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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十四章 軍靴の音
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161話 世界の壁

 契約精霊達からの真実の告白を受けてから数日が経過した。アイリスはシャロンと共に学院長室にいた。


「では諸々は私達にご一任いただけるということですね」


「はい」


「正しい記憶を取り戻して尚、ご両親の復讐はしない。本当にそれで後悔はありませんか?」


「何も思わないと言ったら嘘になりますが、今の皆との楽しい生活を壊してまで復讐しようとは思いません」


 リリィの魔法が解け、正常な記憶を取り戻したアイリス。正規の記憶であってもアイリスは犯人の顔を見ていなかった。だが状況証拠からあるひとりの人間の名前が挙がった。だが、アイリスはその人物について個人的な復讐はしないことにした。ただ未解決事件として再捜査をシャロン率いるアイギスに依頼した。


(本当に心の強い子ですね)

  








 王国騎士団本部 クレア執務室


「以上が直近のランドール元帥配下の部隊の動向です」


「そう……」


 少佐のイレイナから報告を受ける大将クレア。しかし生返事でありイレイナの言葉にあまり関心はないようだ。


「あの……よろしいのですか?」


「何が?」


「近頃、正規部隊の掌握権は以前にも増してランドール元帥に集中しています。これでは『大元帥』を廃止した意味がないのでは」


「ああ、そんなこと」


 クレアは気怠そうに窓の外を眺めながらイレイナの質問に答える。


「大元帥廃止はランドール(あの男)のパフォーマンスよ。権力を分散させることで、より組織を民主的にすると、対外的にアピールして自分の株を上げているのよ」


「ランドール元帥がですか?」


 イレイナにはジェノス・ランドールは人格者に見えているようだ。


「もちろん。剣聖と名高いジークフリードを丸め込み、残りの三元帥(老いぼれ達)にはいい顔をしながら実質的に権力を取り上げて騎士団全てを掌握しようとしているのよ。あの男はそういう人間よ?」


「優秀な方とは思っていましたが。まさかそのようなことを……」


「今の私を見ればわかるでしょう?」


「それは……」


 かつてクレアはジェノス・ランドールと元帥の地位を競っていたが政治的に敗れた過去がある。


「ふっ……大将という地位でありながら正規部隊の指揮権がない人間が他にいるかしらね?」


 将官の最高位である大将という地位に就きながらクレアが動かせる兵力は100にも満たなかった。それも黒衣の騎士団(ブラックメイツ)と呼ばれる汚れ仕事専門の別働隊である。正規団員での配下は個人的に懐柔しているイレイナくらいだった。

 

「申し訳ありません!」


 クレアの機嫌を損ねたと思いイレイナは頭を下げる。


「別に気にしていないわ。それよりもお前は今まで通り正規部隊の情報を私に流しなさい」


「は、はい!」


「大佐くらいまでなら私の裁量で昇進させてやれるわ。ある程度の階級がないと()()()()()()もやり辛いものね?」


 クレアはサディスティックな笑顔をイレイナに向ける。しかしイレイナは媚びへつらうように頭を下げる。


「よろしくお願い致します!」


 リオンを上回る尋常でないイレイナの昇進にはクレアが一枚噛んでいたようだ。昇進の餌が効いているのかイレイナはクレアの忠犬のような振る舞いを見せている。  

 報告を終えたイレイナは深々と頭を下げ退室していく。


「クレア様、よろしいのでしょうか?」


 クレアの側近として控えている黒衣の騎士が口を開く。


「何のことかしら?」


「彼女をあのようにお使いになられて――――」


「…………」


 クレアは黒衣の騎士の言葉に僅かに目を細めるが何も言わなかった。


「彼女は――――」


「わかっているわ」


 黒衣の騎士の言葉を遮るように強い口調で言った。


「出過ぎたことを申しました」


「わかっているなら下がりなさい」


「はっ」


 黒衣の騎士は慇懃な態度で席を外す。


「…………」


 クレアは物思いに耽りながらもう一度窓の外を眺める。





 騎士団本部 ジェノス執務室


「う〜ん順調だねぇ」


 ジェノスは部下から上がってきた報告書に目を通しながら満足そうな様子だ。


「それは何よりかと」


 客人用の椅子に座るジークフリードもジェノスの思惑が上手くいき笑顔を見せる。


「剣聖ジークフリード。君にもまだまだ働いてもらわないとね」


「私のような若輩者にできることは身を粉にして王都、ひいては世界の平和を守ることだけです」


「はっはっは。これ以上ない優等生の答えだね」


 同じ元帥であってもジークフリードはジェノスの部下のような言動をしていた。


「ではひとつ質問しよう」

 

「なんなりと」


「我々が世界を平和に保つには何が必要かわかるかな?」


 少し抽象的な質問だったがジークフリードは真剣に考える。


「武力……でしょうか」


「その通りだ。武力、兵力、軍事力。様々な言い方ができるがようは『力』だ」


「力……」


「だが今の騎士団には力がない。故にアイギスなどという民間組織の台頭を許してしまった」


「だから私を()()()()()()()()のですね」


「そうだ。だがまだ足りない。騎士団が民間を退け世界を掌握するにはまだ『力』が足りない」


「…………」


 ジークフリードは何も言わずジェノスの先の言葉を待つ。ジェノスは席を立ち上がり部屋の中央まで歩いていく。そして両手を広げて天井、さらに上を見るように言う。


「我々が覇権をとるには世界の壁を壊すことだ!」


 野心に染まり、血走った目は見えない何かを見据えていた。

新章に入りました!

これからもよろしくお願い致します!

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