻る。あくまで新入生の実力を確かめるための交流戦であり、教師のヒカゲやジーナに生徒を必要以上に酷使するつもりはないようだ。負傷した生徒に対しては献身的に接しており極力()()()()()が出ないように最善を尽くしている。

 しかし2人の思いとは反対に交流戦は激化していく。


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