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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第二章 入学二日目の激闘
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15話 セシリアの実力

「が、頑張ってね!」


 不安そうな表情ながら、力強くアイリスを激励するセシリア。そんなセシリアに対して、胸を張り余裕綽々に言い放つ。


「心配無用です! この天才アイリスちゃんのひのき舞台をとくとご覧あれ!」


「本当にもう……」


 セシリアは呆れたように呟く。まだ付き合いは浅いが、セシリアはアイリスの人間性はわかったようだ。物事をあまり深く考えないところがあるが、底抜けに明るく前向き。成績優秀の優等生ながら、イマイチ自信の持てない自分にはない長所を持っているアイリスのことを羨ましく思った。


「アリス・フェアリーテイル!!」


 ヒカゲが大声で名前を呼ぶも対戦相手は現れない。アリス・フェアリーテイル。クラスメイトだがさすがにまだ顔は覚えていない。というかセシリア以外は顔と名前が一致する生徒はいない。


「アリス・フェアリーテイル!! いないのか?」


 ヒカゲの声に反応する生徒はいない。どうやらアリスという名前の生徒はこの闘技場にはいないらしい。


「おかしいな……朝は確かにいたんだが……まあいい、あと5分だけ待とう。アイリスさんもいいね?」


「ええ……私は構いませんが」


 5分後


「アイリス・アンフィールドの不戦勝とする!」


「えぇ~……」


 自称天才精霊術師アイリスの初戦はまさかの不戦勝で幕を閉じた。不戦勝ということで勝利宣言がなされた後も拍手などはなく、なんとも言えない消化不良の初陣となった。


「と、とりあえずおめでとう……」


「いいですよぉ~べつにぃ~」


 憐れみ半分という具合で、セシリアが祝福してくれたがアイリスは不満顔だった。あれだけ啖呵を切ったにも関わらず、不戦勝ではやりきれない思いがあるのだろう。

 騎士クラス同士の戦いも終わったようで勝者を祝福する拍手が起こっていた。そして次の対戦が発表される。


「騎士クラス! ダグラス・バース!」

「魔法クラス! セシリア・グリーングラス!」


 初となる他クラス同士の対決に両クラスがどよめく。そして両クラスからそれぞれの生徒に声援が飛ぶ。


「やっちまえダグラス! 女になんか負けんじゃねーぞ!」


「セシリアさん頑張って!」


まだほとんど付き合いのないクラスメイトだがやはり同じクラスには仲間意識が芽生えるのだろうか。騎士クラスはダグラスを、魔法クラスはセシリアを応援する構図ができあがっている。


「セシリアちゃん! 女を魅せましょう! そんな相手ぶっ(ころ)ですよ!」


 アイリスは一際大声を上げ少々意味不明かつ物騒な声援を送っている。


「女を魅せろって……」


 ふふと笑い、鋭い視線を相手に向ける。自分の背丈ほどある杖を構えるセシリア。対する相手は全身を鎧で包み大刀を構えている。


「始め!!」


「おおおっ!!」


 ヒカゲの合図と共にダグラスは大刀を上段で構えて突っ込んでくる。セシリアは詰められた距離を後ろに下がり間を稼ぐ。そして防衛魔法を唱える。振り下ろされたダグラスの大刀はセシリアの30センチ手前で大きく弾かれる。


「くっ! 防衛魔法かよ……」


 セシリアの得意魔法は防衛の魔法。透明な防御壁を展開して、敵の攻撃を防ぎながら相手の攻撃パターンを分析し、有効なタイミングでカウンターを仕掛ける。いわゆる「専守防衛」のスタイルだ。

 対するダグラスは大刀に魔法を付与して、さらに攻撃力を高める特攻型である。まさに矛と盾の対決である。ダグラスの強化された大刀の攻撃力は凄まじく、セシリアの展開した魔法障壁を一撃で破壊する。しかしセシリアも次々に魔法障壁を展開して有効打を許さない。

 一見するとどんどん追い詰められているセシリアだが、水の魔法を有効なタイミングでカウンター攻撃として仕掛けている。だが威力が弱い上に鎧を着込んでいるダグラスにはほとんどダメージはない。


「おい、そんな水鉄砲だと涼しいだけだぜ」


「ならこれはどうです?」


 パキパキパキと天に突き上げた左手から、30センチ程の鋭利な氷柱ができ、ダグラスに向かい一直線に飛んでいく。しかしダグラスは氷柱に自ら突っ込んで行き、野球のバットスイングの要領で大刀をフルスイングして破壊する。そして、そのままセシリアに連撃を仕掛ける。

 反応が遅れたのか展開した魔法障壁はセシリアの顔スレスレだった。そして大刀に障壁が破壊されるのを察して真横に飛び退く。起き上がったセシリアの頬からは赤い鮮血が垂れる。避けるのがあと一瞬遅いか、障壁がもう少し脆ければセシリアは大刀をもろに受けていた。

 屈強な男が振るう魔法で強化された大刀。まともにうければほとんど一撃必殺のようなものだった。


「くっ……」


 セシリアは魔法障壁を展開しながらダグラスと距離をおくために舞台を走りだす。


「逃げ場はねえぞ」


 セシリアは魔力が尽きかけているのか、体力に余裕がないのか造り出す魔法障壁はサイズが小さく強度もなくなっている。

 ダグラスは障壁を軽くいなすように破壊していきセシリアを徐々に追い詰める。舞台の端にセシリアを追いやりじりじりと詰め寄る。


「ここまでだな。あんたなかなか強かったぜ」


 勝利を確信してニタァと笑みを浮かべるダグラス。セシリアの顔は悲壮感に満ちている。距離を詰めるダグラス。不意にセシリアが平坦な声で言う。



「そこ、危ないですよ」



「あ?」


 セシリアの声にダグラスが下を向くとダグラスを囲むように魔法陣が3つ三角形のように展開されていた。


「!?」


 ダグラスが回避行動に移る前に魔法障壁が発動する。今までの障壁とは違い三角錐の形で魔法障壁が展開。ダグラスを三角錐の中に閉じ込める。


「まじか!? 糞が!!」


 三角錐の魔法障壁はギリギリ人1人が入れる程度の大きさでダグラスは大刀を振るうことができない。先程までの「女が男に徐々に追い詰められる」という展開が一転、セシリア有利となり魔法クラスを筆頭にギャラリーが湧く。


「糞が! 糞がぁ!」


 ダグラスは精一杯、体や大刀を使い魔法障壁からの脱出を試みるが狭さゆえに力が入らず難航している。


「一応聞いておきますけど降参しませんか?」


 これは交流戦であり別に命をもらう必要はない。セシリアはダグラスに「降参」の提案をする。


「するわけねぇだろ!? 障壁がある以上てめえからも何もできねえ! さっさと壊して、てめえもぶち殺してやるからよぉ!!」


 さっきまで追い詰めていた、格下の女にやり込められたのが相当頭にきているのか、口調が荒くなるダグラス。

 セシリアは、三角錐の魔法障壁を展開している3つの魔法陣を囲めるくらい、大きい魔法陣をもうひとつ展開する。そしてゆっくり魔法の詠唱を行う。

 一般的に魔法は無詠唱より詠唱する方が威力が高い。また魔法陣を組み自身の魔力を高めたり、緻密な術式を組むことで魔法の威力を最大化することができる。

 セシリアは今、魔法陣を組み魔法詠唱をすることでこれから放つ魔法の威力を最大化している。


「うおおおっ!!!!」


 障壁脱出に躍起になっており、セシリアの魔法詠唱や魔法陣展開に気づかないダグラス。未だに障壁内で力んでいる。


「正直、攻撃魔法は得意ではないのだけれど」


()()が整えば私にもこれくらいの魔法は撃てるんですよ!」


 パチンと指を鳴らすとダグラスを捕らえていた魔法障壁が壊れる。


「うおっ!」


 精一杯力んでいたダグラスは障壁の支えを失い前のめりに転ぶ。


「はは……やったぜ」


 ダグラスがそう呟き立ち上がった瞬間。


「サンダーボルト!」


 ダグラスの遥か頭上から巨大な雷が落ちてくる。無意識に耳を塞ぎたくなる轟音と共に視界を覆う閃光。雷が直撃した舞台のコンクリートは砕け、石つぶてとなってギャラリーに降り注ぐ。


 セシリア渾身の大魔法の発動に彼女自身も膝を着く。魔力を消費しすぎたのか、息も上がっており肩で呼吸をしている。そして雷の魔法の直撃を受けたダグラスは未だに両の足で立っていた。


「嘘でしょう……?」


 しかしセシリアはダグラスの異変に気づく。立ってはいるものの、頭部は前後に振り子のように揺れており、目の焦点は合っていない。

 セシリアはゆっくりとダグラスに近づき、彼の黒焦げになった鎧をそっと押す。ダグラスは、触れた程度のセシリアに抵抗することなくそのまま仰向けに倒れる。


「タフな人ね……」


 セシリアは立会人のヒカゲを見る。そしてヒカゲは大きく宣言をする。


「そこまで! 勝者セシリア・グリーングラス!」



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