145話 アイリスの夢物語7
「使えた……魔法が……」
ジークは信じられないという表情で呆けている。
「うんうん。まあこんなところかな」
「おい! 今のどうやったんだ!? 何で俺は魔法を使えたんだ!?」
ジークは押し倒す勢いでリリィに迫る。リリィはまたも急接近してくるジークに狼狽える。
「落ち着いて! 落ち着けー!!」
リリィは赤面しながら半無意識に魔法で突風を体中から発生させる。その勢いでジークはまた尻餅をつく。
「はぁ……はぁ……落ち着いた?」
「おおぅ……」
「よろしい」
リリィは一度仕切り直して無色の魔力について説明していく。
「先に言っておくけど、私は無色の魔力について全てを知っているわけではないわ。魔術書なんかにはまず載っていない、無色の魔力の持ち主ってそれくらい凄く少ないの」
「めちゃくちゃレアってことだな。で何人くらいいるんだ? 無色の魔力を持つ奴って」
「私が知る限りあなただけよ」
「は? じゃあなんでお前は無色の魔力のこと知ってんだよ」
「私は大天使だもの。それくらいの知識は教養として身につけているわ」
リリィは自慢気に胸を張る。
「おい、ちょいちょい出てくる『大天使』ってのは何だ?」
「下々の者に言ってもわからないわ。ただ私が特別な存在とだけ認識してくれればいいの。そう例えば容姿とか――――」
「すまん。無色の魔力について続けてくれ」
真面目に答える気がないとわかり脱線した話を戻す。
「う〜ん……そうね……何かに例えるとぉ……鉄砲?」
「銃か?」
「うん。鉄砲って本体があって、弾を入れて打つじゃない?」
「ああ」
「あれを魔法に例えるなら鉄砲本体が人間ね。で魔法を練ると弾ができるの。で鉄砲の力でバァン! って弾を発射するのがイコール魔法を発動するみたいな感じ」
「なるほど」
リリィの説明はかなり語彙力が怪しかったがジークは理解できたようだ。
「これが普通の人の場合ね」
「普通の?」
「そう。でも無色の魔力の持ち主は自分で弾を作り出すことができないの。正確には魔力はあるけど魔力を魔法に変換することができないってこと。だからどんなに魔力を練り上げても空砲しか出ないのよ」
「欠陥品じゃねえか……」
「そう思えるでしょ? でも無色の魔力は無限の可能性を秘めているの」
「どういうことだ?」
「さっき魔法が使えたでしょ? あれは私が魔力を分けてあげたからなの」
「他人から魔力が貰えると魔法を発動できるのか?」
「半分正解。無色の魔力の持ち主は魔力を分け与えた者と同等の魔法を発動できるの」
「同等……」
「そう。例えば学院で一番魔力が強いのは誰?」
「学院長じゃねーか」
「ならもしその人から魔力を与えてもらえばその人と同等の魔法が使えるようになるわ」
「マジかっ!?」
「ええ。ただし貰った魔力を使い切るまでだけど」
「なるほど。つまり世界一の魔法使いから魔力を貰ったら俺は最強の魔法使いになれるってことか?」
「そうなるわね。貰った魔力がなくなるまでは」
「無敵じゃねえか……」
シンプルに表現するなら無色の魔力は完全コピー能力のようなものだ。魔力を貰った人間の魔法、魔術が全く同じ熟練度で発揮できる。
「考え方によってはそう思えるけど結構大変よ? そもそも魔力を分けて貰えなければ魔法が使えないんだから」
「まぁそうか……なんかこう相手から魔力吸い取る方法とかねえのか?」
「吸引魔法があるけど、そもそもあなた魔法使えないでしょ」
「ぐっ……」
(いやしかしまあ……学院なんか魔法使える奴しかいねえんだ。誰かに頼めば余裕だろ)
ジークの思考を読み取ったようにリリィは言う。
「ひとつ忠告だけど、無色の魔力のこと他人に話しては駄目よ」
「あっ? 何でだよ?」
「決まってるでしょ。身を守るためよ」
「?」
「わからないの? 無色の魔力なんてお金には代えられないくらい価値があるの。人間だっていい人ばかりじゃないんでしょ? 悪い奴に捕まったら何されるかわからないわよ」
ジークはリリィの言葉が身に染みた。人間の欲深さはよく知っている。
(もしバレたら人体実験のモルモットか、よくて生物兵器だな……)
自分の末路を簡単にイメージできてしまう。ジークは溜め息をつく。彼女の言葉に従うようだ。
「わかったよ。はぁ……せっかく魔法が使えるようになったと思ったのによ……」
長年の夢がついに叶ったかと思えたがあえなく散ってしまい落胆する。
「そう落ち込まないで。しばらく私が魔法の修行をつけて上げる。もちろん魔力はたっぷり分けてあげるわ」
「マジか?」
「ええ。どんな強力魔法でも使えるとわかったんだから、ある程度訓練しておかないと危ないでしょ」
「嬉しいけどお前はいいのか?」
「私? 別に構わないわよ。特別やることがあるわけじゃないし。た・だ・し対価としてご飯を要求するわ」
「それくらいわけねーよ。まぁなんだよろしく頼む」
ジークはそういって右手を差し出す。リリィもその手を握り返した。
「ええ。こちらこそ」
こうしてジーク・アンフィールドと大天使を自称する少女リリィの半同棲生活が始まった。




