165話 開戦に向けて
初夏。2大組織が水面下で戦いの予兆を見せている中、学院の生徒達はあの場所に舞い戻っていた。
「まさかまたこの森に来ることになるとは……」
アイリスを始め魔法クラス、そして騎士クラスの顔色は悪い。それもそのはずだ。約1年振りとなる「試練の森」へ再び足を踏み入れることになったのだ。今回の期限は一週間。しかも魔族やアンデットの討伐ノルマまである。前回よりも明らかに厳しい条件だ。
「おい! 本当に中級魔族までしかいないんだろうな!?」
「俺達はこの森は初めてなんだ! 頼むぞお前達!」
特に騎士クラスは初めて森に入るためかなり動揺している。
「狼狽えるなお前達! 生き抜くために必要な訓練は積んでいるだろう!」
騎士クラスのリーダーであるミーナが落ち着きのないクラスメイト達を統率する。
「とはいえ、私達は森の地理について何もわからない。先導は頼めるか?」
「いいけど私達も詳しいわけじゃないのよね〜。前回は割と逃げ回っていただけだし?」
「そ、そうなのか……まあわかる範囲で頼む」
実力者のアリスの弱気な発言にミーナもやや顔が引きつる。
「まあ前回のようなことは絶対にない、と学院長代理にもお墨付きをいただいたわけですから今回は大丈夫ですよ!」
「そのお墨付きをどこまで信用していいもんか怪しいところだけどね」
「とにかく班分けをしよう。この大人数では移動もままならん」
「あ、私いいものを持ってますよ」
アイリスはそう言うと森の地図を取り出す。
「な、なぜそのような物を持っているのですか?」
イサミがやや怪しみながら聞いてくる。
「まさかとは思いますが、学院長代理からの物では……」
イサミは昨年痛い目を遭わされた元凶である学院長代理を警戒していた。
「あ〜大丈夫ですよ。これはエレノラちゃんに作ってもらったものなので」
「地図が光っているのは?」
ミーナが地図の一部が発光していることに気づく。
「これは現在地ですね。私の魔力とリンクさせているようで私がいる場所が光るようになっています」
「便利なものですね……」
魔術の類に疎いイサミが関心する。
「歪な正方形といったところか……」
「今回は討伐ノルマがあるから一箇所拠点を作らないとね。情報の共有も必要になってくるし」
アリスは地図の中央を指差す。森の大体中央部分を拠点として各班を四方に展開していく案を出す。
「夜は必ず拠点に帰還。成果の報告、怪我人の治療に休息。必要なら班の再編成。これをノルマ達成まで繰り返す。こんな感じでどう?」
「それでいいだろう。ね、いやランドール先生の話だと今の騎士クラスの技量は騎士団下士官クラス。中級魔族であっても数人で囲めば倒せるらしい。今回は魔法クラスの援護もあるからな。2、3体であればなんとかなるだろう」
「へえ皆できるのね。なら拠点にはなるべく主力を残して他の皆で巡回をしてもらおうかしら」
「それでいいだろう。拠点は動かせない上にこの試練の肝になる。手練を置いておこう」
こうして両クラス混合で班分けを行っていく。アイリス、アリス、イサミ、ミーナ、ジョージ、システィナの6人が拠点の防衛担当になった。
「あら、この子って強かったの?」
アリスがシスティナを見て言った。
「システィナは騎士クラスで唯一治療魔法が使えるからな。前線に置くよりこちらの方がいいだろう。それに頭もいい、本陣に据えるべき人材だ」
「よろしくお願い致します」
システィナは控えめに頭を下げる。
「しかし殺風景ね。拠点といってもただの開けた場所だし」
「なるほど。では皆様少し下がっていただけますか?」
いつの間にか召喚されていたルイスが地面に手をつく。
「創世する大森林」
ルイスの魔法でみるみる樹木が地面から伸びていく。そしてかまくらのような形に形態変化させる。
「いかがでしょうか?」
「す、すげぇ……」
ジョージは思わず感嘆の声を上げる。30秒程で数十人は入れそうな巨大な樹木の要塞を作り上げたのだ。壁や天井になっている樹木は木の枝や蔦が密に絡まっていてかなりの強度だ。
「これは素晴らしいな……」
「凄い……」
普段アイリスの契約精霊に見慣れていない騎士クラスの面々はかなり驚いた様子だった。
アイリスはルイスの魔法が褒められて鼻高々といった様子だった。
生徒達が二度目の試練に挑んでいる最中、学院ではきたる日に向けて着々と準備を進めていた。
「もし、学院に魔族が攻め込んできた場合は籠城戦になるでしょう。となればまず第一に近隣住民を避難させなくてはなりません」
「ならば一箇所に集めてしまうのが効率的でしょう。闘技場を開放して住民達を放り込み、結界を作り上げてしまうのが一番確実かと」
「それでよいでしょう。結界の強度はどのくらいまでいけますか? 森と同程度が望ましいですが」
「試練の森の結界レベルにするにはいささか時間が足りません。ですが私が結界内部から術式を展開すれば近しい強度にはなりますねえ」
「貴女が前線に出れないとなると学院防衛の戦力は心許無いですね」
「騎士団本部に我々の戦力の大部分を割かねばならない以上仕方のないことです。頭同士の対決で収まればいいですが魔族が配下にいる以上そうはいかないでしょう」
8番隊隊舎襲撃を受けて、王国騎士団はアイギスに対して事実上の宣戦布告を行った。襲撃に魔族を使ったことで王国騎士団は魔族と繋がっていることも半ば証明された。
今まで徹底的に「正義」としての建前を崩さなかったがここにきて騎士団は積極的に動き始めた。
「しかしよろしいのですか? 我々から打って出て。未だに確たる証拠はないのでしょう?」
「色々と探らせてはいますが正直絶対的な証拠はありません」
「では仮に騎士団本部を陥落させたとしても、ただ我々が騎士団に対して侵略行為を行ったと見なされるのでは? 腐っても歴史ある騎士団。世間からの評判は未だに高い」
「シャルロット。これはもう証拠云々という話ではないのです」
「?」
「人間と魔族は互いに決して相容れない。ですから世界を隔てて良くも悪くも『共存』してきたのです。我々は人間界へ侵攻してくる魔族を滅することは許されても、魔界へ侵攻することは許されません。それをすれば我々の行いは魔族と同じになるからです」
「我々はあくまで人間界の防衛組織だと?」
シャロンは人間は人間界で、魔族は魔界で生きる。その棲み分けが重要だと考える。それが世界の不文律であると。
「そうです。ですが騎士団は不文律を犯し人間界を陥れようとしています。今回は主権を取り戻すためにアイギスが標的になりましたが、今後は騎士団の障害となる組織が積極的に的になるでしょう。場合によっては民間人さえも」
本来、魔族を討伐し人々の平穏を守るはずの騎士団が魔族と手を組めば弱き者は誰に救いを求めればよいのか。
「慎重に様子見をしていましたが、もう結構。証拠など待っていられません。我々、アイギス本部主力戦闘部隊8番隊は準備が整い次第、王国騎士団本部に対して総攻撃を仕掛けます」




