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【完結】日曜日のアイリス  作者: 早坂凛
第十二章 解け始めた過去
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133話 浮かび上がる事実

 進路相談から1週間程経過したある日。


「アイリスさん」


 廊下でシャロンに呼び止められる。


「はい、なんでしょう?」


「これを」


 シャロンから洒落た封筒を手渡される。


「セシリアさんからの手紙です」


「おおー!! セシリアちゃんから!?」


 アイリスは嬉しそうに手紙を受け取る。


「返事を書いたら私に渡していただけますか? また届かないと困りますからね。学院関係の書類と一緒に機密郵便で発送致しましょう」


「ありがとうございます! また書いたら持ってきますね!」


 そう言うとアイリスは小走りに立ち去る。


 アイリスは以前、セシリア宛てに手紙を書いたことがあった。セシリアがエヴァンリッジ魔法魔術学校にいることは知っていたが、彼女の住まいまでは知らなかった。故にエヴァンリッジ宛てに手紙を出したが、宛先不明で返送されてきた。当然だ。実際にはセシリア・グリーングラスという生徒はエヴァンリッジには存在しない。いつまでも手紙が届かなければアイリスとて不審に思う。エヴァンリッジに直接問い合わせをされたりすれば面倒なことになるので、シャロンが手紙を捏造しアイリスに手渡したのだ。


 アイリスの後ろ姿を見送るシャロンに小さな影が近づいてきた。


「いやはやマスターもお人が悪い。手紙(あんなもの)わざわざ用意する必要もないでしょうに」


 シャルロットはシャロンの行いに懐疑的な目線を受ける。


「いいえ、少し確かめたいこともあったので」


「ほお? まだあの小娘に何かあるのですか?」


「何かどころではありません。彼女はやはり我々にとって重要な存在になるでしょう。彼女の身辺には一層気を配って下さい」


 そう言い残すとシャロンはローブを翻し、どこかへ歩いて行った。



 その夜、アイリスは自宅でセシリアからの手紙を読む。手紙にはエヴァンリッジでの近況や、アイリスや学院の皆の様子を気にするなど、()()()()()()()内容が書かれてあった。


「セシリアちゃん……元気にやってるみたいですね」


 アイリスはセシリアと過ごした日々を返す。一緒に過ごした時期は数ヶ月と短かった。だが、アイリスには濃厚な日々だった。ふと、彼女を想い言葉が溢れる。


「セシリアちゃん……会いたいですね……」


 寂しさ、悲しさに似た感情をアイリスは抱く。


「さて、お返事を書かなくてはいけませんね!」


 アイリスは新しい便箋を用意して返事を書き始めた。


「お嬢様、夕食の用意ができました」


「あ、はい。すぐに行きますね〜」


 夕食を終えると、すぐに返事の続きを書こうと席を立つ。その瞬間アイリスの頭に霞がかかる。


「お……おや?」


 アイリスは目眩のような感覚を覚えた。だが、その感覚もすぐに治まる。


「お嬢様いかがされましたか?」


「いえ、問題ないですよ」 


「そうですか。入浴の準備ができていますが、もうお入りになられますか?」


「う〜ん……そうですね! 入ってしまいましょう!」


 マリアの言葉に従い、入浴を済ませる。そして対価の勉強の時間を終える。0時を回り、マリアが精霊界へ帰っていくのを見届けてベッドに入る。翌日カルナに叩き起こされ学院へ向かい、いつもと変わらない1日を過ごす。そんな日常が何日か続く。その間にアイリスがセシリアへ手紙を書くことはなかった。


「おや? これは……」


 マリアが部屋の掃除中にセシリアからの手紙を見つける。そして書きかけの返信用の便箋も一緒にあった。


「まさか……まだ……?」


 マリアは手紙を持ったまま表情が固まる。そしてこれみよがしに手紙を机のど真ん中に広げる。アイリスが帰ってくれば間違いなく、その存在に気づくように。


「ただいま帰りました〜!」


「お帰りなさいませ」


 アイリスが学院から帰って自室に入る。


「おや?」


 アイリスは机の上に広げられた手紙に気づく。手に取り中身を読む。


「おおー! セシリアちゃんから貰った手紙ですね! 引き出しにしまっておきましょう。これは……別にいらないですね」


 セシリアからの手紙を引き出しにしまい込み、自身の書きかけの返信は丸めてゴミ箱に捨ててしまう。どうやら返事を書く気はないようだ。

 


「アイリスさん、お手紙は書けましたか?」


 シャロンがアイリスに手紙について尋ねる。


「いえ? 特に書いてませんが?」


「……そうですか。ならよいのです。では」


 シャロンは違和感の残るアイリスに気づきながらも指摘するようなことはしなかった。しかし先日の個人面談の後で立てた推論は確信へと変わりつつあった。







「こちらです」


「ありがとうございます」


 その夜。学院長室でシャルロットから、複数の魔法陣で厳重に保管された報告書を受け取り目を通す。

 そこにはアイリスの両親についての記述があった。


 リリィ・アンフィールド

 XX年。魔力欠乏症にかかりセントラルの医療機関へ入退院を繰り返す。同年XX月XX日、セントラル某所にて何者かに殺害される。そばにいた娘アイリスは気を失った状態で発見されるも外傷はなし。母親の殺害についての記憶はなし。


 ジーク・アンフィールド

 母親の死からXX年後。妻リリィの死が原因で徐々に精神を病んでいく。またアンフィールド社の研究施設の私的利用を繰り返し、自社に大損害を負わせ経営は悪化。XX年XX月XX日セントラル某所にて何者かに殺害される。第1発見者は娘アイリスであった。アイリスは父親の死の瞬間に立ち会うも、犯行の瞬間は見ていないと証言。また父親の死を目にしながらも、あまりに淡々とした態度から精神鑑定を行うも異常はなし。


 捜査概要

 亡くなったふたりは剣術、魔法の有数の実力者であり、通り魔的な犯行ではなく、手練れによる計画的な暗殺だと推測された。ジーク・アンフィールドは会社経営者であったことから容疑者は多方面の人物が捜査線に浮上したが決定的な人物はいなかった。

 また娘アイリスは特異な魔力の持ち主であり、過去に魔法事故を複数回起こしていた。そのため両親の死は娘アイリスの魔力暴走による事故死という見方もあったが確証と呼べるものがなく、両親を失った娘の心情を鑑みると彼女に対する取調べは行われないことになった。


 報告書を読み、シャロンは顔を上げる。


「先日の面談では確信が持てませんでしたが、今回の件で確信致しました。彼女の記憶は何者かによって改竄されています」


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