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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第二章 入学二日目の激闘
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13話 対策会議

 重苦しい学院初日を終えて、アイリスはセシリアを連れて自宅へ帰る。庭に降り立ち箒をしまう2人。


「マリア~帰りましたー!」


 マリアは夕飯の仕度を中断して、玄関までアイリスを出迎える。


「お帰りなさいませお嬢様。おや? そちらの方は……」


 マリアはセシリアに気づき声をかける。セシリアも少し焦ったように挨拶をする。


「あ、お邪魔致します。アイリスさんのクラスメイトのセシリア・グリーングラスと申します」


「これはご丁寧に。ご学友の方でしたか。(わたくし)はアンフィールド家使用人頭をしております、メイドのマリアと申します」


 丁寧な挨拶と一緒に美しいカーテシーを披露するマリア。その洗練された動きに同性ながら見惚れてしまうセシリア。そしてセシリアはアイリスにコソコソと耳打ちする。


「あなたメイドが家にいるって本当に貴族の出自ではないのですか? 庶民の家にあんな有能そうなメイドさんがいるなんて聞いたことありませんよ!?」


「いや、マリアはその家族みたいなものなので……」


 玄関先でなにやら内緒話を始める2人。マリアはセシリアに家に上がるように促し、2人に紅茶を淹れる。

 そしてアイリスは学院での出来事をマリアに話す。


「なるほど……死亡率75%ですか」


「とんでもないところへ入ってしまいました……」


「ヒカゲ先生は即時性と言っていたけれど、さすがに嫌がらせのように感じてしまいます……」


 卒業までの絶望的な道のりに加えて、いきなり行われる交流戦について3人で今後の対策を考える。アイリスとセシリアは基本的に退学という考えはなく、今後の学院生活をどうやって生き延びていくかを話し合っている。そしてマリアが口を開く。


「死亡した生徒の大半は魔族に殺されているのでしょう。ならばシンプルに殺されないように強くなるしかないのでは?」


 実に分かりやすい解決策である。ようは実戦投入された際に、敵に殺されないだけの実力があれば生き残ることができる。アホの子アイリスにも分かりやすい単純明快な答えである。しかしこれは正論なのだが暴論でもあった。簡単に強くなると言っても交流戦は明日であり、強くなるにはどう考えても時間が足りない。しかし――――


「うん! それでいきましょう!」


「そうと決まれば特訓です! セシリアちゃん魔法合戦といきましょう!」


 物事を小難しく考えることが苦手なアイリスは即座にマリアの案に賛同する。セシリアは対照的に不安を口にする。


「その考え方は間違っていないと思うのだけれど現実は簡単には……」


そう言いかけたときマリアが口を挟む。


「セシリア様。貴女は()()()()()()()思慮(しりょ)深く聡明な方です。しかし時には考えるよりまず動いてみることがよい方向に向かうこともあるかと思います」


 暴論なのは百も承知。しかし今は行動するしかない。マリアの言葉にセシリアは背中を押され、アイリスと特訓を行うことにした。実際対戦相手の同級生の実力は未知数であり、1日悩んでみるよりも明日の実戦の模擬戦でもした方が効果は望めそうだ。


「では庭先でやっちゃいましょう!」


「あまり本気を出してはいけませんよ? せっかくの新居に穴が空きます」


 くすりと2人のやり取りを笑いながらセシリアは庭に向かう。アイリスとセシリアが出ていったのを確認してから、マリアは作りかけのスープにもう一度火を入れる。そして右手に持つお玉でスープをかき混ぜながら呪文を唱え、左手で魔法印を結ぶ。

 すると空間にフラフープ大の魔法陣が現れそこから木曜日の精霊ルイスが召喚される。


「なんの真似だ?」


 ルイスはやや不機嫌そうにマリアに問う。そして少し乱暴な様子で椅子に腰かける。

 マリアの魔法により契約日でもないのに人間界に呼び出されたルイス。しかも呼び出したのが同じ精霊なのが気に入らないらしい。マリアはルイスの不機嫌さは無視して、ふふふと笑い答える。


「いえ、お嬢様にはこれくらいが丁度よいかと」




「んんん!?」


 外にいるアイリスは違和感を感じた。魔力の負担が急に重くなったのだ。マリアの魔法で契約日ではないルイスを召喚。そしてルイスの魔力もアイリスに負担させる。しかもルイス召喚のために開いた魔法陣は今も展開されており、都合上級精霊二人分プラス魔法陣展開分の魔力がアイリスにのしかかる。

 アイリスの魔力は常人よりも計り知れない程高い。

セシリアも新入生の中では優秀な部類に入るが、アイリスとは比較にならない。そのためにマリアはルイスを召喚して、さらに魔法を常時発動させアイリスの魔力負担を重くしてセシリアが対等に戦えるようにしたのだ。


「い、いきますよーー!」


「ええ!」


庭で魔法のトレーニングをする2人を眺めながらルイスはマリアから学院の話を聞く。


「7割殺して3割を活かすとは人間は効率の悪いことをする」


 学院だけでなく芸能やスポーツにおいて、一部の才能を活かすために大多数を犠牲にする人間の考えは、精霊であるルイスには理解しがたいものであった。


「しかし合理性はなくとも面白そうな学院ではあるな」


「そうでしょうか? 私には理解し難いやり方ですが」


「ふん、ただまあ死亡率75%などという大層な脅し文句もアイリス(あいつ)には関係ないな」


「ええ……お嬢様には上級精霊(我々)がついていますから」



 そして30分ばかりアイリスとセシリアのトレーニングを眺める。




「いい汗をかきましたーー!」


 そう言って元気よく家に戻ってきたアイリス。アイリスに見つかる前に消えようと思っていたルイスはちっと舌打ちをしかけたがセシリアをみて態度を改める。


「え~とこちらの方は……?」


さっきまでいなかったルイスに驚く。ルイスは王都の魔装具店で見せた慇懃(いんぎん)な態度で――――


「先程は所用でご挨拶をし損ねてしまいました。(わたくし)アンフィールド家使用人のルイスと申します。お名前は伺っております。セシリア様、今後とも当家お嬢様を宜しくお願い致します」


「あ、いえ、こちらこそ……どうもご丁寧に……」


また現れた自称平民アイリスの使用人に驚くセシリア。


(やっぱり貴族なんじゃないこの子……)


 心の中で呟くセシリア。平民だと言い張るアイリスの出自がどうにも気になるらしい。


「相変わらず外面だけはいいですね……」


 一方アイリスは裏表の激しいルイスに悪態をついていた。

 その後セシリアはアイリス宅で夕食をご馳走になり、学院の寮へ帰っていった。

 そしてルイスも精霊界に戻り、アイリスとマリアの2人は恒例の対価の時間に入る。しかし話題はやはり明日の交流戦だった。


「よいですか、まずは攻撃よりも身を守ることを優先して下さい。お嬢様なら不意の一撃さえもらわなければゴリ押しでなんとかなります」


「人を馬鹿の一つ覚えみたいに言わないで下さいよ」


「そう思われたくないなら学業も頑張ることですね」


「結局そこに行き着きますか……」


「それから……」


 マリアの声のトーンが落ちる。


「明日は()()()ですからね……」


「ああ……」


 アイリスも思い出したように声のトーンが落ちる。

 そして対価である3時間の勉強を終えてマリアは精霊界へ帰っていった。

 明日の準備を終えて布団に入るアイリス。相変わらず寝つきはよく数分で寝息を立て始める。そして日付は変わり学院2日目、()()()を迎える。



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